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11.初仕事のトラブル(後編)

 


 午後は、一番気になる所の掃除に取り掛かる事にした。

 台所の戸口から裏へ行けるのだが、草で生い茂った中に、洗濯の干し場があったのだ。

 しばらく人の手が入っていないので仕方がないが、これでは洗濯を干す事が出来ない。

 今日は、物干し竿を拭いて、何とか干してみた。


 戸口を出て、建物に沿って左へ回ってみる。

 物置があり、開けてみると、草刈り鎌やほうきなど、掃除道具が一通り入っていた。

 他に、金づちや釘などの大工道具も入っているので、簡単な補修なら何とかなるかもしれない。

 鎌は錆びていたが、今使うには支障はないのでどんどん刈っていく。

 こういう単純作業は夢中になってしまう。

 1時間ほどで、人が通れるほどの場所は確保できた。


 一旦台所へ戻り、気になる事や、必要な物をメモしていく。

 いつ佐伯が来るか分からないが、報告の為に色々と書いていた。

 ここまでする事はないのかもしれないが、瑞樹の性分らしい。

 任された仕事は徹底して行う。

 前世で身についた癖はなかなか直らない。

 前世の方が、今世より長く生きていたのだから、仕方がない。


 一通り書き終えて、窓の外を見る。

 ぼうっと空を見つめていると、今まで母の監視下にいた頃が嘘の様だと感じた。

 いつまで自分はこんな惨めな生活を送るのかと、暗闇の世界に閉じ込められた気分だった。


 急に、前世で断罪された時を思い出す。

 突然地下牢に閉じ込められ、冷たい地面で2日過ごした。

 硬いパンと冷たい水のようなスープを与えられ、寒さだけではない体の震えを感じて、生きている心地はしなかった。

 見張りがしている噂話で、自分に置かれた立場を把握し、愕然とした。

 悲しむ間のなく、斬首台にあげられた時の民衆の眼差しが未だに忘れられない。

 王妃だった人間を見る目ではなかった。


 家畜か、それ以下か。


 鋭い剣を体全体に突き付けられている様で、今だから言えるが、恐怖で尿意を感じ、漏らしそうになっていた。

 首を差し出した後の事は覚えていない。

 今、瑞樹に残されているのは、痛みではなく、恐怖。

 当時の事を思い出すだけで、体が震え始めるのだ。


 外を飛ぶカラスが、カァ、と鳴き、瑞樹は我に返った。

 外は薄暗くなってきている。

 嫌な汗をかいている、と、おでこを拭い、立ち上がろうとした時にふらついて、倒れそうになった。

 呼吸が荒くなっている。

 深呼吸を数回して、頬をぺちん、と叩いた。

 腰に巻くエプロンを身に着ける。

 紐をきゅっと縛り、気を引き締めて仕事を再開した。




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