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第10話「畑の奇跡、世界へ」

噂の広がり


 勇者と魔王が並んで畑を耕し、過激派を退けた。

 その知らせは瞬く間に王国と魔族領を越え、周辺諸国へと広まっていった。


「農園同盟」——それは剣でも金貨でもなく、鍬と土で結ばれた同盟。

どの国の民も耳を疑い、同時に憧れを抱いた。

「命を奪わず、命を育てて和を結ぶ」。

そんな夢のような出来事が、本当に起きていると。


他国の使節団


 数週間後、農園の入口に色とりどりの旗が並んだ。

 西方の砂漠国家、北方の騎馬民族、南洋の島国。

 それぞれが使節団を組み、大陸の片隅にある小さな農園を目指してきたのだ。


「勇者アルト殿、魔王陛下……我らも農園同盟に加わりたい!」

「畑を守る掟を、我らの国にも学ばせていただきたい!」


 彼らの声は真剣だった。

 だが同時に、背後では思惑が渦巻いていた。

「畑を利用すれば富が生まれる」

「戦を避けるには必要だ」

「他国に独占させてはならぬ」


 会議用の天幕が張られ、農園は一気に国際舞台となった。


豆の通信網


 そんな中、畑の隅で新たな奇跡が芽吹いた。

 豆の蔓が夜の間に伸び、畑を越えて村中をつなぎ、さらに外の丘へと広がっていたのだ。

 試しに豆鞘を割ると、中から響くのは——人の声。


「……こちらは村の西端。聞こえるか?」


 別の場所で割った豆鞘から、確かに声が返ってくる。

 それはまるで、大陸を結ぶ糸電話。


「これは……通信網だ」

 俺は息を呑んだ。

「豆が大陸をつなぎ、人と人を直接結ぶ」


 王女エリシアは瞳を輝かせた。

「これなら戦の伝令ではなく、“話し合い”の声を先に届けられます!」


国際農園会議


 翌日、豆の通信網を用いた史上初の「国際農園会議」が開かれた。

 各国の使節団は畑の中央に座し、鍬や籠を傍らに置いて話し合う。

 議題はひとつ。


——農園同盟を、大陸規模へ拡げるか否か。


 賛成派の声。

「民に平和を与えよう」

「飢えを救える」

「交易より確実だ」


 反対派の声。

「畑の力は危険すぎる」

「他国に悪用される」

「農園は一国で管理すべきだ」


 熱が高まり、議論は膠着する。


豆が結ぶ心


 そのとき、豆の通信網がざわめいた。

 遠く離れた村や町の声が、次々と届いたのだ。


「農園のおかげで病が癒えた!」

「人参を一口で立てるようになった!」

「戦が止まった。ありがとう!」


 民の声はまっすぐで、飾り気がなかった。

 それが通信網を通じて、全員の耳に届く。


 会議の空気が変わった。

 沈黙していた者たちの表情に、少しずつ笑みが戻る。


世界を変える種


 王が静かに立ち上がり、宣言した。

「よかろう。農園同盟を大陸へ拡げる。剣より先に鍬を持ち、戦より先に種を蒔くのだ!」


 拍手と歓声が天幕を震わせる。

 勇者と魔王は顔を見合わせ、肩を並べて頷いた。


「アルト様……」

 エリシアが小さく呟く。

「本当に、世界が変わろうとしていますね」


「いや」

 俺は鍬を握り直し、土を見つめた。

「変えてるのは畑だ。俺たちはただ、土の声を聞いてるだけだ」


世界へ


 夜、畑に芽吹いた新しい苗が一斉に光を放った。

 それは国境を越え、大陸全土へと広がる兆し。

 豆の通信網はさらに遠くへ、まだ見ぬ人々の声をつなぎ始めていた。


「——畑が、世界を耕している」


 勇者と魔王の声が、星空に重なった。


次回予告:第11話「畑の陰謀、芽吹く影」


大陸に広がる農園同盟。しかし、その陰で「畑の力を奪う」新たな陰謀が芽吹く。


闇の組織が“種泥棒”を送り込み、農園は前例のない危機に直面。


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