模倣少女、妖精に出会うようで。
7
「模倣少女、イミテーション」
すごい武器であっという間にスパイダー伯爵を倒して、わたしの問いかけにそう答えたその子は、すぐにその場から立ちさった。
まるで逃げるように。本当に逃げたんだと思う。
それからもう何日もたっているけど、あの子についての話はまったく聞かない。
いちおう、ソードちゃんに話した──悪い魔力については、言わなかったけど──から、本部の人達も捜索してるはずだけど、本当に何にも聞かない。
イミテーション、ポルるんに聞いて見ると、にせものって意味らしい。模倣もだいたい同じ意味だって言ってた。
つまり、あの子はにせものの魔法少女ってことなのかな。でも、魔法少女なのは本当だよね。どういうことなんだろう。
「フラワー、またイミテーションについて悩んでいるポか?」
わたしがうんうんとうなっていると、ポルるんが聞いてくる。
なやんでる…。うん、きっとそうなんだと思う。だってわたしはあの子、イミテーションちゃんについてなんにもわかってないんだ。
わからないことは、どれだけ頭をひねってもわからない。
だから。
「決めたよ、ポルるん!」
「いきなり立ち上がって何を決めたって言うんだポ」
「わたし、あの子と、イミテーションちゃん……ううん、イミテちゃんとお友達になる!」
「お友達ポ?」
「うん!あの子がなんで模倣とか、イミテーションって言うのかわかんないし、なんでわたしから逃げてるのかもわからない。だから、お友達になるの!お友達になって、あの子のことを知るの!」
「フラワーらしいというか…なんというかって感じだポ」
「そうと決めたら、パトロールだよ、ポルるん!」
待っててね、イミテちゃん!
※
「へくちっ……風邪引いた、かな」
ホテルの一室で、オレはくしゃみをしていた。
スパイダー伯爵の件以降、オレは所謂逃避行というものに勤しんでいた。
何せダークマ団がどういう手段でオレを追っているのかがわからない以上、拠点を構えることもできない。
実際、あれからも数度、明らかにオレの居場所を探るための追っ手がやってきたりしたのだ。
間違いなく、大体の位置はバレていると思っていい。
そのため、オレは家においてあった貯金を切り崩しながら、あちこちのホテルを転々としている。
その際に、この模倣少女──オレが勝手につけた名前だが、まぁ魔法少女としての力は便利だった。
ある程度ならば、外見の偽装ができるようで、年齢を誤魔化すことは容易だった。
流石に中学生でギリギリ通じる少女がホテルを転々とするのは、無理があるし。
ただ、性別を誤魔化すだとか、髪の色を誤魔化すだとかはできないようで、特徴的な髪の色と女性であることは変更できなかった。
しかし、この力は一体なんなのだろうか。
追っ手の連中は大したことを知っていないようで、この力についてはさっぱりわからなかった。
かと言って魔法少女に聞くわけにもいかない。
勘違いしてはいけない、あくまでオレは魔法少女の偽物、模倣少女なんだ。
ダークマ団の手先として扱われていてもおかしくない。
あの魔法少女、フラワーバッドは良い子みたいだったから、なにかしら口添えをするかもしれないが、あの妖精はきっとオレが邪悪な魔力を宿していると伝えていてもおかしくない。
フラワーバッドが本部と言っていた以上、魔法少女は組織ぐるみなのは間違いないハズ。
そしてそんな組織の知るよしのない、邪悪な魔力をした魔法少女の存在。
間違いなく出会ったら捕まるし、捕まったらどうなるかなんて想像に難くない。
だからまぁ、この力については自分で考察するしかない。
「でも…なんにもわからない…」
「だろうなぁ、お前は特別イレギュラーだし、無知無知な無知子ちゃんだしな」
「そう……。…!?」
自分のぼやきに返事が返ってきたことに驚いて、変身をしながら声の方向にハルバードを構える。
そこには、フラワーバッドの妖精によく似た…黒い、ウサギ?が、ふわふわ浮かんでいた。
「おっと、攻撃はやめてくれよな。オイラはお前の味方だぜ」
「信じられない…妖精に、みえる」
「そうだろうな、オイラもオイラは妖精に見える」
「魔法少女の…手先…?」
「違うって言っても信じてくれるかい?」
「……」
「沈黙は雄弁だな。だがまぁ信じて欲しいけどな。オイラも行くとこないし」
「どういうこと」
オレの質問に、黒ウサギはケラケラと笑いながら答えた。
「なぁに、簡単なことさ。オイラはパチるん。お前から生まれた妖精もどきってことだよ、模倣少女イミテーション」
話が進んでいるようで実はスタート地点から動いていないかもしれない。