第13話「種泥棒の本丸へ」
出立
夜を越え、農園には安堵と疲労の溜息が満ちていた。
眠り霧と大灯籠で敵を退けたものの、捕らえた者たちの口から判明したのは衝撃の事実だ。
「種泥棒の背後には、闇の交易連合がある……」
「奴らの拠点は北の荒野、廃墟の都……」
俺は鍬を肩に担ぎ、仲間たちに告げた。
「逃げを待っているだけじゃ終わらん。——攻めるぞ」
魔王が隣で笑った。
「勇者が攻め、魔王が守る……奇妙だが悪くないな」
リラが槍を振るい、カイが札束を抱え、ミーナが鎖を巻き直し、レオンが弓を背負う。
エリシア王女は白いマントを翻し、力強く言い放った。
「農園同盟、初の遠征です!」
ひまわりの羅針盤
道案内を買って出たのは、畑の端で咲いた一本の巨大なひまわりだった。
夜でも黄金の花弁は揺れず、常に北を向いている。
花弁をちぎり、胸に抱くと、まるで心の奥で羅針盤のように方角を指し示すのだ。
「これなら迷わないな」
レオンが目を細めた。
「荒野は幻覚が多い。……だがこの花なら確かだ」
俺たちはひまわりを掲げ、北へと歩みを進めた。
荒野の幻影
廃墟の都へ続く道は、ただの荒野ではなかった。
足を踏み入れた瞬間、視界に蜃気楼のような影が揺れ、過去の戦場が広がる。
「これは……心を惑わす幻覚だ」
魔王が歯を食いしばる。
幻影の中には、俺が剣を振るう姿も、彼が血に濡れる姿も映し出される。
ミーナが鎖を広げ、叫んだ。
「アルト様! 目を閉じて、声を聞いてください! 私たちは畑を守る仲間です!」
声に導かれ、幻影はひまわりの光に照らされて霧散していく。
廃墟の都
やがて辿り着いたのは、石造りの建物が崩れ落ちた廃都だった。
空は赤黒く濁り、風は腐臭を運んでくる。
瓦礫の上には黒い旗が翻り、無数の影が蠢いていた。
「ここが……種泥棒の本丸」
リラが唾を飲み込む。
廃墟の中央に巨大な倉庫があり、その中からは植物の悲鳴のような気配が溢れていた。
盗まれた苗や種が、無理やり培養されているのだ。
襲撃
俺たちが姿を現した瞬間、闇の組織の兵が一斉に押し寄せてきた。
黒い仮面を被った者たち、怪しげな魔術を纏った者たち。
数百規模の敵が、廃墟全体から迫ってくる。
「囲まれた!」
カイが札を撒き、地図を描き出す。
「数は五百! でも配置は粗い! 一点突破できる!」
魔王が地を叩き、瓦礫を盾のように盛り上げる。
リラが槍で突進し、ミーナが鎖で敵を絡め取り、レオンの矢が正確に急所を射抜く。
エリシアは後方で声を張り上げた。
「農園同盟の名において、畑を荒らす者を許さない!」
闇の主
激闘の最中、倉庫の扉が軋みを上げて開いた。
現れたのは、全身を黒い蔦に覆われた男。
目は濁り、声は低く響く。
「勇者……魔王……そして農園同盟か。
土の力を独占するのは我らだ。
種こそが権力、畑こそが支配の道具……!」
その手には盗まれた苗が握られていた。
だが苗は弱々しく、悲鳴のように葉を震わせている。
「……やめろ」
俺は鍬を構え、声を張った。
「畑は支配のためにあるんじゃない。命を耕すためにあるんだ!」
決戦前夜
廃墟の都を舞台に、種泥棒の本丸との戦いが始まろうとしていた。
味方は勇者と魔王、農園同盟の仲間たち。
敵は闇の組織と、その首領。
空には赤黒い雲が渦巻き、ひまわりの羅針盤が淡い光を放ち続けていた。
それは道を示すと同時に、希望を照らす灯。
俺は鍬を握り直し、仲間たちを振り返った。
「——行くぞ。畑を取り戻すために!」
魔王が頷き、仲間たちが声を合わせた。
「おう!」
次回予告:第14話「廃墟決戦!種泥棒の首領」
闇の首領が操る“黒い苗”が暴走し、廃墟全体を覆う。
新チート作物「トマトの陽炎」が敵の幻影を打ち破る!
勇者と魔王、仲間たちが総力戦で挑む最終局面へ。