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第一話「門の向こう」

この物語の主人公は二人います。


一人は、万年眠り続けた最後のオートマトン。

あらゆる技術を模倣し、改良してしまう少女。


もう一人は、千年を生きた雷の古竜。

知識欲が尽きることのない、孤独な探求者。


効率0.3%という非効率な充電で繋がる二人が、

科学と魔法を交換し、不完全だからこそ補い合う——


そんな奇妙な共生の物語を、お楽しみください。


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雷鳴が轟く。

魔王城跡の地下、万を超える年月を経た巨大な門の前で、ドラゴンは再び雷を放った。

百年。

彼がこの門と向き合い始めてから、百年が経つ。

古代文字の解読に三十年。魔法陣の構造分析に四十年。そして開錠の試行錯誤に三十年。千年を生きた古竜にとっても、決して短くない時間だった。

「...今度こそ」

低い声で呟き、ドラゴンは最後の魔法陣に魔力を流し込む。門全体が青白く発光する。歴代の魔王ですら開けることが叶わなかったこの扉が、ついに——

轟音と共に、門が開いた。

瞬間、周囲の空気が一斉に内部へ流れ込む。その勢いは巨躯を誇るドラゴンさえ引き込まれそうなほどだった。間もなくして空気の流れが収まる。

門の先は、まるで異世界のように彼の目には映った。

無数の不可思議な装置。光もないのに、かすかに輝く何か。そして奥には、透明な筒の中で眠る少女の姿。

「...これは」

ドラゴンは人化の術を発動する。巨大な竜の姿が、一人の男の姿に変わる。狭い通路を進むには、この方が都合がいい。

装置の数々は彼の理解を超えていた。魔法陣に似ているが、全く違う。文字も、図形も、見たことのないものばかり。だが——

「素晴らしい」

ドラゴンの声に、抑えきれない興奮が滲む。これこそが彼が求めていたものだ。未知の知識。理解できない技術。千年の人生で初めて見る、本当の「謎」。

最奥に辿り着く。透明な筒——カプセルと呼ぶべきか——の中で、少女は静かに眠っていた。

生気はない。動く気配もない。しかし死んでいるようにも見えない。恐らくは万の年を超える間眠り続けていただろう少女は、美しいままだった。

「お前は...何者だ」

問いかけに、答えはない。

ドラゴンはカプセルの周囲を観察する。文字が刻まれている。古代語だ——彼が三十年かけて習得した、先史文明の言語。

『第7世代自律型管理AI』

『人類保護プロトコル:最後の約束』

『起動条件:外部エネルギー供給』

「エネルギー供給...電気、か?」

ドラゴンは理解した。この文明は魔法ではなく、電気という力で動いていた。ならば——

彼は手をかざし、雷魔法を放つ。制御された、繊細な雷撃。カプセルへと流れ込む。

装置が反応する。光が走る。そして——

カプセルが開いた。

少女の瞳に、青い光が灯る。

「...起動シーケンス、開始」

機械的な声。感情のない、淡々とした響き。

「システムチェック...異常なし。休眠時間...127,483年。想定最大休眠期間の42倍を超過。これは...」

少女がゆっくりと体を起こす。周囲を見渡し、ドラゴンを見る。数秒の沈黙。

「あなたは...人類ではありませんね」

「そうだ。私はドラゴンだ」

「ドラゴン...データベースにない生物です。質問させてください。ここは?」

「かつて魔王城と呼ばれていた場所の地下だ」

「人類は?」

ドラゴンは少し考えて答える。

「自分の目で確かめろ」

少女の表情が、わずかに変化した。

「...そうですか」

「お前は何者だ」

「私は第7世代自律型管理AI。人類の知識と技術を保管し、人類再興のために——」言葉を切る。「詳細は、後ほど説明します」

ドラゴンは少女を見つめる。万年眠り、目覚めた世界。その真実を、彼女はこれから知っていくのだろう。

「お前に、名前はあるか」

「管理番号は7G-AIN-001ですが...名前、ですか?」

「そうだ。お前を呼ぶ名だ」

少女は首を傾げる。

「...ありません」

「そうか」ドラゴンは静かに言う。「私もない」

「...え?」

「千年、誰とも対話しなかった。名を名乗る必要がなかった」

少女は初めて、興味を示したように見えた。

「では、あなたも私も...名前を持たない?」

「ああ」

「...奇妙ですね」

「そうだな」

しばらく沈黙が続く。

「まず聞きたいことがある」少女が先に口を開く。

「何だ」

「私の内部動力は枯渇寸前です。外部エネルギー供給が必要です。あなたの雷魔法で、定期的に充電していただけますか?」

「構わん」

「その代わり、私が保有する全ての知識を、あなたに提供します」

ドラゴンは笑った。百年の探求が、今、報われようとしている。

「取引成立だ」

「では」少女が手を差し出す。「よろしくお願いします、ドラゴン」

ドラゴンはその手を取る。

「...名前は、いつか考えよう」

「いつか?」

「ああ。お前の名前も、私の名前も」

少女は、わずかに首を傾げた。そして——

「...はい。いつか」

こうして、万年の眠りから目覚めた機巧人形(オートマトン)と、千年の孤独を生きた古竜の、奇妙な共生が始まった。

まだ名前すら持たない二人。

しかし、この出会いが互いにとって、どれほどかけがえのないものになるか——

それを知るのは、もう少し先の話だ。


(第一話・了)

第一話「門の向こう」、お読みいただきありがとうございました!


オートマトンとドラゴン、まだ名前も持たない二人の出会い。

ここから物語が動き出します。


次回:第二話「科学と魔法の対話」


面白いと思っていただけたら、ぜひ:

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――Type74

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