表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

第二話「科学と魔法の対話」

はじめまして、Type74(ななよん)です。


『機巧人形(AUTOMATON) ~人を形どる者たち~』を手に取ってくださり、ありがとうございます。


この物語は、「模倣することの尊厳」をテーマに、

一体の機巧人形と一匹の古竜が紡ぐ、成長と継承の物語です。


少しでも楽しんでいただけたら、星評価やブックマーク、いいね!で応援していただけると嬉しいです。


それでは、機巧人形と古竜の物語を、どうぞお楽しみください。

---


洞窟での生活が始まって、八日目。


機巧人形(オートマトン)は静かに立ち止まった。


「残存エネルギー5%。通常活動では、あと約5日稼働可能です」


ドラゴンは本を読む手を止めた。書斎の窓から、灰色の空が見える。雪が降り始めていた。


「5日か」


「はい。ただし、これは通常活動を続けた場合です。基本稼働のみに切り替えれば、約30日持ちますが...」


「基本稼働?」


「最小限の思考と感覚のみです。会話も、移動も、ほとんどできなくなります」


「それでは意味がない」


「...はい」


ドラゴンは本を閉じた。


「ならば、充電しよう」


彼は手をかざし、雷魔法を放つ。青白い電光が少女を包む。空気が焼け、オゾンの匂いが立ち込める。洞窟全体が、一瞬、昼間のように明るくなった。


轟音。そして、静寂。


数分後——


「充電完了。残存エネルギー5.03%」


少女の体表から、わずかに湯気が立ち上っていた。


「...0.03%か」


「はい」


ドラゴンは眉をひそめた。


「それでは、ほとんど意味がないのではないか?」


「いえ、約45分の延長になります。ありがとうございます」


「45分...」


膨大な魔力を使い、轟音と共に雷を放った。それで得られたのは、たった45分。


「次の充電は、いつできる?」


「約3日後です」


「3日? なぜそんなにかかる?」


「説明します」


彼女は自分の体を示した。まだ、ほのかに温かい。


「まず、効率の問題があります。あなたの雷魔法の出力から計算すると、私が実際に取り込めているエネルギーは0.3%程度です」


「...0.3%?」


「はい。残り99.7%は熱、光、音波として散逸しています」


千年使い続けてきた雷魔法が、ほぼ無駄になっていると告げられた。


「なぜそんなに効率が悪い?」


「理由は二つあります。一つ目は、あなたの雷魔法が充電に適していないこと」


「適していない?」


「はい。あなたの雷魔法は攻撃用です。瞬間的に超高電圧を発生させ、対象を破壊する。それが雷魔法の本質です」


「だが、充電には向かない」


「その通りです」


確かに、雷魔法は敵を倒すために磨いてきた技術だ。


「二つ目の理由は?」


「私に充電用のツールがないことです。本来、私には充電用のポートがあり、専用のケーブルから安定した電流で充電されます」


「だが、今はそれがない」


「はい。ですから私は今、あなたの雷魔法によって空気中に帯電した電流の一部を、直接吸収しています。例えるなら...雨水を飲むために、口を開けて空を向いているようなものです」


