幽霊になった姉を生き返らせたい
【姫川彩花と姉】
私──姫川彩花の一日は霊となった姉を起こすところから始まる。
「姉さん。おはよう」
『おはよう。時間大丈夫?』
「大丈夫。まだ間に合う。だから姉さんも着替えてきて。服はそこにかけてあるから」
『いつもありがとうね』
「いいの。私がやりたくてやってることだから」
小さな冷蔵庫を開き、昨日両親から送られてきたイチゴと、ヨーグルトを取り出す。
棚から食パンを取り出し、蜂蜜をかける。イチゴを水で洗ってヘタをとり、半分に切ってパンに乗せる。ヨーグルトもパンの上にだす。
食パンを半分に折りたたんで食べる。今日のように時間がなく、急いでいる時はたいていこれを食べながら身支度を整える。
顔を洗い、髪をとかす。片耳に青いピアスをつけ、リボンタイをしめる。食パンを食べ終えたら歯を磨き、ジャケットの第一ボタンを留める。
「姉さん、準備できた?」
制鞄を手に持つ。
『できてるよ。できてるんだけど、腰が痛い』
白いスカートと開襟シャツを着た姉さんがリビングで寝っ転がり、腰を押さえている。
「姉さんが可愛いことするからだよ」
マスクをつけ、革靴をはく。手元に鍵と携帯電話、財布があることを確認する。
『ちょっと! 私のせいにしないでくれる?』
姉さんがリビングから急いで走ってくる。瑠璃色の髪が揺れている。
「ほら、行くよ!」
私は扉を開けて一人で部屋を出た。
教室まで走って移動した。チャイムの鳴る直前だというのに空いている教室。これはまさかだ。
チャイムが鳴る前に準備を終え、席で本を開いて姉さんと話していると担任が走ってくる。
「えーと、今来ているのは、一、二、三……寮生の六人だけか。お察しの通り今日は電車が遅延しているので一時間目は自習だ。ちゃんと真面目にやれよ」
自習。学生にとってこれほど甘美な言葉はないだろう。
私の場合は姉さんとお話ししながら勉強できるいい機会だ。私は特待生の特権である寮の一人部屋を確保するためにも定期テストは満点を取る必要がある。
私は数学の問題集とノートを開く。昨日間違えた問題に印をつけておいたのでそこを中心に。姉さんに教えてもらいつつ復習していく。
マスクをつけているので多少話してもバレない。姉さんが髪を耳にかける仕草にときめいても、その顔はマスクと長い髪の毛が隠してくれる。
姉さんとの非常に楽しい自習時間を終えればいつもの授業がやってくる。流石に授業中姉さんと話している余裕はない。だが姉さんはその間に配布されたプリントの整理や、勉強計画を立ててくれる。非常にありがたい存在である。
【小林玲奈の悩み事】
私──小林玲奈は“霊”と関わることのできる人間である。ある時から視える・聴こえる・祓えるの三拍子を手に入れてしまった。そのせいで私は大きな悩みを抱えている。
隣室に住んでいる彼女がいつも幽霊と話している。彼女と霊がどういう関係かはわからない。
けれど霊とどんな関係であるとしてもずっと話していては精神に問題が起こりかねない。
私は彼女を霊から守りたいのだ。おせっかいかもしれないけれど、それでも彼女のことを放っておけないのだ。だって私は彼女が大好きだから。
今日こそ隣室の人間、姫川彩花を霊から救うのだ!
