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元世界最強の勇者、畑を耕すつもりが野菜が全部S級アイテム化してしまう  作者: 妙原奇天


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第7話「魔王、農園に現る」

 夕暮れの畑は、静かに風に揺れていた。

 その静寂を破るように、村の入り口に黒い影が立った。

 マントに包まれた大柄な男。赤い瞳は、夜を切り裂くように輝いている。


「……勇者アルト」


 その名を呼ぶ声に、畑の仲間たちが一斉に身構えた。

 リラは大根槍を握り、カイは鑑定札を取り出し、ミーナは水菜の鎖を腰に巻く。

 レオンは槍を横に構え、冷ややかに呟いた。


「……魔王だ」


畑に立つ魔王


 俺は鍬を肩に担ぎ、ゆっくりと歩み出た。

 かつて戦場で剣を交えた相手が、今はただ静かに土の上に立っている。


「よう。わざわざ来るとは思わなかった」


 魔王は赤い瞳を細めた。

「戦うために来たのではない。……就職希望だ」


「は?」

 農園メンバー全員の声が揃った。


魔王の望み


 魔王は畝の端に膝をつき、土を掬った。

 大きな手が震えている。

「……我が身は病に侵されている。魔族であれど、命の限りはある。

 貴様の畑の“治癒と真実の力”が必要なのだ」


 リラが叫ぶ。「ふざけるな! これまで何人殺したと思ってるんだ!」

 だが、ミーナが小さく震えながらも呟いた。

「……でも、畑は嘘を燃やす。もし彼が偽っていれば、もう燃えているはず……」


 確かに。魔王の周囲に白炎は上がらない。

 ——ニンニクの聖火は沈黙したまま。


 つまり、言葉は本心だ。


王国の動揺


 その頃、王都では報告が駆け巡っていた。

「魔王が農園に現れた!?」

「就職希望だと!? そんな馬鹿な!」

「勇者と魔王が共に畑を耕すなど、前代未聞だ!」


 議場は混乱し、貴族たちは叫び合う。

 だが王はひとこと。

「……畑に委ねよ。アルトと畑が決めるのだ」


農園での試し


 俺は魔王を見据えた。

「就職希望なら、まずは試験だ。畑は誰にでも耕させてはくれない」


 畝の一角に、カボチャが鈴なりになっていた。

 俺はひとつを指さす。

「これを切り抜いて灯籠にしてみろ。雑に扱えば腐り、心を込めれば光る」


 魔王は黙ってうなずき、大きな手でカボチャを抱えた。

 ナイフを握り、ゆっくりと刃を入れる。

 その様子を仲間たちは固唾を呑んで見守る。


カボチャの大灯籠


 やがて出来上がったのは、歪ながらも丁寧に彫られたカボチャの灯籠。

 魔王が両手で掲げると、中から柔らかな光が溢れた。

 その光は畑全体を照らし、夜空にまで届く。


「こ、これは……」

「まるで……大灯籠……」


 光はただ明るいだけではない。

 人の心を落ち着け、憎しみを鎮める力があった。

 仲間たちの緊張もほどけ、リラでさえ槍を下ろした。


「……やるじゃねえか」

 俺は笑い、鍬を地面に突き立てた。

「合格だ。ようこそ、アルト農園へ」


新たな仲間


 魔王は深く頭を下げた。

「……感謝する。余生を、土に返そう」


 エリシア王女が柔らかく笑った。

「勇者と魔王が同じ畑を耕す日が来るなんて……本当に畑は人を選ぶのですね」


 仲間たちも次第に受け入れの空気を漂わせる。

 畑は嘘を燃やさず、大灯籠の光は彼を祝福していた。


次回予告:第8話「農園同盟、平和の芽吹き」


勇者と魔王が共に畑を耕す姿は、やがて両国に広まる。


王国と魔族領、歴史的な「農園同盟」交渉が始まる。


新チート作物「麦の絆縄」が、人と人を結びつける!

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