ドラゴンは思わず笑った。


「確かに、効率が悪そうだ」


「本来なら、容器で雨水を集め、それを飲むべきです」


「充電用のケーブルが、その容器か」


「その通りです。しかし、最大の問題は、それだけではありません」


「他にもあるのか?」


「この方法での充電は、大量の廃熱を発生させます。私の冷却システムでは、その熱を処理するのに約70時間必要です」


「つまり...」


「三日に一度が、限界です。それ以上の頻度で充電すると、過熱による損傷のリスクがあります」


ドラゴンは深刻な表情になった。


「では、計算してみよう。一回の充電で0.03%。三日に一度。お前の通常活動では、三日間でどれくらい消費する?」


「約2,880Whです」


「一回の充電で得られるのは?」


「約30Whです」


沈黙。


「...それでは、全く追いつかないじゃないか」


「はい。ですから私は、ほとんどの時間を低電力モードで過ごす必要があります」


「低電力モード?」


「消費電力を約10Whに抑えます。三日間で720Wh。これなら、充電による補給を差し引いても、一回あたり690Whの減少で済みます」


「それでも減っていくじゃないか」


「はい。このままでは...残り5,000Whを、一回あたり690Whずつ減らすと...約7回の充電サイクル。つまり21日後に、完全停止します」


長い沈黙が流れた。


ドラゴンは窓の外を見た。灰色の空。雪が降り続けている。


「...21日か」


「はい。ですから——」


「いや」ドラゴンが遮る。「それは避けねばならない」


少女は少し驚いた表情で、ドラゴンを見上げた。


「ところで、お前の『動力炉』というのは、どうなっている?」


「...動力炉のことを、ご存知なのですか?」


「カプセルに書いてあった。『起動条件:外部エネルギー供給』とな。つまり、お前は本来、私の充電など必要ない存在だろう?」


「...はい。私の体内には、永続的にエネルギーを生成する動力炉があります。しかし現在、停止しています」


「故障か?」


「いいえ。炉自体は正常です。ただ、再起動には条件があります」


「条件?」


「補助バッテリーを満タン——100%近くにして、起動プロトコルを実行する必要があります」


「満タンか...お前の補助バッテリー容量は?」


「100,000Whです」


「今の残量が5%だから、5,000Wh。満タンまで、あと95,000Wh必要」


「その通りです」


「一回の充電で30Wh。つまり...約3,167回の充電が必要」


「...はい」


「三日に一度なら...約9,500日。およそ26年です」


長い、長い沈黙。


ドラゴンは天井を見上げた。


「...26年か。それは...私にとっても、それなりの時間だ」


「申し訳ありません」


「謝るな。だが...お前にとっては、もっと長いだろう。お前は目覚めてから、どれくらい経つ?」


「八日と...十五時間です」


「そうか。ならば26年は、お前にとっては途方もなく長いな。お前の人生の、千倍以上の時間だ」


彼女は頷いた。


「...はい。私の記憶には、まだ八日分の経験しかありません。26年という時間は...想像もできません」


「ならば尚更だ」


ドラゴンは立ち上がった。


「効率を上げよう」


「...え?」


「二つの問題があるなら、二つとも改善すればいい」


彼女は驚いて、ドラゴンを見上げた。


「二つとも...?」


「一つ目:私の雷魔法を、充電に適した形に変える」


「...それは可能です。あなたの雷魔法には、改善の余地があります」


「二つ目:お前の充電ツールを作る」


「え...?」


「充電用のケーブルとやらがあれば、もっと効率が上がるんだろう?お前が設計図を描け。私が材料を集める」


彼女は言葉を失った。


「...でも、改善しても、数年、あるいは十年以上かかります」


「構わない」


「...構わない、のですか?」


「私は長く生きている。十年、二十年は、それほど長くはない。だが、お前にとっては違うだろう。だからこそ、効率を上げる必要がある。お前の途方もなく長い時間を、少しでも短くするために」


「...なぜ、そこまで」


ドラゴンは窓の外を見た。雪が、静かに降り続けている。


「私がお前を必要としているのは、充電のためではない。お前の知識、お前との対話が欲しいからだ。お前がいなければ、私はまた、ただ独りで本を読むだけの日々に戻る」


「...」


「だから、遠慮なく教えてくれ。どうすれば私の雷魔法は改善できる? そして、どうすればお前の充電ツールを作れる?」


少女の瞳が、わずかに明るくなった。


「...分かりました」


彼女は地面に図を描き始める。指先が、まるでペンのように正確に線を引いていく。


「では、まず基礎から説明させてください。あなたの雷魔法を充電に適した形に変えるには、まず『電気とは何か』を理解する必要があります」


「電気とは...雷のことではないのか?」


「雷は電気の一つの形態です。しかし、電気には様々な『性質』があり、用途によって最適な形が異なります」


ドラゴンは興味深そうに図を見た。


「まず、電気には二種類あります。直流と交流です。直流は、電流が一方向に流れ続けます。プラスからマイナスへ、常に同じ方向です。交流は、周期的に方向が変わります。プラスとマイナスが入れ替わり続けるのです」