今日も姫川さんは謎の霊と話している。
彼女が心配なのでさっさと祓いたいが、その前に一応、霊が彼女とどういう関係なのかを調べる必要がある。
私は目を凝らして、その霊を詳しく視た。
服装はスカートとシャツ。年はおそらく大学生くらい、というのが前回わかっていたこと。見た目に変化はない。
今度は聴いてみることにした。
『えー、朝弱いって言ってるのに止めないあなたが悪いでしょ。責任持って起こしに来なさい、可愛い妹ちゃん』
割とだらしない性格の姉といったところだ。
昨日も同じような会話があったので本当に姉なのだろう。
ただの仲の良い姉妹。にしては少し距離が近い気もするが。
これは多分祓って大丈夫だろう。だが一つ問題がある。
霊に触れられないのだ。
霊に触れて念じれば祓えるのだが、触れようとすれば綺麗に避けられるのだ。
霊はたいてい知性が低くなっている。だがこの霊はかなり知性が残っているらしく、全然触れさせてくれないのだ。
今日も手を伸ばすも、さっと移動してしまう。
「どうしたものかなー」
いっそ姫川さんに話すべきか。きっと彼女は祓うことを嫌がるだろうな。それでも彼女のためなら言うべきか。
そもそもどうやって話しかけるのか。
いきなりあなたに霊がついていて祓いたいと言おうものなら引かれるのは確定だ。友達になる? いっそ告白するか?
自習時間に色々考えたものの結局結論は出ない。明日の自分が上手くやると期待して勉強を始めた。
成績上位を保たなければ──特待生で居続けなければ私はこの学校に入れなくなってしまう。
そうすれば彼女の霊を祓うどころか、彼女への恋心までボロボロに引き裂かれてしまう。それはなんとしてでも防がなければならない事態だ。
【姫川彩花の放課後】
何とか学校も終わり、姉さんと共に寮に戻る。
「やっと終わったね」
『お疲れ様。と言うわけで降りさせて』
「了解」
みなさんはDomとSubというものを知っているだろうか。
女性・男性とは別にある第二性。ダイナミクスと呼ばれる二つの性別。SubはDomの命令に逆らうことができない。さらにDomとSubはパートナー契約を結べばその拘束力はより強固なものとなる。それこそ、たとえ片方が死んだとしても逆らえない強固な命令ができる。
私はDom、姉さんはSubだった。だから私は姉さんが死ぬ前、病院で眠っていたときに命令した。
「幽霊として私のそばにいて」
だから姉さんはその命令に従って私のそばにいる。
「瑠花姉さん、そこの人形に【降りて】」
姉さんそっくりの人形。そこにDomの【命令】で霊を降ろし、姉さんが動けるようにする。
命令すると姉さんが白いもやになって人形に吸い込まれる。
「やっぱり実体があると落ち着くねぇ」
無事人形に憑依した姉さんが関節をポキポキ鳴らしている。片耳にある青いピアスが揺れている。
「じゃあ夕飯の準備するから、姉さんはストレッチしといて」
「え、今日もするの? さすが高校生だね」
「うるさい。姉さんが自分の可愛さを自覚せずに動くから悪い」
姉さんが肩を伸ばした時に見えた白い二の腕。あの腕にまた傷つけたくなったのだ。
今日はスーパーで揚げたてが売っていたので天ぷら蕎麦にした。
「美味しそうだね」
「姉さんも食べれたらいいのにね」
もし姉さんが人間に憑依していれば一緒に夕飯食べれるのに…
「ねえ、ちょうどいい憑依相手いないの?」
「そう簡単に見つかるわけないじゃん」
姉さんは人間に憑依したがっている。今は50センチほどの人形におおさまっているが、やはり都合が悪いのだろう。人に戻りたいのだろう。
「ねえ、あの子はどう? 私を祓おうとしている子」
「小林さんだっけ? 特待生で隣の部屋の子だね。なんで?」
「私は見えるってことは訳あり。ワンチャンあるよ」
なるほど。確かに特待生に訳ありは多い。これは調べてみる価値があるな。
「そういや彼女ってDom? Sub?」
Subだとパートナー契約を結ぶことができるので都合がいい。
Domは何人とでもパートナー契約できるから本当に都合が良い。
「私ちょっと調べてくる」
姉さんがそう言って逃げようとした。私はすかさずそれを止める。
「【止まれ】姉さん、逃げちゃダメだよ」
残りのそばを食べ切る。
「ベッドに行こうか」
「優しくしてよね? 明日も腰痛とかいやだからね?」
「それは姉さんしだいだよ。姉さんが私を煽らなければ良いだけ」
【小林玲奈の欲求不満】
