6.初めてのパーティー(番外編)
その日、会社関係の付き合いでパーティーに招待されていた佐伯は、面倒くさい、と駄々をこねていた。
会社の社長である佐伯は、取引の関係で華やかな場に呼ばれる事が多々ある。
ただ、今回は取引先の会社の部下の誕生日パーティーだという。
行かなくてもいいのだが、有能な部下の配慮で行く事になってしまった。
「だめですよ、社長。こういう地道な努力が、後に実を結ぶのですから」
佐伯の自家用車の後部座席の隣に座り、轟は説教じみた事を言ってくる。
会社の事はほぼ任せているのだが、こうした小言が多いのが悩みだ。
店に着き、轟が車のドアを開けた。
車は運転手に任せて、2人は店の中に入った。
店内はすでに盛り上がっている。
あちらこちらでグループが出来ていて、会話を楽しんでいる様子だ。
よく見ると、自分の会社の取引先だったりする。
ああ、あちらの会社も呼ばれていたのだな、と状況を確認した。
「社長、主催者の片岡様がお見えです」
轟の声に顔を向けると、片岡が笑顔で近づいてきた。
「佐伯様、ようこそお越し下さいました。来ていただけないかと思っていましたよ」
「片岡さんのお誘いとあれば、行かない訳にはいきませんよ」
佐伯は笑顔で応対する。
轟は、その様子を黙って見守っていた。
片岡とは他愛無い話をし、他の客に呼ばれたようで、楽しんで下さい、と言ってその場を後にした。
轟がグラスワインを持ってきたので、飲みながら店内の様子を見ていると、壁際に立つ女性を見つけた。
髪型も洋服も洗練されていて、その女性に似合っている。
だが、佐伯の見立てではかなり幼い印象だと感じた。
高校生?
いや、もう少し下か。
考察していて、気づいた点がある。
ただ立っているだけなのに、妙に目が離せないのだ。
すっと背筋を伸ばし、手を腰の位置で合わせ、頭はぶれず、ただ一点だけを見ている。
その姿を見ていると、非常に高貴な女性だと感じた。
あの立ち振る舞いは、少しの年月で培ったものではない。
相当訓練されているものだ。
「轟、奥の壁際にいる女性について、聞いてきてくれないか」
轟は少し黙った後、はい、と短く返事をして店内の聞き込みに回った。
ワインを口に含みながら、壁際にいる女性を見つめる。
女性は視線に気づいたのか、こちらを見ていた。
挨拶するべきだろうか。
近づこうとした時、轟が戻ってきたので話を聞いた。
パーティーの主催者である片岡の、娘の友人だという事が分かった。
なるほど、ならばそれなりの身分の者かもしれない。
どこのご令嬢かと思ったが、また会う機会があるだろう。
「今話した女性の、身辺を調べてくれないか」
「構いませんが、何故です?」
「んん、どうも気になるんでね。まあ私の興味本位だ」
轟はまた悪い癖が出たとため息をついたが、分かりましたと答えた。
佐伯は長居せず、ワイングラスを一杯飲むと、店を後にした。
轟に車を用意するよう促し、店の前に付けてもらう。
車には佐伯だけが乗り込み、発車させた。
轟は引き続き、佐伯の代わりに聞きまわりながら接待してくるという。
本当に有能な奴だ。
「旦那様、随分ご機嫌ですね。何かありましたか?」
車が走り出してしばらくすると、運転手が声をかけてきた。
長い間、佐伯の専属運転手を任せている。
そのせいか、顔に出ずとも雰囲気で分かってしまうようだ。
「まあ、ね。ちょっとした原石を見つけたんだ」
そうですか、と運転手は返事をした。
佐伯は、今後の事を考えると嬉しくて仕方がなかった。




