第8話「農園同盟、平和の芽吹き」
勇者と魔王の耕す畝
カボチャの大灯籠が畑を照らした翌日。
村人たちは信じられない光景を目にした。
勇者アルトが鍬を振り、隣で魔王が同じリズムで畝を耕している。
その姿は戦場で刃を交えた二人ではなく、ただの“農夫仲間”にしか見えなかった。
「……なあ、夢じゃねえよな?」
「魔王様が、泥だらけで……」
「勇者様と並んで畑仕事なんて……」
子どもたちは歓声を上げ、大人たちは言葉を失った。
だが、土の匂いと笑い声は確かにここにあった。
王国と魔族領の使者
その知らせは、瞬く間に王都と魔族領へ届いた。
双方から派遣された使者たちが、数日後には農園へやって来る。
「勇者アルト殿、そして魔王陛下……」
王国の老外交官は震える声で言った。
「もしや本当に、農園で共に暮らすおつもりで?」
魔族領の若い参謀も眉をひそめる。
「魔王様、これは我らへの裏切りでは……」
だが魔王は首を横に振った。
「裏切りではない。……余生を土に返す。それだけだ」
俺は鍬を立て、二人の使者に言い放った。
「なら、俺からも言っておく。ここで剣を振るうやつは誰であれ畑に拒まれる。勇者も魔王も関係ない」
麦の絆縄
その夜、新たな芽が畑に顔を出した。
黄金の麦。だが、束ねて編むとただの縄ではなく——人と人を結びつける絆縄となった。
試しに王国の使者と魔族の参謀の腕を軽く巻くと、互いの心の奥が映し出される。
怯え、憎しみ、だが同時に「戦を終わらせたい」という願い。
二人は驚き、目を見開いた。
「……私の心が、見える」
「お前も同じだったのか……」
絆縄はほどけず、やがて柔らかく光を放ち、二人の心を温めていった。
農園同盟の兆し
エリシア王女が立ち上がり、宣言する。
「勇者と魔王が共に耕す畑。ここを“農園同盟”の象徴といたしましょう!
両国は剣ではなく鍬を交わすことで、未来を育むのです!」
村人たちが歓声を上げる。
使者たちも絆縄を握ったまま、深く頭を下げた。
俺は大灯籠の光を見上げながら、肩の力を抜いた。
「……のんびりしたいだけなんだがな」
魔王が低く笑う。
「のんびりは、世界を耕す最も強い力だ」
次回予告:第9話「農園同盟、最初の試練」
農園同盟締結を阻む暗躍が始まる。
王国と魔族領の過激派が「畑を奪え」と結託。
新チート作物「トウガラシの警鐘」が危機を知らせる!
勇者と魔王、初めて肩を並べて畑を守る戦いへ……。




