やめろ、その言葉はおれに効く~お兄ちゃんの小説おもしろくないんじゃない、といわれた男の魂の叫び~
「お兄ちゃんの小説おもしろくないんじゃない」
「あああっああああぁ」
つらい、くるしい、なみだがでる。
高卒ニートの二十歳。それがおれのすべて。仕事をせずにマンガやゲームやアニメを楽しんできたが同じことをしていると飽きがくるわけで、小説なんかも読んだりする。ネットの小説だ。おもしろいものもあればおもしろくないものもあり、そういう外れをひき続けてくると「あれ、これおれにも書けるんじゃ」なんて思ってくるわけだ。このくそざこなめくじどもめ、おれさまがほんとうの小説というものの書き方を教えてやる。そう思って血反吐をかましながら必死に書いた自慢の小説。ブクマ3。吐きそう。
簡単なことだ。くそざこなめくじはおれのほうだったというわけだ。ほんとうにつらい、手汗がふきだしてきて、震えがとまらない。あたまがどうにかなってしまいそう。なぜ、どうして、なにがいけなかった。感想なんて当然もらえないわけで、なにがよくてなにがだめなのかさっぱりわからない。友だちなんて架空の存在がいるわけではないし、社会から切り離されたところにいるおれには指摘をしてくれる人間がいない。だから中二の妹にあたまを下げて読んでもらったらこれ。つらい、いやほんとうにつらい。その言葉はおれに効きすぎる。
「どこからいえばいいのか、まずはタイトルなんだけどぜんぜん興味ひかれない」
「ああぁぁぁ」
「あとあらすじ長すぎ。短すぎてもあれだけど、これまったくあたまに入ってこない」
咳がでる。胸をおさえる。もう聞きたくない。
「い、いや、ファンタジー小説なんだからそんなものだと」
「はあ。あのね、ファンタジー小説ってお兄ちゃんがおもってるほど簡単じゃないの。まずは言葉の勉強からやりなおしたら。鍛造と鋳造って意味ちがうからね。鍛造は叩くやつ、鋳造は鋳型にいれるやつ」
「あっ、はっ、がは」
妹の言葉がつらい。ナイフでえぐられるよりもずっとつらい。心が痛い。
でも、でも、妹が相手だからこそ、おれはまだ生きていられる。空気が読めなさすぎて会う人会う人にマジ顔で指摘をされ、おまえいいかげんにしろよとマジギレされた数など山のようにある。ソシャゲをやりチャットでもすればまじきめえとグループを追い出される。孤独もつらい。友だちほしい、でもできない。そんなおれと唯一会話をしてくれるのが、妹。こいつがいなければおれはとっくにこの世とおさらばしていただろう。
しかし現実を受け入れるのにおれは心が弱すぎた。自分の部屋で椅子にすわって話を聞いているはずなのに目がかすんでくる。喉の奥がからからで舌がはりつきそう。はあ、はあ。妹を見よ、こんなうんこ製造機の妹とは思えないほどかわいく育ってくれた。めんどうくさいおれみたいなやつと一緒にいてくれるのだ。ありがたい、ほんとうにありがたい。感謝の気持ちで心がはりさせそうだ。
しかしだめ、癒しが必要だ。おれは妹に五百円をわたす。
「はあ。はい」
学校帰りの妹はゆったりとした私服姿。ベットの端にちょこんと座り、ひとつ膝をたたく。おれは妹の膝にあたまをのせた。
「よしよし、いい子いい子」
「おぎゃあ、ばぶばぶ」
赤ちゃんになってママにおぎゃりたい。そう思うやつは多いはず。かくいうおれもそうだ。現実はつらい、働くのはたいへんだし我慢が必要で、人づきあいを考えるだけで吐きそうになる。それを忘れるために必要なのが、ママだ。ばぶみのある中学生ママにおぎゃることですべてのくるしみから開放されるのだ。
「もういいかな」
「いや、もうすこし」
「はー。ほんとうにお兄ちゃんってどうしようもないよね。モテないし頭わるくて勉強できないし忍耐がないからがまんができない。だからなにもできないの」
「やめろ、その言葉はおれに効く」
「あのね、ソシャゲだってこつこつやるのが大事なの。でもお兄ちゃんはがまんができないから課金して、でもランキングのれなくて飽きてきてすぐやめちゃう。がまんを覚えようねお兄ちゃん。微課金は課金じゃないとかそんなことないから」
「ああぁぁぁぁぁあ」
やめろ、やめてくれ、ママはそんなこといわないんだ。
「だいたいそんな簡単にブクマふえるわけないでしょ。投稿してるひとの数かぞえたことあるのかな。いまアニメになってるような原作者さんも初投稿は5~6年前とかざらでしょ。こつこつやるのが大事なの。わかるかな」
「ごほっ」
「続けていけば上手になっていくものだし、もしならなくても学びがあるでしょ。なにごとも忍耐がだいじなの。それを育てようね」
「おぎゃ、おぎゃ」
つらい。けれど妹はやさしくあたまをなでてくれる。うれしい。しかしつらい。幸と不幸がごっちゃになってぐちゃぐちゃになる。もうどうしていいのかわからない。
うそだ。わかっている。答えは妹がすでに口にしている。耐えるのだ、がまんを覚えるのだ。毎日こつこつ書きつづける、つらくってもとどまる。そうして成長を重ねていこうと、いってくれているのだ。スポーツ選手は毎日それをしている。産まれたままでスターになったわけではないのだ。
夢はない、希望もない。じゃあなにもしないのか。いままでそうだった。だが変わりたいとおもった。ニートを続けることなんてできはしないが、働きたくないという思いは強い。ならできることをするだけだ。おれには絵なんて描けないし楽器もできない、大好きな創作物を消費するだけのうんこだ。うんこをやめたい。人間になりたい。
「はあ、はあ。おちついてきた。ありがとう」
「はいはい」
だいじょぶだ、おれはまだがんばれる。たったひとりでもやさしくしてくれるひとがいるならば、時間をかけて立ちあがれる。もちろんすんなりとは立てない、くそざこなめくじのおれは心が弱すぎて言葉が効きすぎる。飲みこみたくないことを飲みこむには時間がかかるのだ。
「ああ、女子小学生のぱんつに生まれたかった」
「ほんときもちわるい」
よし、がんばる、がんばるのだ。いやまだちょっとつらい。
もうすこしだけママになってくれ、ばぶばぶ。
私小説風エッセイなのかな?
こんな妹がほしいだけの人生だった…。




