第95話 モンスターの殲滅
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魔王を討伐してから92年後、俺はすべきことをするために戦っていた。
ルイはとっくのとうに亡くなっている、もうお婆ちゃんだったから仕方ないけど。俺は死ぬこともできずに、ただ生命の石の保持者として石を守りながら生きるのみ。
墓はハルのいる墓の隣に作った。これも自分の手で、生命の石の力を使って壊れないように工夫はしたけど、大体は手作業。モンスターも人も、誰も来ないような丘の上に。ついでに丘の名前も決めた、特に地元の人も何も言っていなかったし。名前は”グルガルタの丘”だ、例の島から取った。
ずっと同じ土地に留まっていたら、流石に不審がられてしまうから、俺は各地を転々としていた。生命の書物に書かれたシナリオを実行するための準備を進めつつも、各地でモンスターを倒し、村を救っている。もう討伐者という文化は薄れてきており、モンスターを倒すだけじゃ稼げなくなってきていた。
それでもモンスターは出没する、人口の多い都市ではウォーリアーと呼ばれる人々が代わりにモンスターを倒しているが、人口の少ない村にウォーリアーは居ない。だから俺が代わりに倒している。討伐者との明確な違いは……あまりないな。ただ、名称が変わっただけ。
数十年前に海外で戦っていたジャッカルは、もうセントリーに戻っていた。戦争があればまた外に行くみたいだが、少なくともここ10年はセントリーで平凡に暮らしている。普通の暮らしが出来るだけでもありがたいな、今考えれば。
冒険家になっていたマークは……帰ってこない。というか、冒険家になったのだから、セントリーに帰ってくることなんてないか。どこにいるかは分からないが、生きているってことだけは伝わってくる。同様に、サーベルトもマサカリもフィールドも、この世のどこかにはいる、そう石が教えてくれる。
数十年ぶりにジャッカルと出会った俺は、すべきことをするために、シティストの教会に向かった。シティストの教会というのは、魔王が封印されていた場所だ。俺たちが分裂した場所でもあり、マイト・ラスターが魔王を討伐した場所。生命の書物のシナリオで、ここに来る必要があった。
というか、魔王を討伐してから、俺は一度もマイト・ラスターに出会えていない。セントリー外で戦っていたジャッカルも、マイト・ラスターに出会えていないみたい。彼は時の石と力の石を保持している、だから俺よりも多く石を持っている存在でもあり、過去に二度も魔王を討伐した存在。
なのに石が拒絶しているからか、マイト・ラスターを探したくても、何も出来ない。痕跡を辿ろうにも、別のマイト・ラスターに出会うだけで、特に何もなかった。魔王を討伐した次の年くらいに探したが、ポリスタットの近くの村でマイト・ラスターを発見した。
しかし、彼はマイト・ラスターではあったものの、石を保持しているマイト・ラスターではなかった。この世界には2人のマイト・ラスターが存在しているのかは分からないが、とにかく俺が探していた方のマイト・ラスターは見つからなかった。どういう事象が起こっているのかも分からない、それすら探るのも不可能、これも石が拒絶しているからか。
「それで、やるんだろ?」と、ジャッカルに聞かれた。彼は生命の書物を保持しているから、ここに居てもらわないと色々と困るんだ。
「あぁ、今日しかできない。島のエネルギーが集まるこの日しか」
「全ては討伐者のお前に委ねる、失敗するなよ」
「分かってる。全ての”モノリス”を破壊するだけだから」
この世界には、モノリスと呼ばれる装置が置かれていた。モノリスは複数のモンスターを定期的に排出する装置で、紫色のガラスで作られている。モノリスは大体森の中にあって、普通の人間じゃ入れないようになっている空間の中に隠されている。
モンスターは人間のような繁殖機能を持っていなかった。だからモンスターの子供を産んでいるのは、親ではなくモノリス。ゴブリンの父親はゴブリンではなく、モノリス。これも魔王が作り出したものなんだろう。つまり、モノリスを全て破壊した上で、モンスターを全て討伐すれば……この世界からモンスターは絶滅する。
これは俺のすべき行為でもあり、世界に存在しているシナリオに沿ったものだった。シナリオと言っても続きは分からないが、そういうものだと認識している。他の世界を覗いたことはないが、他の世界ではモンスターが現実に存在せず、虚構の中での生き物として存在するみたいだ。俺たちの星も、そうするしかない。
「今だ、いけ」
ジャッカルの掛け声と共に、俺は生命の石を使って、世界に存在する全てのモノリスを破壊した。また永遠にモノリスが出現しないように、人間が侵入できなかった空間ごと破壊した。これで、モンスターがどこからともなく出現することは無くなった。
次にモンスターの殲滅。この世に存在するモンスターから、俺やジャッカルといった、マークを元にした生命体という例外を除き、ほぼ全てのモンスターの特性を書き換えた。これで、ここから23時間後に全てが消滅する。車に使われているモンスターも、森に潜んでいるオークも、地下で眠っている巨人も、何もかもが。
俺の長年の夢を叶えられたことに間違いはない。モンスターは絶滅し、明日からはまた違った世界が待っている。車も消滅するから不便になるだろうが”馬車”と呼ばれる、モンスターよりも遅いが人間よりは速い馬という生物の引く車が開発されたから、まだマシな方だろう。魔王に関する出来事は、全てこの世から消去しておかなければ。
「これで終わりか?」
「あぁ」
「俺はもう行くが、お前は残るのか? モンスターは消えた、ならお前はこれから何をするつもりなんだ?」
「分からない。石に人生を委ねてみたつもりだったけど」
生命の石を手に入れてからか、考え方が大きく変わった。まず、この世界の他にも別の世界というのが何万個も存在する。その世界に行く方法は分からないが、人智を超えた石の力を応用すれば、いつかは別の世界に行けるかもしれない。それを考えればワクワクするのと同時に、少し怖くなる。なら、この世界は何なんだ……と怯えてしまう。
それに、石を手に入れた今、やることがない。普通の家庭を持つことなどできないし、モンスターも消滅したから腹いせに当たる存在も消えた。マークは今まで何も知らなかったから冒険家となって色々と学んでいるのに対して、俺は石を手にして全てを知ってしまったから学ぶ気力すら生まれなかった。
ジャッカルはヒーローとして、サーベルトは義賊として、フィールドは王の側近として、マサカリは王として、マークは冒険家として頑張っているが、俺は何をする気力もなかった。ただ、モンスターを絶滅させるために100年くらい動いていたから、これから永遠にどう生きようか迷っているところだ。
「……なら、お前もヒーローとして活動しろ。世間的にはヒーローと呼ばれているが、結局は自警団。ラルティーグの残虐性を引き継いだ俺たちにはお似合いの職業だ。義賊と何も変わらない、ただ己の手を汚すことができるなら、お前も向いているはずだ」
自警団、法律とかを無視して悪を成敗する者のこと。ジャッカルは暗殺者ではないが、殺人に近いことを繰り返していた。その対象が悪であるだけで、昔とあまり変わらない。ただ、俺も昔と変わらない。あくまでも俺の個人的な推理だが、俺が討伐者となったキッカケが分かったかもしれない。
それはマークが病みに病んで、残虐性を伴ったジャッカルを生み出したこと。そこから転じて「人を殺すのはダメだが、モンスターなら殺していい」という発想になり、俺が生まれたんだろう。結局は対象が違うだけで、俺もジャッカルと同じような存在だった。
「---で、どうするんだ?」
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