第99-1話 深紅の宝石と怪盗団
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「先生、調子はどうでしょうか?」
「……ダメだ、全く思い浮かばん」
国王から絵師になったマサカリは悩んでいた。といっても、人生の壁に行き詰まったとか、何か体の調子が悪いとかそういうことではない。ただ、次の作品をどう描こうか迷って悩んでいるだけ。俺とジャッカルは、マサカリの弟子として居候しているから、よく隣の部屋から彼の独り言が聞こえてくる。
マサカリの顔は俺たちとは少し違い、特殊なメイクを施している。青年ではなく老人に見えるように、生命の石を使って肌質を変えた。しかし、見た目以外は変わらず、青年と同じくらいの体力を持つ。違うのは顔と肌質と髪の色のみ。
そのマサカリの暮らす豪邸の地下には、俺たちの本当の部屋が隠されている。表向きの部屋は彼の隣の部屋にあるが、そこはあくまでも弟子としての部屋。地下にあるのは、俺とジャッカルの本性としての部屋だ。特殊武器とか装備とかは、誰も入れないような地下に隠しておかなければならない。
絵画展の担当者がマサカリと会話している間に、俺たちは地下室に入った。
会話の内容も、上の表向きの部屋とは違う。上では「マサカリ先生」について語り合うが、下では「この国の治安と自警団の必要性」について語り合う。闇の業界で知られている情報を教えあったりして、国全体の犯罪者を”討伐”していく。つい最近、強盗団を倒した時も、新たな情報を得た。といっても、警察の会話を盗み聞きしただけだが。
「マサカリも出展予定の”ルーゼント・シーザル展”で、”深紅の宝石”と呼ばれる、高級で美しい宝石が展示されるみたいけど、そこに『宝石を盗む』と怪盗団による予告があったらしい。どうやら国王の宝石で、国中の警察を一堂に会して厳重に警備するようだ」
「なるほどな、そんなに大切なら展示しなきゃいいのにな。今ならオンライン展示でも何でもできるだろ。それに一堂に会して厳重ねぇ……その間他の場所の警備はどうするんだ?」
ジャッカルの意見は、正論すぎる。一夜限りの展示会で、国王の身につけている宝石も展示されるというが、こんな危ない世の中なのに強行するというのか。最近は怪盗団とかいう、特殊な武器を使って次々に宝石を盗みまくる奴らも蔓延る世の中になってしまった。人口も急激に増え、もはや特殊能力を持っていようとも対処できなくなってきた。
イギリスなんてセントリーよりも小さい国、なのに今はセントリーよりも人が多い。そのため、俺とジャッカル、2人体制で犯罪者に挑んでも、勝てるには勝てるが、全てを対処することはできない。いくらでもテレポートが使える訳じゃないし。
「俺たちは怪盗団を阻止すればいいのか。だが、イギリス全体の犯罪を止めるのが俺たちの役割だ。お前はテレポートを常時使えるようにしておけ。生命の石の魔力を使えるのはお前だけだ、記憶力でテレポートの呪文を唱えようとも、俺に魔力はほぼ無い」
ジャッカルは、ブレスレット型のスタンガンをいじりながら俺に痛い意見を投げかけた。スタンガン、それは電気を発射する鉄砲と説明すればいいか。スタンガンを食らった敵は、電気で体が痺れてしまい、その場で崩れ落ちてしまう。普通は鉄砲のような形をしているが、ジャッカルが持っているのはブレスレット型。
どうやら怪盗団の下っ端から奪った武器らしい。怪盗団に名前は無いが、警察によって勝手に付けられたコードネームがある。その名も、”エージェント・ノワール”だとか。怪盗団の構成員は全員、元秘密組織のエージェントだったらしく、その秘密組織が戦争で自然消滅したのをキッカケに、怪盗として暴れ回っているらしい。
「……分かった」と、俺はジャッカルの目を見ずに返事をした。
「……なら、ブーメランを改良しておけ。俺は今から近所のゴロツキ共を潰してくる。あいつら、またコーズグループ社の倉庫にたむろしているからな。大きい仕事があったら、また連絡する」と、そう言って、ジャッカルは地下室から出ていった。
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4日後、マサカリと俺とジャッカルは、ルーゼント・シーザル展に行った。マサカリは出展した作品があるから、俺とジャッカルはマサカリの弟子ということで、特別に会場に入らせてもらった。やはり怪盗団からの予告状が届いた関係もあってか、特別に許可された人物しか入れないようになっていた。
俺たち以外に許可された人物はというと……とても豪華だ。隣国の大統領、国王、都市のお偉いさん。世間を騒がせているセレブに、お茶の間を笑わせているタレント。政府の人間に国際機関のトップまで。逆に何で俺たちみたいな一般人が入れたのだろう、いくらマサカリの弟子という設定とはいえども、結局は普通の人だ。
「ようこそお越しくださいました。マサカリ様ですね、どうぞ、こちらの控え室に。お2人は荷物検査の後、大エントランスまでお越しください。ルーゼント・シーザル展を楽しめますよう、心から---」
受付の人が説明をしている中、俺とジャッカルは密かに能力を使って、警備をチェックしていた。大体は空気の流れで把握できる。実際に見えなくとも、警備員がどこでどうしているか、何となく分かる。前はそれをモンスター相手に使っていたが、今は人間相手に使っている、ただ、それだけ。
俺とジャッカルは脳内で話し合うことができるから、それで頭の中で会話する。残念ながら、マサカリと脳内で会話することはできない。これはマークの形成した人格の種類から異なってくることだから、仕方ないといえば仕方ない。
「大エントランス奥に宝石があるな。警備は厳重だが、空気の流れがおかしい。もう既に警備員の中にエージェントが紛れ込んでいる可能性がある。実際に近寄らないと確かめられないが、お前はどう思う?」
「同じ、それに皆、殺気立っている。これじゃあエージェント関係なしに暴動が起こる」と、俺は答えた。
怪盗団がいるかもしれない、なのに展示会は開かねばならない、それで警備員の心は板挟みになっているんだろう。だから皆、心が殺気立っている。下手すれば、ストライキじゃないけど、何かしら問題が起こる気もする。怪盗団が現れれば怒りの矛先は向こうに向けられるが、現れなければ殺気立ったまま終わる。
「……なるほどな。まずは荷物検査をクリアして、向かいのホテルの屋上に集合だ。ブレスレットとブーメランと、グラッピングワイヤーを忘れるなよ。俺が移動できなくなるからな」
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