第15話「大陸農園会議、世界を耕す」
勝利の余波
廃墟カレンでの決戦から数週間。
黒い苗は消え、奪われた種は大部分が農園に戻された。
土は回復し、芽吹いた金色の植物は「平和の芽」と呼ばれ、各国の民から祈りを捧げられる存在になった。
だが、それで全てが終わったわけではなかった。
農園同盟は大陸規模へ拡大しつつあり、利権や思惑が入り乱れている。
次に必要なのは、言葉と鍬で未来を決める会議だった。
世界農園会議の開幕
広大な広場に、各国の旗が並ぶ。
砂漠の王が黄金の衣をまとい、北方の族長が毛皮を羽織り、南洋の酋長が花を編んだ冠を戴いている。
王国の王も、魔族領の長老も席に着き、農園を囲むように円卓が据えられた。
「ここに……大陸初の“世界農園会議”を開く!」
エリシア王女が高らかに宣言する。
静寂の後、会議は始まった。
対立する声
最初に口を開いたのは砂漠の王だった。
「農園同盟は尊い。だが種の管理は一つの国が行うべきではないか?」
北方の族長が反論する。
「いや、種は分け与えるべきだ。皆が自分の土地で耕すからこそ平和が保たれる!」
南洋の酋長は首を振る。
「だが海の国では畑を作れぬ。ならばどうする? 我らは恩恵を受けられぬのか?」
議場はたちまちざわめき、互いの声がぶつかり合った。
リンゴの未来樹
その時だった。
広場の中央、畑に一本の苗木が芽吹いた。
丸い赤い実をつけたリンゴの木——だが不思議なことに、まだ若木なのに実をつけている。
俺が近づき、実を手に取ると、仲間たちの前で割れた。
中には小さな種と共に、光の映像が浮かび上がる。
それは未来の姿。
各国の子どもたちが同じ種を持ち寄り、笑いながら畑を耕している光景だった。
「……これは“未来樹”だ」
俺は鍬を握り直し、皆に告げた。
「畑が示してる。種は独占するものじゃない。——未来を分かち合うものなんだ」
未来を耕す約束
沈黙の後、王たちは互いに視線を交わした。
砂漠の王は深く頷き、族長は拳を握り、酋長は微笑んだ。
「よかろう。種を奪い合うのではなく、分け合おう」
「畑を奪うのではなく、守ろう」
「未来を支配するのではなく、育てよう」
こうして——世界農園会議の誓約が結ばれた。
大陸の国々が同じ土を耕す仲間として立つことを誓い合ったのだ。
会議の後で
夜。
会議を終えた広場には、各国の代表たちが焚き火を囲み、鍋をつついていた。
戦や憎しみではなく、食卓を共にすることで心を近づけていた。
魔王が火の明かりを見つめ、ぽつりと言った。
「のんびり暮らしたいだけだったのに……随分大事になったな」
「だな」
俺は笑いながら鍋をかき混ぜた。
「でも、土が選んだなら仕方ないさ」
エリシアが穏やかに微笑む。
「アルト様。農園同盟は、もはや大陸の命運を担う存在です。けれど——始まりは、あなたが鍬を振った一歩でした」
俺は少し照れて頭を掻いた。
「……いや、始めたのは土だ。俺はただ、のんびり耕してただけだよ」
次回予告:第16話「暗雲、収穫祭を襲う」
世界農園会議の成功を祝って、大規模な収穫祭が開かれる。
しかし、土の底から新たな異変が芽吹く。
新チート作物「カボチャの千灯祭」が祭りを照らすが……その光に誘われる影が!?