明日締め切りの課題と今日の授業の復習を終えて部屋に戻る。意外と時間がかかってしまったので夕飯の買い物もしていない。
お腹は減っているけれど、それ以上に疲れているので寝てしまおうとベッドに寝転ぶと壁から話し声が聞こえてきた。
また隣室の姫川さん姉妹がおしゃべりしてるらしい。
そろそろ彼女の精神が心配だ。霊と話しすぎておかしくなっているかの知れない。早く助けなければ。
いや、もしかしたらもうすでに精神が壊れているかもしれない。それならば私が彼女の精神を元どおりに修復しなければ。
姫川さんをいたわって温めて慰めて。姫川さんを幸せにしたい。姫川さんはあんな霊なんかに壊されて良い人間じゃない。あんなに賢くて可愛くて素敵な人が幸せにならないなんてことがあってはならないのだ。
「どうしたものかなぁ」
本当に困った。疲れた私の頭ではまともなアイデアが浮かばない。
両親の写真に問いかけるも声が返ってくることはない。ただ沈黙があるのみ。私をいたわる手も温かい抱擁も慰めの声もない。
考えたら悲しくなってきた。とても寂しくて人肌が恋しい。こんなにつらくなるのはしばらくDomの【命令】を受けていないのもあるだろう。
Domの命令は言ってしまえば食事のようなものだ。多少食事を抜いてもお腹が空くだけだがあまりにも食べないと死んでしまう。【命令】も同じだ。
隣室から姫川さんの【命令】の声が聞こえてくる。
「姉さん【座れ】、そう上手だよ。ほら、こっちに【来い】」
私が喉から手が出るほど欲しくて仕方がないものが隣の部屋で霊なんかに与えられている。
「いい子。いい子。姉さんはいい子だね。なでなでしてあげるからこっちにおいで」
ぬいぐるみのように暖かく、それでいて熱のこもった妖艶な声。
「ほら。優しくしているでしょう? なに。足りなくなってきたの? やっぱり姉さんは可愛いね。いいよ。ひどく痛くしてあげる。明日文句言わないでよ」
一体どんなことが行われているのだろう。
「ほら【舐めて】そう、いい感じ。これをここに塗るね。ふふ、じゃあちょっと痛いけど我慢してね」
ぼんやりとしか聞こえない声にもどかしくなって、私が欲しくて仕方ないものがよくわからない霊なんかに与えられているのに腹が立って、気がついた時には隣の部屋のドアを叩いていた。
「姫川さん! 姫川さん! 助けて」
【姫川彩花の邪魔者】
姉さんと楽しいことをしていたら急に激しく鳴るノックの音。そして私を呼ぶ叫び声。ムードが台無しだ。
「彩花、どうする? 誰かが呼んでるみたいだけど」
「とりあえず姉さんは【戻れ】人形は布団で隠しとく」
全く。私の邪魔をする不届者は誰だ。苛立ちをそのままに乱暴に扉を開けると隣の部屋の小林さんがいた。
「なんですか?」
「【命令】を、【命令】をください!」
どうやら彼女はSubらしい。ここまでになるということはパートナーもいないのだろうな。本当は姉さん以外に【命令】を使いたくないが今回は仕方ない。
「小林さん、【座れ】これでいい?」
だらしなく床に座った彼女をみる。涙と鼻水でボロボロの顔をしている。誰かに見られたら変な噂を立てられそうなので一度部屋に入れる。
「何があったの?」
箱ごとテッシュを渡しながら小林さんにとう。
「しばらくDomの【命令】を受けれてなくて。その時にあなたの声が聞こえてきたら我慢できなくなって。ごめんなさい」
自分の体調くらい自分で管理しろと言いたくなるのを堪える。
「大変だったね。もう落ち着いた?」
「あ、はい。ありがとうございました」
悪い子ではなさそう。容姿もそこそこ整っている。姉さんも気に入ったみたいだ。
「あ、お礼と言ってはなんですが、あなたに憑いているもの祓いますよ」
「大丈夫。別にお礼なんかいいから」
どうやら彼女には姉さんが視えているらしい。これは非常に厄介だ。もう降ろしていいかしら。
「お礼でなくても、私が祓いたいんです、ずっと霊と一緒にいると精神衛生的に良くないですよ」
私にとってはあなたの存在が精神衛生上良くないなんて言えない。言ったら彼女の面倒さに拍車がかかってしまう。
「大丈夫ですから」
「そんなこと言わずに、ね?」
「このままで大丈夫です。特に問題も起きていないので」
「いや、ダメです。絶対ダメです。祓うまで帰りません!」
この人、霊視商法でもしにきたのか疑いたくなるほど粘り強い。まさか何か売りつけられてしまうのか? 人生初の悪徳商法体験してしまうのか?
