占いと昼食
「さあさあ、手相占いに占星術…あと水晶占いはいかが? お手頃だよ!」
大きな声が商店街に響く。その中心には、金髪と黄色の瞳を持った少女が呼び込みをしていた。人懐っこい表情を浮かべて、愛想を振りまいている。取ってつけたようなサングラスと手元に置かれた水晶。誘われるのは、些細な悩みや拗れた感情を抱えた人ぐらいなものだ。けれど、「また来てね」と少女が言うと、満足そうに立ち去る人々を見ればそれでもいいのかもしれない。
稼いだ小銭を数えながら、にまにまとだらしない笑みを露店の裏で晒していた。ひひっ、と時折変な声も漏れている。稼ぎを入念に確認し、満足すると金髪のカツラを脱いで、ついでに羽織っていた上着をしまうと学生服が姿を現した。鶯色の髪を下ろして、サングラスをとれば先ほどの占い師の面影はあまりない。
「うーん、これなら…」
思い浮かべたことに笑みが深まる。手にした財布をきゅっと握って、少女は商店街へと戻った。
「おばちゃん、コロッケとメンチカツ…あと今日は、いいお肉もちょうだい」
「おや、今日は羽振りがいいね。何かいいことでもあったのかい?」
「そうだよ〜、ほら幸せになったらお裾分けしないと」
商品を受け取って、近くにあったベンチに座る。揚げたてのコロッケは手のひらを温めて、香る胡椒の匂いが今か今かと食欲をそそる。一口を噛みしめると、玉ねぎのシャキシャキとした食感に、歯ごたえのあるひき肉、ゴロッとしたジャガイモが口の中で混ざり合う。思わず頬に手を当てて、冷めないうちに余す所なく楽しむ。
メンチカツもあつあつでたまらない。噛み締めた瞬間に溢れる肉汁、キャベツがアクセントになって食感を楽しませる。そして、こってりとした油の満足感に包まれる。口の端に付いた粕を舌で舐め取ると、包んでいた紙をゴミ箱に捨てて立ち上がった。
「ふぅ、美味しかったなぁ。さて、あの子たちのも買ってあげないと」
今度は揚げ菓子の店で一口サイズの安っぽくもお腹に溜まる揚げ菓子を買った。自身のものを買うつもりはなかったが、見ていると甘い香りに耐えられなくなって、仕方なく自身の分も買うことにした。歩きながら、揚げ菓子のこってりとしたほのかな甘さを楽しむ。昔は毎日食べたいと思っていた贅沢も、今ではたまに食べるくらいがちょうど良いと思えるようになった。
日が落ちる前に、少女はとある建物の前に着いた。勝手口から中に入ると、待ち構えていた子どもたちが少女を取り囲む。
「姉ちゃん、太った?」
「まずは『久しぶり』、でしょ? あんたには最後に渡してもらうからね!」
「おかえりなさい、お姉ちゃん」
「元気にしてた? 私がいなくて寂しくない?」
「お前がいたって騒がしくなるだけだろ…」
「聞こえてるんだけど」
「ううん、お姉ちゃんがここから出てもたまに帰ってきてくれるって知ってるから」
「いつまでそこに立ってるんだよ、早くあがれよ」
「はぁ……あんた、本当に素直じゃないね」
子どもたちに囲まれて、手を引かれながら一際大きな机の前に座る。先ほど買った揚げ菓子を渡して、暫く子供たちの話を聞いた。そうすると、老いた女性が帰ってきた。
「こんな時間だし、泊まっていくかい?」
「いいよ、顔を出したかっただけだから。ああ、良いお肉を買ったんだよ。それを食べたら帰るから」
呆れたように老女は少女をを見る。
「相変わらず、食い意地は張ってるようで安心したよ」
「幸せのお裾分けってことだよ。誕生日おめでと、それと『ただいま』」
空は夜へと染まってゆく。暗くなる中で、暖かな光がぼおっと灯されていた。