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バリア

作者: 雉白書屋

 ――さあ、我々の科学力は、充分にご理解いただけましたね。


 ある日、突如として現れた一隻の円盤。それは某国の軍事基地の上空に静止し、ただ浮かんでいた。

 所属不明の飛行物体に対し、軍はただちに警戒態勢を敷いた。緊迫した空気の中、まずは警告が発せられたが、円盤は何の応答も示さない。やがて、軍は攻撃を決断した。

 無数のミサイルが火を噴き、空が光と轟音、黒煙で冒された。しかし、どれだけ撃ち込もうとも、円盤には傷一つつかなかった。それどころか、円盤はまるで嘲笑うかのように悠々と基地の上空を旋回し、そして何事もなかったかのように去っていった。

 戦闘機が追跡を試みるも、まるで子供のお遊びのように扱われ、あっさりと振り切られてしまった。

 その後、円盤は他国の軍事基地にも現れ、まったく同じ行動を繰り返した。警告には応じず、攻撃を受けてもびくともせず、ただ悠然と飛び去るのみだった。

 世界中のいずれの国も円盤に傷一つつけられなかった。唯一判明したのは、あの機体がバリアのようなもので覆われているということだけ。

 新型兵器の実験なのではないかという噂も飛び交った。だが、いかなる大国であろうと、現時点であれほどの防御機構を開発することは不可能だ。


 ――では、まさか……。


 疑念と不安が世界を覆う中、各国の首脳が緊急会談を開いた。


「……とか言って、あれ、おたくの国が飛ばしたんじゃないか?」

「言いがかりはやめていただきたい」

「あのような技術、どこの国にもないでしょう……」


 会議は早々に行き詰まり、やがて誰もが口にするのをためらっていた結論へと辿り着いた


 ――認めるしかない。あれは、宇宙人だ。


 しかし、彼らの目的は何なのか。地球の軍事力を測るための斥候なのか? だとすれば、こう報告するだろう。「侵略は容易である」と。いずれ大群が地球へ押し寄せてくるに違いない。そんな悪夢が、現実味を帯びて囁かれ始めた。

 重苦しい沈鬱が会議場を包む。そのときだった。突然、建物の外にあの円盤が現れたのである。


「た、大変です! え、円盤の中から……その、う、宇宙人が出てきました!」


「ど、どうする?」

「……行くしかあるまい。向こうも我々との対話を求めているのだろう」


 首脳陣は厳重な警護のもと、慎重に宇宙人の前へ並んだ。

 宇宙人たちは翻訳機を使っているのだろう、驚くほど流暢な地球の言語で話し始めた。 


『我々の科学力は、充分にご理解いただけましたね? あのバリアによって、いかなる攻撃も我々の宇宙船に傷ひとつ付けることはできませんでした』


「……ええ、確かに理解しましたよ。それで、あなた方の目的はなんなんですか?」


 無条件降伏――誰もがそう告げられることを予想し、息を呑んだ。

 だが、宇宙人は両腕を広げ、にこやかに言った。


『ぜひ、あのバリアをお買い上げください! 今なら無料で施工いたします! この星全体を包めば、隕石もシャットアウト! 侵略者もお手上げ! 不法侵入も完全防止!』


「……セールス?」


 宇宙人たちは、まさかの実演販売を行っていたのだった。

 どうやら地球の宇宙進出に目をつけ、商機ありと見たらしい。彼らの話によれば、地球はすでに他の星々の目にも留まっており、侵略を企てる星もあるという。今後のためにも防衛設備は不可欠だ。

 拍子抜けした首脳たちは顔を見合わせ、苦笑した。宇宙人に自分たちの存在を認識された喜びと、圧倒的な技術差への恥じらいが入り混じった表情だった。

 その後の協議の末、各国は費用を出し合い、地球全体にバリアを設置することを決定した。

 バリア発生装置は地中深くに埋設され、地熱エネルギーを利用して半永久的に稼働する仕組みだという。

 施工を終えた宇宙人たちは、満足げに円盤へと戻り、地球を後にした。直後、夜空にはまるでオーロラのような青緑色の光の幕が広がり、ゆっくりと地球全体を包み込んだ。やがて光は空の色に溶け込むように消えていった。

 人々はその幻想的な光景を見上げながら、人類の宇宙進出――新たな一歩を喜び合ったのだった。


 しかし、それから数か月後、思いもよらぬ事態が発生した。

 ある日、人工衛星を搭載したロケットが打ち上げられた。順調に上昇していた機体が、ある高度に達した瞬間、突如として何かに激突したかのように先端から激しく潰れ、爆発したのである。

 事故原因を探るために調査が始められたが、誰の目にもそれは明らかだった。


 ――あのバリアのせいだ。


 だが、バリア発生装置は地中深くに埋められており、解除する方法がなかった。

 人々は次第に悟り始めた。あれは防御壁などではなかったのだ。

 あれは――檻だ。


 一方、地球を遠く離れた宇宙人たちは、高らかに笑っていた。


『任務完了。これで地球人の意識は上ではなく、下に向くだろう』

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