「どうしてそこまでして祓いたいんです? 私はこのままでいいと言っているのですけど」
彼女の次のセリフはさすがの私でも予想外だった。
「だって私、あなたのことが大好きなんですよ!」
【小林玲奈の破滅】
言ってしまった。でもこうなったら全部言ってしまおう。
「私は賢くて、美しい彩花さんが大好きなの」
彼女の目を見て言う。
「だから、私はあなたに狂ってほしくないの。霊と長いこと話しているとおかしくなってしまう。あなたにはそうなってほしくないの」
姫川さんの目も顔も氷のように冷え切ったまま動かない。ただ蟻地獄を見るかのように憐れみの視線を向けるだけだ。
確実に告白された時の反応じゃない。
「美人で可愛くて賢い姫川さんが好きなの。愛してるの」
全くの無反応。瞬きすらない。
「私、あなたのためなら何でもできる。あなたのためならこの命でも捧げられるよ」
この言葉にようやく反応してくれた。
「何でもって言った?」
反応してくれたのが嬉しかった私は軽々しく口にする。
「何でもできるよ! あなたのためになら。だって姫川さんを愛しているから」
なぜか姫川さんは嬉しそうだ。
「そう。私のためなら死ねる?」
「ええ。それがあなたのためになるなら、あなたにこの身を捧げることだってできるわ」
彼女の幸せのためなら何でもできると本気で思っていた。死すら怖くないと思っていた。
「その言葉、後悔しない?」
「ええ、もちろん! 当たり前だよ」
この時はまだ彼女の言葉をたとえ話だと思っていた。だが、真実は違った。
「なら、死んでちょうだい」
そう言って姫川さんが私の首を絞める。息が詰まって苦しい。
「【抵抗するな】死んでも良いのでしょう? 小林さん」
頭がガンガンと痛くなる。喉が渇いて張り付く。
「そう。上手だよ。その調子だよ」
ああ、この状況で姫川さんは笑っている。狂っている。
それでも体は素直にDomの命令に喜ぶ。それがおかしくって私も笑ってしまう。
「【寝て】意識を飛ばして」
彼女の命令に従ってゆっくりと意識を飛ばしていく。
「【降りろ】、瑠花」
姫川さんが誰かに命令したとたんに、何かが入ってくる感覚がする。
まるで、誰かが自分の体を乗っ取られるような、そんな感覚がした。
「瑠花、その調子だよ。降りていいよ。憑依して良いよ。その子を【喰べな】」
視界が白く染まってゆく。霧の中にいるようだ。
ぼんやりとした霧。そこに両親が視える気がした。
よくある交通事故。運転席にいた母と助手席にいた父は死亡、私も生死を彷徨ったがなんとか生きていた。
両親の遺産は私の入院費用や葬式その他でみるみるうちに減っていった。なんとかやりくりして中学を卒業し、特待生としてこの学校に入学した。
私は走馬灯を見ているのだろう。なら、もうすぐ死ぬのか。姫川さんの【命令】のおかげか意外と苦しくない。
お母さん、お父さん、今会いに行くから待っててね。
【姫川彩花と姫川瑠花】
「調子はどう、姉さん」
「完璧よ。やはり人間の体は良いねえ」
どうやら憑依はうまくいったらしい。これでまた生きた姉さんに会えた。
「彩花。ずっと触れたかった。こうやって抱きしめたかった」
姉さんに抱きしめられる。昔のような柔らかい胸はないが、そのおかげで姉さんの心臓の音が感じられる。姉さんが生きている。
「私も瑠花姉さんの体温を感じたかった。おかえり、瑠花!」
「ただいま。ようやくだね」
