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六 赦し

 六 赦し


 信長は濃姫とともに、宿坊の最も奥にある戸板で仕切られたる大部屋に入った。


 住持が籠もり断食修行をする場である。信長の指示により厨房から油の樽が運び込まれた。戸板は厚い板に黒い金具で補強され、中から鍵が掛かるようになっている。

 住持以下の僧達はすべて本坊戒壇の前に集まり、法華の読経をはじめていた。逃げようとすれば明智側に殺される。何故なら、十数名の寺警護の僧兵が自分達は関わりがないと裏手から逃れようとした。しばらく経つと塀の外から彼らの首が投げ込まれたのだ。


 読経をすることがそれを逃れる可能性のある唯一の方法であろう。しかし寺の堂塔がすべて焼き討ちされればすべて死ぬ。比叡の御山の様に。このたびはその時信長に反対した光秀によって。


 南無妙法蓮華経。


 一心の読経の声が地から湧く唸りのように聞こえる。


 その声の中、信長と濃姫は板戸の間で現世での別れを惜しんだ。

「濃・・・いや帰蝶。儂を恨んでおるか?」

 信長の問いに帰蝶は首を振る。

「父、道三が真顔をして尾張のうつけの嫁になれと言った時のことを思い出します・・・それからというもの、恐ろしい鬼と優しい童が一緒になった方と分かりました。おもしろう御座いました」


 信長は久々に濃姫を懐きその髪の匂いを吸った。帰蝶は揶揄するように囁いた。

「今でも乱殿に嫉妬をいたしておりますよ」


 乱丸以下二十名の小姓はその部屋の前で身支度をしていた。袴の腿立ももだちを取りたすき鉢巻きを結ぶ。


 濃姫が出てきた。

「わらわも戦うことにしました。御屋形様の代わりです。御屋形様はそうしたくとも首をむざむざやりたくないので出来ぬと」


 蘭丸は聞いた。

「では、御屋形様は今・・?」

「神仏と話されております。はじめて神仏の小言を聞くことになった、と笑っておられました。・・・お乱様とお小姓の方々に武勲の誉れをと・・・」


 濃は乱丸の額に手を触れた。二人はしばらく見つめ合ったが、そのお互いの恐れのない目の中で、帰蝶は赦し、乱丸は許され。



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