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5.初めてのパーティー(後編)

 



 お呼ばれしたイタリアンレストランは、特別大きい店ではなく、こじんまりした、アットホームな雰囲気だった。

 中に入ると、まだ準備中でばたばたとあわただしい様子だった。

 瑞樹(みずき)たちの姿に気づいて、近づいてきた人物がいた。


「やあ、随分早い到着だね」

 準備の為に早めにレストランに来ていた朱莉(あかり)の父親だった。

「パパ!」

 朱莉は走り出し、父親の元に駆け寄る。

 少し話をして、今度は瑞樹に振り返った。

「初めまして。朱莉の父です。今日は来てくれてどうもありがとう」

 笑顔で出迎えてくれた朱音の父親に、瑞樹はこう返した。


「本日はお招きいただき、誠にありがとうございます」

 深くお辞儀をし、にっこりと笑顔で返した。


 つい、前世での王妃時代のマナーが出てしまった。

 年相応ではなかったかもしれない、と不安になった。

 朱莉の父親は少し驚いた表情をしたが、すぐ元の表情に戻った。

「とても礼儀正しいお嬢さんだね。今日は楽しんでいって下さい」

 また後で、と家族に一言残し、朱莉の父親はその場を離れていった。


「小林さんってきちんと挨拶出来てすごいね。私、お店に来たら緊張しちゃって」

 瑞樹は、ははっ、とから笑いした。

 もっときらびやかな広い場所でパーティーを経験した事がある、とは到底言えない。

 あの場所では、物おじしているより、胸を張って堂々としている者の方が勝ちなのだ。

 社交界での地位は今後の生活にかかわる。

 パーティーを楽しみに行く、というより、戦場に赴く気持ちでいたのかもしれない。

「今日は呼ばれた側だし、楽しんでいこうよ。ね?」

 今日ぐらいは肩を張らずに過ごそう、と瑞樹は思った。


 開始時間前から、続々と人が入ってくる。

 その姿は、ほぼ年配の男性が多い。

 朱莉の父親の仕事関係の人が多い、と聞いていたが、かなりの人数が集まっていた。

 瑞樹と朱莉、朱莉の母親は、邪魔にならない壁際の隅で、始まるのを待っていた。

 パーティーは立食スタイルで、壁に沿って料理が並べられている。

 あちこちに小さなテーブルが置かれ、お酒と少しのおつまみがのっていた。

 招待された客人は、テーブルを囲んで談笑していた。


 時間になり、パーティーが始まる。

 朱莉は瑞樹に連れられ、出来上がったばかりの料理を品定めしていた。

「見た事もない料理ばかりだね。あ、これおいしそう! 食べてみようよ」

 朱莉に勧められた料理を皿にのせていたら、いつの間にか山盛りになってしまった。

 食べられるだろうか、と不安に感じるのもつかの間、会話を楽しみながら口に運んでいたら、あっというまに間食してしまった。

 小食の瑞樹だが、雰囲気に乗せられてしまったらしい。

 普段から余り物で過ごしているので食事をしていて楽しい、という感覚を感じた事はなかったが、おいしいし楽しい、と現世で初めて感じていた。


 お腹がそれなりにいっぱいになり、瑞樹と朱莉は、壁際に並べられた椅子に座って、楽しくおしゃべりしていた。

 朱莉の母親は、父親に寄り添って接待をしている。

 笑顔で応対しているけど、実際は結構大変なんだよね。

 と、ジュースを飲みながら瑞樹は目の端で、その様子を見ていた。


「やっぱりママってば、パパの側に行っちゃうんだから。挨拶してくるから、朱莉は待ってなさい、とか言って、一人にさせる気だったんだよ。本当に小林さんが居てくれて良かった」

 朱莉はため息をついて、ジュースをごくごく飲み干した。

「そういえば、誕生日プレゼントは渡したの?」

「ううん、まだ。今度3人で誕生日パーティーを行うんだ。その時に渡すつもり。ママとケーキ作って、ごちそう用意して。今回はいつもと違うプレゼントだから、びっくりすると思うよ」

「一生懸命作ったから、きっと喜んでくれるね」

 瑞樹と朱莉は、顔を見合わせて笑った。


 朱莉がジュースを取って来ると言うので、瑞樹は待っていた。

 しばらくすると、近くにいた高齢の男性が座る場所を探している様子だったので、瑞樹は立ち上がって席を譲った。


 壁際で立って待っていると、こちらをじっと見ている男性の目線に気づいた。

 50歳くらいの身なりのきちんとした男性で、瑞樹は会った事のある男性だろうかと頭の中を探してみるが、そもそも、大人の男性との接点がない。

 人との付き合いも薄いので、あれば学校の先生か、近所の住人か、父の会社の人には会った事はないのでこれは違う。

 誰だろうと悩んでいると、朱莉に声をかけられた。

「小林さん、新しいデザートが並んでいるから、一緒に見に行こうよ」

 一瞬目線を外し、朱莉との会話を終えた後に、もう一度目線を戻したが、その場にはもう男性はいなかった。

 気のせいかもしれない。

 瑞樹はその後、デザートを堪能してまた、朱莉との会話を楽しんだ。


 17時を過ぎ、瑞樹は朱莉と朱莉の母親と共に、タクシーに乗って朱莉の家へ帰宅した。

 瑞樹は着替えて顔を洗い、朱莉の母親に丁寧にお礼を言った。

「今日は誘っていただいて本当にありがとうございました。とても楽しい時間でした」

「とんでもない。こちらこそ朱莉のお守をさせちゃってごめんなさいね」

「ちょっとママ。その言い方はひどいんじゃないの」

「今日は大人のお付き合いが多い日だったから、朱莉を一人にさせちゃって悪かったと言っているだけよ。変な意味じゃないわよ」

「本当?」

 朱莉は母親に対して終始怒った顔を見せた。

「小林さん、またウチに遊びに来てね」

「うん。本当にありがとう」

 玄関で朱莉と朱莉の母親に見送られ、足早に家へと向かった。


 家に帰ると、炊き立てのご飯の匂いがした。

 食事の支度はほぼ出来ているので、後は皿に盛り付けるだけ。

 今日は母の好きなビーフシチューにした。

 瑞樹が出かけて不機嫌な気持ちでいるかもしれないと、瑞樹は妙な気を配っていた。

 案の定、帰宅した時の足音やドアを閉める音で不機嫌なのは分かったが、家中に香り立つビーフシチューの匂いで、一気に吹き飛んだらしい。

 お代わりをして、残りは朝食べるのだとか。

 父と妹は、我慢して1回で済ませたようだ。

 もちろん、私の分はない。


 いつものように後片付けをして、部屋に戻る。

 疲れたけれど、嫌な疲れではなかった。

 目を閉じると、パーティーの様子が鮮明に思い出される。

 食べた料理の味、再現出来たらいいなあと、どんな味だったかと思い出しているうちに、瑞樹は夢の世界へと引き込まれてしまった。




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