私たちは抱き合ったままベットに倒れ込んだ。
「脈がある。呼吸をしてる。目が動いてる。瑠花が生きている!」
「そうだよ。姉さんが生き返ったんだよ」
「瑠花、大好き」
「私も彩花が大好きだよ」
こうして抱き合ったまま笑って、泣いて、身体中に触れて、生きていることを確かめた。
そして気がついた時には寝ていて、目が覚めたのは朝5時。起きても瑠花が腕の中にいて、昨日のことが夢じゃないと確信できた。
「瑠花」
そっと唇に触れる。生前と姿は変われども雰囲気は変わらない。優しくて美しい姉だ。
「大好きだよ」
「おはよう、彩花。私も大好き」
いつもならちょっとやそっとじゃ起きない瑠花が起きていた。私は驚いてベッドから飛びのく。
「瑠花起きてたの?」
「この体の持ち主の眠りが浅かったみたいだからね。今後は一緒に朝ごはん作れるよ」
「そうそう、今後のことなんだけどね?」
私は瑠花に今後の計画を話した。
まず、外では小林玲奈として振る舞うこと。絶対に中身が変わったとバレないようにすること。でも部屋の中では姫川瑠花に戻ること。私も外では小林さん、内では瑠花と呼び分ける。
そして、寮の部屋を一緒にしてもらえるよう先生に頼みに行くこと。一人部屋希望者は多いのですぐに一緒になれそうだ。
最後に、ここから遠く離れた大学に行って、そこから姫川瑠花の性格に戻る。さらに大学卒業後は籍を入れ改名して完全に姫川瑠花になること。
全て話し、多少の計画の修正と納得、そして小林さんになりきる練習をした。そうすれば時刻は6時。朝ごはんの時間だ。
「今日はオムレツとトマトとトーストにしようか」
瑠花がオムレツを焼いてくれる。しかもチーズ入り。絶対に美味しい。
その間に私は食パンにバターを塗ってトースターで焼き、トマトを切る。ついでにきゅうりも切る。必要分をお皿にのせ余った分はお弁当へ。作り置きのおかずと冷凍食品でお弁当を埋めてゆく。
オムレツを完成させた瑠花がヨーグルトをよそい、ジャムを乗せる。ついでにトーストもお皿に乗せてくれる。
「食べようか」
テーブルにそれぞれの分の食事を運ぶ。
「いただきます」
久しぶりの二人揃っての食事はとてもおいしかった。瑠花のオムレツは以前と同じように綺麗で美味しく、涙が出た。
数時間後、学校に行ってからは姫川彩花と小林玲奈として振る舞った。誰も小林さんの中身が変わったと気づかない。気づくほど親しい人間がいないからだ。
数日後、無事同じ部屋になった。ルームメイトとして学校でも少し仲良く過ごせるようになった。
数ヶ月後、図書館で一緒に志望校を探すようになった。志望校は海外の学校にした。
数年後、私たちは海を超えた先の大学で共に勉強していた。海外での生活は大変だった。特に食事がくせものだった。
さらに長い年月が経ったころ。永住権を取得し、小林玲奈から姫川瑠花に改名した。
そして、よく晴れた夏の日、こちらでできた友人や同僚を呼んで式をあげた。お揃いの真っ白なウエディングドレスを見にまとう姉さんはとても美しい。
「いよいよだね。いよいよ計画が終わる」
「いや、これから始まるのよ。これから全てが始まるの。ねえ、緊張してる?」
「全く。だって瑠花がいるから」
「私もだよ。彩花がいるからここまで来れた。ありがとうね」
「それはお互い様。さあ、幸せを宣言しに行こうか」
「そうだね、永遠の幸せを誓いに行こう」
お互いの片耳に青いイヤリングつけて最終計画へと向かう。