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Side-B


「すげえ」


「流石です勇者様」


「あなたならできる」


「応援してます」


 俺にとってこれらのセリフはいつだってくだらないものだった。



 逃げるように出てきた村外れの小さな家。丘の上の美しい桜の木が目立ったその地から、俺は周辺諸国最大の国ラウモアの首都、ラモアータへ向かった。とりあえず都会へ向かえばなんとかなるのでは、そんな淡い期待を持って。


 しかしその期待はすぐに崩れた。そう、ラモアータに入れなかったのである。城塞都市であるラモアータへは市民か商人であるか、国王が発行した許可証を持つ客人でない限り入ることすら叶わなかったのだ。

 しかし俺はそのときとにかく中へ入ることに必死だったために、警備の手薄な場所からの強行突破に打って出た。見張りが二人ほど居たが、しばらくの間眠って貰ったのだ。手刀で。


 まあその後は便利屋のようなことを続けた。

 育ての親は厳しかったから、俺は人一倍強くなっていたようだ。魔物の駆除から飲食店の手伝いまで、なんでもやった。読み書きや算術を習っておいて良かったと初めて思った。


 そうして俺が街の人達に一目置かれるようになって、人気者になるところまでは予想通りだったが、国王様からの呼び出しがかかったと聞いた時は流石に驚いた。


 国王様の用件は魔王の討伐依頼だった。


 それからはもう、とんとん拍子に事が進んだ。国で一番の僧侶、戦士、魔法使いが集められ、俺はそいつらと共に旅へ出た。

 そうして魔王城へと向かったのだが、この旅が思ったより過酷だった。北へ進むにつれて、敵は強大になっていった。街は消え、点在する村々も殆どが瓦礫と化していた。そういったものを見るたびに故郷を思い出して腹が立った。満身創痍になりながらも、俺たちは旅を続けた。この苛立ちが消えるまで、俺は止まらないと決めていたから。


 助けた人々は俺たちを称賛、或いは崇拝する。勇者というからにはその声に応えるべきだろうに、俺にはそのどれもがくだらなく感じた。


 僧侶は責任感の強い人だった。俺よりもずっと大人で、どこか達観していた。

 戦士は寡黙なドワーフで、捻くれた拘りがあって頑固だったものだからよく俺と対立していた。

 魔法使いは心優しい女性だったが、徐々に精神を病んでいった。

 そんな性格も目的もばらばらのパーティーに綻びが出るのは当然だった。

 それでも魔王城に至るまで、あの過酷な五大魔族との戦いなどといった数々の戦いをなんとか生き残って来たのは奇跡に近いだろう。


 一瞬の出来事だった。

 僧侶の祝福を受けた俺たちはドワーフ野郎の動き出しを合図に、散開する。

 前衛の攻撃に怯んだところを続いて、魔法使いが霧を発生させるとともに氷砲弾を撃つ。

 そして極め付けは俺が一撃。それで首を断ち、俺たちは勝利に至る。


 ーーはずだった。


 気づいた時には前衛の姿は無い。敵は咆哮を上げ、霧の向こうの魔法使いは既に首から上が無かった。僧侶は辛うじて致命傷を避けたようだが、こちらに駆けようとしたところで敵の炎射に包まれた。俺はというと、一歩も動かない。


 己の無力さを知った。

 それを知って初めて、気づいた。この苛立ちの理由を。師匠が決して触れなかったこの苛立ちの正体を。

 それは、自分自身に対する苛立ちだった。

 世界なんてたいそうな物じゃない。魔王でもない。

 何もできない自分に、苛立っていたのだ。

 俺はそんな自分自身への苛立ちを隠せないくらいには、子どもなんだ。

 そう気づいた瞬間、ふとジェミナの丘の上一軒家が恋しくなった。

 いつも通りに朝起きて、師匠と飯食って、畑を耕して、稽古して……。


 ああ。


「帰りたい」


 口に出すとそれは現実を伴って俺の耳に届く。

 師匠と温泉地に出かけたり。お花見をしてみたり。一日中作業やら修行やらで疲れ切った後に入る風呂なんて最高じゃないか。

 そしてよく、たわいもない話で彼女とは盛り上がった。

 そうだ。あの日々は俺にとって確かに辛かったけど、それを補って有り余るほどには幸せな毎日だった。


 どぉん、と言う音が否にでも思考を引き戻される。左手の感触が無かった。


 幸せだった日々。

 それに気づいたからと言って過去に戻ることはできない。


 俺はもう、"勇者"なのだから。


 だから俺は剣を握り直し、一歩を踏み締める。


「師匠、ごめん」


 実は約束、もう果たしてたんだ。


 スパイスの効いた師匠の作るシチュー。

 かつて俺には大人の味だと感じたそれを、少しだけ食べたくなった。




 その日生まれた伝説は、後に魔王城へと辿り着いた冒険者によって王国へ持ち帰られることとなるのだが、それはまた別の話である。








最後までお読みいただきありがとうございました!


今回の作品はその特性上、一気読みしてもらうと各話の繋がりが分かりやすいかなと思いましたので、毎日投稿の短期連載という形をとりました。


少しでも良かった、面白かった、と感じて頂けましたら、下の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えていただけると作者が喜びで飛び跳ねますのでよろしくお願いします。感想等もお待ちしております。本当に励みになっております。


そうそう、補足ですが、作中でエルフという種族が出てきますが、彼らは何千年も生きる長寿な種族だということになっています。正直不老不死に限りなく近いのでしょうが、果たしてそれは幸せと言えるのでしょうか。そのあたり、興味があるって人はフリーレンを是非。アニメ2期も始まりますしね。


これまた余談ですが「待ちわたる」とは古語で待ち続けるという意味で、このタイトルも結構気に入ってたりします。


それでは!


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