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第11話「畑の陰謀、芽吹く影」

広がる農園同盟の影


 豆の通信網は日ごとに伸び、王国も魔族領も、遠く離れた諸国までも声で結び始めていた。

 病が癒えたと喜ぶ声、飢えから救われたと泣く声、戦が止んだと安堵する声。

 そのすべてが農園に届き、土に染み込んでいった。


 だが、光の広がりには必ず影が生まれる。

 農園同盟の成功は、誰かにとっては脅威だった。

 交易を独占してきた商人たち、戦争で利益を得てきた武器商人たち。

 彼らは水面下で結託し、一つの名を掲げた。


——“種泥棒”。


闇の組織


 ある夜。

 畑の外れで、ひとりの農園警備員が倒れていた。

 致命傷はないが、眠らされたように意識が戻らない。


 その傍らには、引き抜かれかけた苗が数本。

 人参、ジャガイモ、そしてまだ芽吹いたばかりの豆の若葉。


「……誰かが、畑の種を狙ってる」

 俺は鍬を強く握りしめた。


 リラが顔を険しくする。

「畑を奪えないと悟って、せめて“力の源”を盗もうってわけか」


 魔王は唸り声を上げた。

「卑劣な真似だ。土を踏まずに実だけを奪おうとするとは」


カカオの真実酒


 次の日の朝、畑に新しい作物が実った。

 艶やかな茶色の実。割ると中から甘苦い香りが漂い、液体が溢れる。

 それを器に注ぐと、濃厚なカカオの香りが立ち上がる。


「これは……酒?」

 俺が口をつけた瞬間、脳裏に映像が流れ込んできた。

 心の奥底に隠していた“本音”が、泡のように浮かび上がるのだ。


 ——カカオの真実酒。

 嘘も仮面も剥ぎ取り、飲んだ者の心をそのまま映し出す。


 俺は仲間たちに言った。

「これを使えば、誰が“種泥棒”に加担してるか分かる」


疑惑


 農園には各国の使節団や学者、冒険者たちが滞在していた。

 誰もが農園同盟に賛同しているように見える。

 だが、本当に全員が信じられるのか。


 俺たちは夜、焚き火を囲んで真実酒を回した。

 リラは迷わず一気に飲み、「私は畑を守りたい! 力になりたい!」と叫んだ。

 カイは「数字をいじるのが好きだ。本当は鑑定より畑の収穫量の帳簿を極めたい」と笑った。

 ミーナは顔を赤らめ、「アルト様の役に立ちたい……それが、私の本音」と小さく呟いた。

 レオンは無言で飲み干し、「……俺は裏切らない。ただし、裏切る奴がいれば容赦しない」と言った。


 仲間たちは信じられる。

 だが問題は、使節団や外から来た人々だ。


暗躍


 翌晩、真実酒を持ち込み、使節団の中から数人を選んで飲ませた。

 王国の若い騎士は「平和を守りたい」と涙を流し、魔族の学者は「植物魔術を学問にしたい」と夢を語った。

 だが、一人の商人だけが顔を歪め、吐き出した言葉に場が凍りついた。


「……種を手に入れれば、世界を支配できる」


 その瞬間、真実酒の器が炎のように光り、彼の衣服の内から黒い袋が落ちた。

 中には盗まれた苗と種。


「……やっぱりな」

 俺は鍬を突きつけた。

「畑は嘘を許さない」


 商人は顔を蒼白にして逃げ出したが、藁人形がすぐに動いて捕らえた。


芽吹く影


 しかし捕まえた商人はただの駒にすぎなかった。

 尋問の末、背後にもっと大きな闇の組織があることが分かる。

 武器商人、闇の貴族、国外の諜報員。

 彼らは農園同盟を潰すために、「種泥棒」を無数に送り込む計画を立てていた。


 魔王が低い声で言う。

「来るぞ。これは過激派とは比べ物にならぬ。闇は深い」


 エリシアは顔を上げ、強く頷いた。

「ならば“国際農園警備団”を作りましょう。勇者も魔王も、農園の仲間も、各国の民も——力を合わせて」


 俺は鍬を握り直し、仲間たちを見渡した。

「畑を守る戦いは、これからが本番だ」



次回予告:第12話「種泥棒の襲撃」


闇の組織が本格的に動き出す。


夜の農園に忍び寄る無数の影。


新チート作物「ミントの眠り霧」が防衛の鍵に!


勇者と魔王、農園同盟の仲間たちが総力戦で挑む!

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