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九 金津正直と小河愛平

 敵はぞくぞくと侵入してくる。


 誰かが叫んだ。

「皆の者!ここからは名だたる信長のお小姓衆の首取り合戦じゃ!」


 今度は槍と刀で敵は繰り出した。弓手に手柄を渡すわけには行かぬ。槍が少年に突き刺さり横の者が首を切り落とす。


 年端もいかぬ彼らと、甲冑に槍太刀を携え、数々のいくさに生きてきた男達との実力の差は天と地ほどもあった。


 幼い者達への虐殺の地獄であった。


小河愛平おごう・あいへい、お相手いたす。いざいざ!」

 甲高い声に相手の武士は哀れを催した。先の赤拵えの武士もののふだった。


金津正直まさなおと申す。いざお覚悟を!」

 若干、十二歳の愛平は教わった通りの名乗りと、古武道の組太刀の形を取った。幼い腕で右上方に二尺の刀を振り上げ、さらに後右下にまで切っ先を落とす。力を貯めて刀を前に返し右足を踏み込む。えいやという幼い叫声。だが、正直は刀も抜かず動こうとしない。

「旦那様!」

 横に控えていた従者がたまらず槍を出した。

 素槍は飛び込んできた愛平の胸を貫いた。短い断末魔の声。父母のここにおらぬのがせめての幸せか。

 愛平は刀を落としその場にぺたんと膝を突いた。息が出来ず血で咽せていた。

「旦那様!早くとどめを!それが慈悲じゃ!」

 茫然としていた鎧武者ははっと目覚めた様に体を震わせ、その腰の太刀を抜いて愛への横に歩んだ。


「おお!金津殿!お手柄じゃな!」

 後から堂に入ってきた武者がなじるように言って、信長を求めて通り過ぎた。

「愛平殿!お覚悟!」

 虐められて泣き出した様な愛平の横顔が、苦しみのためか俯いた。その頬に涙の筋が。正直の太刀は首の皮を残し、愛平の首を斬った。

 正直は崩れた愛平の体を仰向きに寝かせ、首をもとの位置に戻した。


 正直は愛平の死に顔を見ながら泣いた。


「我が先主の朝倉義景公と愛王丸様の仇と討ち入れば、斯様な子供の首を取らねばならぬとは!南無阿弥陀仏」


 朝倉義景は元亀四年(1573)に信長に愛児、愛王丸とともに一族を皆殺しにされた。

 正直とその従者は骸を拝むとそのまま宿坊を離脱した。正直は後に細川家に伺候し、光秀の娘ガラシャと関ヶ原の合戦の前夜に運命を伴にする。何という悲しき武士よ。


 この時代にはこのような真の武者むさがうようよといたのだ。



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