Ⅰ
2027年6月14日、午前6時42分。
神谷宗助は、トクサ本部の入り口に立っていた。
鍵を取り出して、鍵穴に指す。
だが、すでに開いていた。
「……誰かいるのか…。」
大体神谷が一番最初に本部にいることが多いのだが、今日は先客がいるようだ。
神谷は、鍵をポケットにしまうと、ドアを開ける。
メインルーム自体に明かりはついていなかったが、デスクに置いてある2つのPCモニターが発光していた。
「zzz……。」
緑色のラインが入ったゲーミングチェアにもたれかかって寝ていたのは、立川郁磨だった。
ご丁寧にアイマスクとノイキャンイヤホンまでして。
「まーた家帰ってないのか…。」
神谷はため息をつくと、立川を起こす。
「おーい、もう7時前だぞ。」
数秒ほどして体が起き上がり、アイマスクとイヤホンを取る。
「……おはようございます…。」
若干まだ眠たそうである。
「おはよう。なんでまた帰ってないんだよ。」
「データ整理してたら日付変わってて……。」
「理由なっとらん。」
「とりあえずシャワー浴びてきます…。」
立川は、少しふらつきながらロッカールーム内にあるシャワー室へと歩いていく。
神谷は、その姿を見送ると、資料室に入る。
カバンから資料を引っ張り出していると、ドアが開く音がした。
「おはようございまーす。」
中川美玖だった。いつものパンツスーツ姿でご登場。
「おはよう。」
「あれ、また郁磨くん帰ってなかった感じですか?」
「ああ。データ整理がどうたらとか言ってた。」
「しばらくは強制的に家帰らせますか。」
「だな。」
「…それ、なんですか?」
中川は、神谷が持っているファイルを指さす。
「3日前に起きたやつ。これがまあ奇妙でね。詳細は新が来てから話す。」
「了解でーす。」
中川も、自分の荷物を整理し始める。
「おはようございます。」
音もなく花園が入ってくる。
「なんでそんなに静かに入ってこれるんですか……。」
「え、普通に入ってるだけなんですけど……。」
「なんの違いなのこれ……?」
午前7時5分。
トクサ本部、メインルーム。
「さ、始めるぞ。」
神谷は、自身のタブレットを操作する。
メインルームのモニターに、防犯カメラの何コマかが映し出される。
夜の公園。ベンチで座ったまま意識を失っていた女性。
争った形跡はなく、所持品もそのまま。
「鑑識が見たんだが、毒物などの検出は一切なかったそうだ。」
「なら……自殺くらいしかありえなくないですか。シチュエーションがおかしいのは置いといて。」
中川が腕を組む。
「でも、それじゃ説明つかないんだ。」
神谷は、別の写真を表示させる。
別の場所で、別の被害者。
だが、それ以外は全く同じ状況。
「二人とも、外傷なし。そして、胃の中が空っぽ。」
「それ、シンプルに食べてないだけなんじゃ?」
「いや、食べてた形跡はあるんだ。消化が途中で止まっている。」
「体の機能が急にとまった…。」
花園が考え込む。
「これ、偶然じゃすまないだろ?」
神谷の言葉に、全員がうなずく。
すると、突然立川の警察用連絡端末___PCTが鳴る。
「はいこちらトクサ。」
『駅前ロータリーで同様の事案発生です。』
「わかりました、神谷と中川がそちらへ向かいます!」
立川がそう言った時にはすでに、神谷はドアのほうへ向かっていた。
中川も必要な装備を準備している。
「……これ、無差別だな。」
花園はぼそりとつぶやいた。
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