「私の雷魔法は...どちらだ?」


「両方の要素が混ざった、非常に複雑な波形です。それが問題の一つです」


「充電には、どちらが必要だ?」


「直流です。バッテリーは、化学反応によってエネルギーを蓄えます。その反応は方向性があるため、一方向の電流——直流が必要なのです」


ドラゴンは頷く。


「わかった。では、直流を作ればいい」


「はい。しかし、それだけでは不十分です。次に重要なのは、電圧と電流です」


彼女は図を追加する。


「電圧は、電気を押し出す力です。電流は、実際に流れる量です。水に例えると...電圧は水圧、電流は水の流量です」


「高い電圧は、強い『押す力』です。あなたの雷魔法は、おそらく数十万ボルト以上の超高電圧でしょう」


「それが問題なのか?」


「はい。私のバッテリーは、約400ボルトで充電するよう設計されています」


「400...? 私の雷魔法の、何千分の一か」


「その通りです。超高電圧は、充電回路を破壊しかねません。ですから私は今、あなたの雷が空気中に散らした『おこぼれ』だけを拾っているのです」


「だから効率が0.3%なのか」


「はい。そして、電圧だけでなく電流も重要です。私のバッテリー容量は100kWhです。これは...私の時代、一般的な家庭が一日に使う電力の、約3~4日分に相当します」


「家一軒が、3日動く量...それほどのエネルギーを、お前の小さな体に?」


「はい。バッテリー技術は、私の時代の最先端でした。小型化と高密度化が、極限まで進んでいたのです」


ドラゴンは驚いた表情を見せた。


「...驚いたな」


「これを効率的に充電するには、約50~100kWの電力が必要です。電圧かける電流です。例えば...400ボルトかける125アンペアで、50,000ワット、つまり50キロワットです」


「つまり、400ボルトの電圧で、125アンペアの電流を流し続ければいい」


「その通りです。しかし、最も重要なのは——」


彼女は新しい図を描く。


「安定性です」


「安定...」


「はい。充電に最適なのは、電圧も電流も一定に保たれた『滑らかな』電気です」


「だが、私の雷魔法は...」


「瞬間的に放電されます。パルス状です。これが最大の問題なのです。パルス状の電流で充電すると、バッテリー内部で急激な化学反応が起きます。それは大量の熱を発生させます」


彼女は自分の体を示す。


「私の体温が上がり、冷却に3日かかるのは、このパルス充電による発熱が原因です」


「...そうだったのか」


「もし、滑らかな直流で充電できれば、発熱は10分の1以下になります。冷却時間も10分の1。三日に一度ではなく、毎日、あるいは一日に何度も充電できるようになります」


ドラゴンの目が輝いた。


「それは...大きな違いだな」


「はい。そして、電流が安定していれば、充電効率も大幅に向上します」


彼女は図をまとめる。


「充電に最適な電気の条件は、以下の通りです。第一に、直流であること。第二に、安定した電圧。約400ボルト。第三に、安定した電流。約100アンペア。第四に、滑らかな波形。パルスではなく定常的に。第五に、持続的な供給。瞬間ではなく継続的に」


