10.初仕事のトラブル(前編)
早朝、日が昇っておらず、辺りは暗かった。
まだ虫がコロコロと鳴いている。
瑞樹は目が覚めてしまい、仕方なく起きる事にした。
時計は4時を過ぎたばかり。
セットした目覚ましを止めて、大きく背伸びをした。
昼間はぽかぽか陽気とはいえ、4月の早朝はまだ肌寒い。
さっと着替えを終え、布団を簡単に畳んだ。
いつもは布団とも言えぬ敷布に薄い肌掛けをかけて寝ているので、こんなにもふかふかの布団に寝たのは記憶での中では初めてだ。
体を折り曲げて狭い部屋で寝ていた事に比べれば、今日はとても快調だ。
音を立てずにそっと廊下を歩き、台所に行くと、少しほっとした。
朝食の準備をするには早すぎるが、粗相があってはいけないので、早めに取り掛かる事にした。
新調したエプロンを腰に巻き、結ぶと気が引き締まる。
とりあえず、米を研ごう。
ボウルに米を入れ、研ぎすぎないようにさっと水で流し、内釜に入れて適量の水を入れる。
炊飯ジャーにセットし、電源を入れてスイッチを押す。
「・・・あれ?」
電源が入らない。
コンセントを抜き差しして、何度もスイッチを押すが、電気が通っている様子が見えない。
「ど、どうしよう」
不安を口にしてしまう。
おかずは他で代用できるが、主食は米がいいに決まってる。
まして、今日は1日目。
最悪、パンで代用してもいいかもしれないけど、何かストックがあるかもしれない。
急いで食材がしまってある棚や冷蔵庫を探すが、かろうじて冷凍庫の奥に、うどんが入っていたのを見つけた。
出来ればレンジで温めるタイプのご飯があればよかったけど、仕方がない。
気持ちに余裕が出たので、少し考える事にした。
時間が早いので、山を下りて店に買いに行く、という選択肢もある。
でも、瑞樹は周辺の地理をまだ把握していない。
佐伯から地図を貰ったが、これから行くのはあまりにも無茶な行為だ。
それに、店があるとも、開いているかどうかも分からない。
この案はダメだ。
なら、どうする?
周囲をぐるっと見ていると、レンジに目が留まった。
そういえば、レンジでお米が炊ける容器があると聞いた事がある。
美味しいかどうかは別として、そういった物があれば何とかなるかもしれないのに、と、ない物ねだりをしてしまう。
そんな事を考えていると、瑞樹ははっとした。
「そうだ!」
急に思い出し、部屋に戻る。
昔、家のテレビで災害時にフライパンでお米が炊ける、という話をしていた。
電気がなくても、家のガスで作れるという特集をしていたのだ。
面白いなあ、と思い、記憶しておいて、後でメモを取ったのだ。
その時のメモ帳があるはず。
瑞樹は見つけると、一気に安堵感が増した。
フライパンを綺麗に洗い、試しに1合だけ炊いてみる事にする。
新たに1合だけ米を洗い、フライパンに入れて、水を1.2倍入れる。
強めの中火にかけ、沸騰したら平らにならして蓋をして弱火で10分。
その後、中火で20秒炊いて、火を止めて10分蓋をしたまま蒸らす。
書いたメモが殴り書きだったので難しそうに感じたが、やってみると案外簡単だった。
初めての試みなので、目を離さず、炊けるまで側から離れなかった。
お米の良い匂いが立ち込める。
頃合いを見て蓋を開けると、炊飯器で炊くお米と、全く変わらない出来合いだった。
瑞樹は微笑んで、成功を祝った。
もう一度1合分を炊いて、良い出来を朝食に採用する事にした。
主食の問題は解決できたので、冷凍庫に入っていたメインの鮭を解凍して焼く。
あとは、小付けと味噌汁、簡単に作った浅漬けをつけよう。
納豆も賞味期限内なので、一応出しておく。
白米は別添えにし、茶碗をつけて、自分でよそうスタイルにした。
茶器に茶葉とお湯、湯飲みを添えて、完成。
「たくさん乗せちゃったけど、まあ、いいか」
食べきれなければ残すだろう。
時間になって、廊下にそっと置いて退散した。
瑞樹も朝食を取る事にした。
鮭はないので、小付けに作った、切り干し大根を煮た物を口にほおばる。
乾物は使った事がない。
両親がこういった物が好きではないので、あえて使わなかったが、使ってみると便利で使いやすい。
乾燥しているから日持ちもするし、うまみも凝縮している。
こんなに美味しいのに、嫌いだなんてもったいないと、口に含みながらうんうんと唸った。
今後支障がなければ、乾物も使ってみようと思った。
朝食の片づけを終え、台所を一通り掃除する。
洗濯をしている間に、玄関や廊下の掃除を始めた。
一見綺麗ではあるけれど、細かい所に埃が溜まっている。
時間をかけて掃除したい所だが、今日は一通り見回りたいので、支障のない所で留めておく事にした。
そうこうしている内に、昼が近づいてくる。
昼食は牛丼にした。




