第19話「奪われた希望、連盟の危機」
船団の出発
希望の実は各国に分け与えられたが、その数はまだ限られていた。
より多くの民へ届けるため、世界農園連盟は船団を組み、海路での輸送を決めた。
港に並ぶのは、王国の大帆船、魔族領の黒艦、砂漠の交易船、南洋のカヌー。
甲板には希望の実を守るため、各国から選ばれた兵士や学者が立っていた。
「いよいよだな」
リラが大根槍を肩に担ぎ、眩しい海を見渡す。
「この船団はまさに連盟の象徴だ」
俺は鍬を甲板に立て、頷いた。
「必ず守り抜く。希望の実は……命そのものだからな」
不穏な海
船団が出航して三日目。
空は晴れていたが、海は妙に静かだった。
波も風もなく、ただ不気味な沈黙が広がっていた。
レオンが弓を構え、警戒する。
「……この静けさ、嫌な予感がする」
カイが札を投げ、目を見開いた。
「反応あり! 海の下に、何かが潜んでる!」
その瞬間、海面が爆ぜた。
無数の黒い帆船が霧の中から姿を現し、連盟の船団を囲んだ。
海賊か、闇か
現れたのは海賊のような姿をした一団。
だがその旗には、かつて廃墟カレンで見た黒い苗の紋章が刻まれていた。
「……種泥棒の残党か!」
リラが叫び、槍を構える。
敵の船首から、黒い根が海へ伸び、連盟の船団を締め上げるように絡みついてくる。
木材が軋み、悲鳴が響く。
「希望の実を渡せ! そうすれば命は助けてやる!」
敵の首領が叫ぶ。
だがその声に、誰ひとり応じる者はいなかった。
藻塩の盾
ミーナが必死に鎖を操りながら叫ぶ。
「アルト様! 畑の作物を——!」
俺は船倉に駆け込み、樽の中から海藻を取り出した。
ただの藻ではない。塩を含んだ青緑の藻が、光を帯びて脈動している。
甲板に広げると、それは巨大な膜となり、船を覆う盾に変わった。
——藻塩の盾。
波を和らげ、炎を退け、黒い根すら弾き返す力を持っていた。
「守りは任せろ!」
俺は盾を押し広げ、仲間たちの背を守った。
船団の戦い
リラの槍が敵船へと突き刺さり、
レオンの矢が黒い帆を次々と射抜く。
カイは札を投げ、風を操って味方の帆を押し出した。
ミーナの鎖は敵の船を絡め取り、転覆させる。
魔王は影の波を呼び起こし、黒い根を逆に絡め取って引き裂いた。
「勇者!」
魔王が叫ぶ。
「希望の実を狙っているのは、あの旗艦だ!」
視線の先には、黒い苗の紋章を掲げた巨大な船。
甲板には漆黒の鎧を纏った男が立ち、狂気の笑みを浮かべていた。
連盟の危機
旗艦から放たれた黒い根が、連盟の輸送船を貫いた。
希望の実を積んだ木箱が宙に舞い、海へ落ちかける。
「やめろおおおおおっ!」
俺は鍬を振り抜き、藻塩の盾で実を受け止めた。
だが、その隙に敵が迫る。
「アルト様!」
ミーナが悲鳴を上げ、リラとレオンが必死に防ぐ。
だが敵は多く、船団は限界に追い込まれていた。
——このままでは希望の実を奪われる。
そして連盟は瓦解する。
決意
俺は鍬を握り締め、叫んだ。
「皆、聞け! 希望の実は守るためにあるんじゃない! ——育てるためにある!」
エリシア王女が瞳を輝かせた。
「そうですわ……今ここで、育ててしまえばいいのです!」
魔王が笑い、影を広げる。
「面白い。海の上で実を育てるか……!」
希望の実が藻塩の盾の上で光を放ち、芽吹き始めた。
その瞬間、海が白く輝き、敵船の黒い根が後退していく。
次回予告:第20話「海上に咲く希望の樹」
海上で芽吹いた希望の実が、大樹へと成長。
光の波が敵船団を一掃する!
だが、黒鎧の首領がついに正体を現す——それは農園同盟にとって最大の脅威だった。