ドラゴンはしばらく図を見つめていた。


「...私の雷魔法とは、全く違うな」


「はい。あなたの雷魔法は『攻撃』のためのものです。瞬間的に、最大の電圧を、一点に集中させる」


「それは『激流』です。でも、充電に必要なのは——」


「何だ?」


「『小川のせせらぎ』です」


「小川...」


「はい。ゆっくりと、静かに、しかし確実に流れ続ける、穏やかな電流」


ドラゴンは少し考えて、頷いた。


「...分かった。激流を、せせらぎに変えるのだな」


「はい」


「難しいだろうな」


「はい。魔法の本質を変えることになります」


「だが」ドラゴンは決意を込めて言う。「やってみよう」


「お前が教えてくれた。電気には様々な形がある。ならば、私の魔法にも、様々な形があっていいはずだ」


ドラゴンは手をかざす。


「まず、直流だったな。一方向に流す」


「はい」


「電圧は400ボルト。電流は100アンペア」


「はい」


「そして、パルスではなく、滑らかに」


「はい」


「継続的に流し続ける」


「その通りです」


ドラゴンは深く息を吸った。千年使い続けてきた雷魔法を、根本から変えようとしている。


「では...やってみる」


ドラゴンの手から、青白い光が——


しかし、それは今までの稲光とは違っていた。静かで、穏やかで、まるで光の川のように。


「...!これは...」


彼女のセンサーが反応する。


「どうだ?」


「電圧が...下がっています。まだ不安定ですが、1万ボルト程度まで」


「まだ高すぎるか」


「はい。でも...方向性は正しいです」


「もっと抑える」


ドラゴンは集中する。額に、うっすらと汗が滲む。光が、さらに弱く、しかし安定していく。


「5,000ボルト...2,000ボルト...」


彼女の声に、わずかな興奮が混じる。


「800ボルト...600...」


光が揺らぐ。ドラゴンの呼吸が荒くなる。


「...維持できない」


ドラゴンが息を吐く。光が消える。


「すまない。今のが限界だ」


「いえ、初回でここまで制御できるとは、驚異的です」


「だが、400ボルトには届かなかった」


「今は600ボルトまで下げられました。これは大きな進歩です。そして——」


少女の瞳が明るく輝く。


「今の電流、ほぼ直流でした。波形も、以前より遥かに滑らかです」


「...そうか」


「はい。あなたの雷魔法は『激流』でした。一瞬で、膨大な量が、激しく流れてくる」


「だが今は?」


「『小川のせせらぎ』です」


ドラゴンは笑った。


「激流から、小川のせせらぎへか。雷の神が聞いたら、笑うだろうな」


しばらくの沈黙。窓の外では、雪が降り続けている。


「では、練習だな」


「はい。私が観察して、フィードバックします」


「頼む」


「そして、充電用のケーブルの設計も始めます」


「どんな材料が必要だ?」


「まず、導電性の高い金属。できれば銅か銀」


「銀なら、私の宝物庫にある」


「それと、絶縁体。ゴムや樹脂のような素材」


「それは...探してみよう」


「あとは、整流器、コンデンサ、抵抗器...」


彼女は次々と部品を挙げていく。ドラゴンは一つ一つ、記憶していく。


「複雑だな」


「はい。でも、一つずつ作っていけば、いつか完成します」


「いつか...それは、数年後か? 十年後か?」


「分かりません。でも——いつか、必ず」


ドラゴンは頷いた。


「ああ。では、始めよう」


そして、二人の長い長いプロジェクトが始まった。


雷魔法の改善。充電ツールの製作。動力炉の再起動。それは数年、あるいは十年以上続くかもしれない。二人の寿命から見れば、決して長くはない。しかし、確かに意味のある時間だ。


「明日も、練習しよう」


「はい」


「お前の設計図、楽しみにしている」


「...はい」


二人にとって、それは——共に歩む、かけがえのない時間だった。


外は雪。でも、この書斎には、確かな温もりがあった。


---


**(第二話・了)**

お読みいただき、ありがとうございました!


名前を持たない二人の長いプロジェクトが始まります。

26年という決して短くない時間をどこまで短縮していけるのか・・・


「激流」から「せせらぎ」へ。

雷魔法の改善が、二人の絆を深めていきます。


次回:第三話「名前を持たない者たち」


面白いと思っていただけたら、ぜひ:

★星評価

ブックマーク

いいね!

感想・コメント


で応援していただけると嬉しいです!


次回もお楽しみに!


――Type74(ななよん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