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第16話「暗雲、収穫祭を襲う」

祝祭の準備


 世界農園会議の成功から一月。

 農園ではかつてないほどの賑わいが訪れていた。


 王国からは吟遊詩人たちが集まり、魔族領からは踊り子たちがやってきた。

 砂漠の民は香辛料を持ち寄り、北方の民は大鍋を背負ってやって来る。

 南洋の島々からは甘い果物と花冠が届けられた。


「これほどの人が集まるなんて……」

 リラが感嘆の声を上げ、屋台の列を見渡した。

「まるで街ひとつ分じゃない」


 ミーナは花飾りを編み、カイは収穫物の勘定に忙しい。

 レオンは警備の指揮を取り、エリシア王女は外交客を迎えて歩いていた。


 そして農園の中央には——巨大なカボチャが並べられていた。

 千の灯籠を作るために用意された、収穫祭の目玉だ。


カボチャの千灯祭


 日が暮れると、広場に人々が集まった。

 子どもたちは小さなカボチャを抱え、大人たちはそれぞれ模様を彫り、思い思いの灯籠を作る。


 やがて千のカボチャに火が灯り、夜の農園は黄金の海のように輝いた。

 灯籠はただの飾りではない。

 畑の力を媒介に、人々の願いを光へと変える。


「すごい……」

 ミーナが目を潤ませ、手を合わせた。

「まるで星が地上に降りてきたみたいです」


 エリシアも頷く。

「この祭りこそ、農園同盟の象徴となるでしょう」


忍び寄る異変


 だが、その美しい光景の下で、土が微かに震えていた。

 俺は鍬を握りしめ、耳を澄ませる。

 地中から聞こえてきたのは、低く重い脈動。


「アルト?」

 魔王が隣に立ち、目を細める。

「土の底に……何かいるな」


 次の瞬間、地面が裂けた。

 千の灯籠の光に誘われたかのように、闇色の根が地中から溢れ出す。


闇の芽吹き


 祭りのざわめきが悲鳴に変わる。

 黒い根は灯籠の火を呑み込み、人々の足を絡め取ろうと伸びてくる。


「また黒い苗か!?」

 リラが槍を突き立てるが、今度の根は硬く、切ってもすぐに増殖する。


 カイが鑑定札を走らせ、顔を蒼白にした。

「……これは“廃墟カレン”の地下に残っていた苗の残滓だ! 燃やし尽くしたはずなのに……!」


 レオンが矢を射りながら叫ぶ。

「祭りを狙ってたんだ! 人が集まり、願いの光が満ちるこの時を!」


立ち上がる農園同盟


 俺は鍬を振り上げ、叫んだ。

「皆、逃げるな! 光を絶やすな! 千の灯籠を守り続ければ、必ず勝てる!」


 子どもたちが灯籠を抱え、大人たちが手を取り合って輪を作る。

 各国の兵や学者たちも奮起し、光を守るために黒い根へ立ち向かった。


 エリシアが声を張り上げる。

「農園同盟の名において、この地を守ります!」


 魔王が影の力を解き放ち、根を押し返す。

「勇者よ……今度は本当に、世界そのものを耕す戦いになるぞ!」


「望むところだ!」

 俺は鍬を突き立て、土の声を聞いた。


新たな兆し


 その瞬間、畑の隅に新しい芽が伸びた。

 まだ小さな苗だが、光を帯び、黒い根を焼く力を持っていた。

 それは、土が生み出した新たな“希望の種”だった。


「見ろ……!」

 ミーナが涙ぐむ。

「畑が……私たちに力を貸してくれている!」


 俺は頷き、鍬を構えた。

「この種を育てれば、必ず闇を払える!」


 祭りの夜は、戦いの夜へと変わっていった。


次回予告:第17話「希望の種、闇に挑む」


千灯祭の最中に現れた闇の根を討つ戦い。


新チート作物「希望の種」を育て、光を解き放つ。


勇者と魔王、仲間たちが全力で祭りを守る総力戦!

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