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最終話 多重人格の青年

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 魔王を討伐してから、約600年が経った。


 まず、世界は大きく変わった。

 俺たちは相変わらず元気に暮らしている。体がモンスターだということもあって、寿命もなく老けずにずっと生きているが、国や街は常に変化を求め、常に変化を続けている。


 例えば、先の戦争によって「モンスターは架空の存在だ」ということになった。前からそういう風潮はあったが、モンスターに関する書物が戦争によって全て燃やされたため、よりモンスターは虚構で生きる生物となった。だからもし、俺が子供の前で「昔モンスターを倒したことがある」と自慢しても、嘘だと認識されるだろう。


 今やモンスターは今やゲームのキャラクターとなっている。ゴブリンなんてあんな汚らしい見た目をしていたのに、ゲームとなれば可愛くデザインされている。オークもスライムも、何ならドラゴンは味方という立ち位置になっている。俺たちの大事な船を燃やしたのはアイツなのに。


 他にも国の名前がコロコロと変わっていった。俺が今いる国は”イギリス”で、セントリーの東側に位置する島国。その中で最も栄えている都市に暮らしている。といっても、人間としての戸籍は無いため、とある有名な画家の家に居候している。


 画家の名前は……マサカリ。戦争で国を失ったが、彼はその後画家として大成した。彼の芸術センスが優れていたのか、絵は瞬く間に全世界で売れた。俺とジャッカルに絵のセンスは無いため、俺たちが描くことはない。


 それでサーベルトは、アメリカと呼ばれる国でヒーローとして活動している。もう義賊が許される時代ではなくなっていた、義賊をして金を奪っても、その金を使うこと自体が犯罪となってしまった以上、金を奪う意味が無くなる。だから彼はヒーローとして、街に蔓延る悪を倒している。


 フィールドは、爆弾の落とされた国で教師をやっている。結局、教師が1番向いていると分かったんだろう。知恵を活かして、生徒に勉強を教えている。反対にマークは、今でも世界を飛び回っている。「飽きないのか?」とも思ったが、常に変化を求めている世界に飽きるということなんて無いだろう。


 それで、俺とジャッカルはヒーローとして活動している。夜な夜な、マスクを被りスーツを着て、強盗を返り討ちにする。殺すことはない、彼らにも反省するチャンスを与えないといけないから。それはネオルの教えでもある、彼は優しく懸命に生きていた。彼はもういないけど、彼の考えは俺たちが引き継がないと。


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「警察だ、手を上げろ!」


 月の灯りが照らす夜、”警察”は強盗を追いかけている。警察というのは、治安を守るために作られた組織の名称。強盗は”ショットガン”と呼ばれる、治安兵士が開発した鉄砲よりも恐ろしい武器を保持している。そういえば、治安兵士は結局、解体されたらしい。


 俺たちが寝ていた5年の間に治安兵士のリーダーが変わり、革命が起きたそう。それで悪事が明るみに出て、そこから何十年かは活動できていたが、他の組織に買収されて消滅した。そんな話はどうだっていい、治安兵士なんて今知っている人は居ないのだから。


「まだ追ってきやがる!」


 強盗は5人組、その全員が武装してショットガンを保持しているため、警察も苦戦している。ショットガンという鉄砲の威力は恐ろしく、当たれば即死。足に当たれば丸ごと下半身が消滅する。しかも警察は強盗を殺さずに逮捕しなければならない。彼らは過去にも強盗事件を起こしており、金の在処を聞き出す必要があるからだ。


「一発かましてやるか」


 そう言って、強盗の1人がショットガンを発砲しようと手に構えた音がした。そう、俺はまだ現地に着いていない、モンスターとしての特殊能力を使って、遠くから聞こえる彼らの声を盗み聞きしているだけだ。早く行かないと、警察官が撃たれて殺されてしまう。


 フードのついた青のパーカーと、悲しい顔が描かれたマスクを被り、俺は現地に向かった。超越した跳躍力でビルの間を飛び回り、兼ね備えた空間把握能力で犯人の位置を遠くから把握する。目標を殺してはいけない、あくまで警察を手助けするのみ。


「食らえッ!」


 ドンッ……!


 派手な効果音と共に、ショットガンから弾が発射された。しかしそれが警察官の胸を貫くことはなかった。理由は簡単、俺が生成した盾で防いだから。生命の石、もはやアスファルトの地面を変化させることなど容易い。もちろん、遠くからショットガンを無効化させることも。


「……どうなってんだ?」


 強盗団の奴らは、何がどうなったか理解出来ていない様子。それもそのはず、目の前に固い壁が突然出現した挙句、ショットガンが勝手にバラバラに分解されたから。しかもバラバラに分解されたショットガンの鉄も地面に溶けだし、彼らの手には何も残らなかった。鉄の塊を鈍器にされたら迷惑だし。


 俺は奴らの前に降り立ち、奴らの持つ金の入ったバッグを消滅させた。実際には、警察官の足元にテレポートさせただけだ。が、急に持っていた金が消滅したことを確認した強盗団の奴らは怯えだし、突如目の前に現れた俺に向かって問い詰めてきた。


「てめぇ何しやがる!」

「金はどこに行った?」

「青にいいイメージは無いんだよ!」


 最後のは完全にとばっちりじゃないか……それはさておき、奴らは狭い路地に逃げ込んだため、もう逃げられないようになっていた。出口は俺が塞いだし、他の出口もまた警察官によって塞がれていたから。これで終わりだ、と言いたいところだが、最近の若者は諦めが悪いのか、まだ抵抗しようとナイフを取り出してきた。


「……貴様が”例のヒーロー気取り”か!」


 そう言って、金髪の男は俺に向かってナイフを持ったまま突進してきた。しかし、俺には生命の石がある。石を使い、俺に向けられたナイフは一瞬にして水になり、地面にこぼれ落ちた。更に俺の近くにいる奴の首根っこを掴み、思いっきり地面に叩きつけた。これで重傷を負っただろう、脊髄は大丈夫なように調整したから大丈夫だ。


「……くっそ、”ノーマッド”かよ」


 訳の分からないことを言っている4人に向かって、アスファルト製のツタを生成した。600年の間に俺は石の力を制御できるようになっていた。アスファルト製のツタはどんなに鋭い剣があっても切れることはないだろう。それで奴らを壁に固定した。


「離せ……」


「1時間後に溶けるぞ」


 俺は表舞台の人間じゃない、だからこれ以上は警察に任せる。何だって、俺も犯罪者みたいなものだ。警察から狙われるべき存在であることに間違いはない。


 結局のところ、モンスターの絶滅を願っていた多重人格の青年は、ただの自警団になった。ただの……ではないか、生命の石を持っているから、普通の人間ではなくなった。というか、元からモンスターだった。戦うべき相手が変わっただけ、そうとも言えるけど、俺は昔から俺だった。


 とりあえず、目標が変わった。


 今はモンスターを全滅させることでも、世界を救うことでもない。


 世界を守ることだ。


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