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1-6

 屋敷内部は高価な調度品や品の良い家具で統一されていた。仁村に案内された客間で所在なさげに辺りをきょろきょろとしていると、笹原が現れた。


「やぁ、早速真夜と仲良くしてくれているのかい」

「おじさま、そんなことは…」


 どうみたって気まずそうに佇んでいる俺と仁村とを気遣って茶化す笹原であるが、それは気遣っているのではなく無頓着なだけなのではなかろうか。


「真夜、悪いが席を外しなさい」


 有無を言わせぬその物言いに、仁村は静かに従った。

 彼女が退出し客間には俺と仁村氏が取り残される。

 どこか遠くで太皷の音が鳴り響いている。祭りの準備でもしているのだろうか。


「もう今年もこんな季節か。年を取ると時間の感覚が無くなってしまうね」


 遠くを見るように窓の外を眺めていた笹原はこちらへと振り返る。


「斎賀限心は変わりないかね?」

「師匠は亡くなりました」

「ほぅ…」


 少し驚いた様子で眼を細める。


「それは()()いないという事かな?」

「…?すみません、よく分かりません」

「ああ…。いや、すまないね、変な事を言って申し訳ない」


 年寄の妄言だ、許しておくれ。

 笹原はそう言って席を立った。

 どこか遠くで鳴り響く太皷の音に耳を傾けるように窓の外を見る。


「彼女は…、そう。彼女は私と研究テーマが似ている事もあって意見を交換する事があった。とは言っても最後に会話を交わしたのは十三年程前の事だ。聡明な女性だったと思うよ。実に惜しい人を亡くしたものだ。お悔みを申し上げる」


 その言葉が本心かはよく分からない。

 笹原はこちらに背を向けて窓の外を見るようにしている。

 まるで真意を悟らないようにそうしているのではないかと、あからさまな印象を受けた。


「ところで"師匠"と言っていたが、徹君は彼女の弟子なのかい?彼女は弟子を作らないと言っていたような気がするが」

「勝手に俺が弟子を自称しているだけです。色々教え込まれましたが、結局俺に魔術の才能はなかったようです」

「ふむ…。才能の無い者に無駄な時間を割ける程、魔術師は暇では無いと思うがね」

「師匠は俺に自分の研究について話すことはありませんでした。魔術について期待はされていなかったと思います」

「…」


 限心は自分の研究について語ることはしなかった。俺がどれだけ懇願しようとその事については口を開かなかった。対極的にそれ以外の魔術については、恐らく彼女が知り得る全ての事象について知識を授けてくれた。それを実践できない俺にとっては単なる宝の持ち腐れだが。

 

「魔力の発現には個人差がある。幼少期から才覚を発揮する者もいれば、十分に発現しうる資格がありながら生涯を通じてそれに恵まれないものもいる。しかし一つ言えるのは魔術を扱える者、扱えない者には明確な差があるという事だ」


「それは血族の継承によってのみ為される資格だ。魔術師の家系は血縁関係によってのみその能力を受け継いでいく。故に魔術師の子弟関係とは通常、親子や兄弟を指すことが普通だ」


「君のように彼女の血を受け継いでいない者がその教えを受ける関係というのは至極珍しいものだ」


 限心と血縁関係で無いことを笹原には伝えていない。

 それを指摘すると笹原は頷いた。


「魔力には色がある。彼女の場合、特徴的な黒い魔力だね。名のある魔術師であればそれを隠すのは容易いがその域に達する者は少ない。血縁者であるかはそれを見れば判断がつくのだよ。すまないが君からは魔力を感じられない。徹君が彼女の弟子であるかを聞いたのはつまりそういう事だ」


 限心からも似たような事を聞いた事がある。


『徹には色がない。何者でも無いが、何者でもある。』


 笹原の説明とは少し違う気もするが。


「しかし故に君には興味がある」

「俺は魔術に関してはからっきしですよ」

「徹君を彼女が傍においていたという時点で興味は絶えないよ。私の魔術、魂魄還元はお世辞にも完成されているとは言えない段階の代物だ。基本理論について記した私の著書を十三年前彼女に差し出したはいいものの、そこから進歩が無いのが現状だ」

「拝見しましたが何も問題はないように俺には思えましたが」

「…魔術を実践する事が出来ないというのにその感覚を持てるという事が奇跡なのだよ」


 それは買い被りというものだ。

 俺はただ魔術書に目を通してそれを理解したに過ぎない。


「あるいはその辺りに斎賀限心が徹君を弟子にした理由があるのかもしれないね」

「一つ聞いてもいいですか?」

「なんだい?」

「魂魄還元法は人の魂を代償にして対価を得ることを目的としていますよね」

「その通りだ」

「対価として人を蘇らせることはできますか?例えば----------------魔術師とかを」



 笹原は俺をまじまじと見つめてこう告げた。 



「その結論について私は一つの回答を持っている。聞きたいかね?」

「はい」

「しかし、その回答を君に伝えるには対価が必要だ。魔術師の見解を得るのだ。君もそれなりの覚悟があってここにいるのだろう?」

「ええ。もちろんです。タダで聞こうとは思っていません」


 何かを得るには何かを代償にしなくてはならない。

 等価交換の原理原則は全てにおいて魔術師の普遍的な原則だ。


「よろしい。ならば斎賀徹君には我が笹原古物商の一員となってもらおう。君の知識は我々の探究を飛躍させる一助となるはずだ」

「わかりました」

「…こう言ってはなんだが。そう簡単に頷いてはいけないよ。魔術師は基本的に互いが敵であるという認識を忘れない事だ」

「貴方が敵であろうとなかろうと俺が生きがいとしていた人はもういません」

「なるほど…。そういうことか」


 ここで初めて笹原は得心がいったという風に大きく頷いてみせた。

 

「彼女は全く隙を見せない魔術師だと思っていたが、その隙をこじ開けてみせたのだね、君は」


 何かを見透かされているようで居心地が悪い。


「笹原古物商の一員になるという事に同意します」

「本当にいいのかね?」

「行く宛が無かったのでちょうど良いです」

「それは天啓だ。何悪いようにはしないさ」


 かつて同じように俺へ手を指し延べた魔術師がいた。

 無茶苦茶な誘い文句に頭は混乱していたが、自然と涙が溢れていたのを覚えている。

 それは自身が望まれてそこにいてもいいのだという安堵から来る涙だった。



「それで…魂魄還元法が亡くなった人間を蘇らせる事が出来るか、だったね」


 笹原徹は、言った。



「その答えに最も近づいていたのは、何者でもない君の師匠、斎賀限心だよ。そして恐らく、」





「彼女は完成させたからこそこの場にいないのではないかな?」

 


 

 

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