第94話 ハルの死
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「へぇ、4つ子かい。珍しいね」
あの後、俺たちは別れた。
サーベルトとマサカリとフィールドは、壊滅寸前のストーズに向かった。各々やりたいことを自由にやるらしい。マサカリやフィールドが生きていた時代とは大分違っていると思うが、彼らならやれるはず。
サーベルトはストーズのお偉いさんから金や財産を奪う義賊として活動していくと言っていた。俺たちがマードックで出会った、サーベルトの相棒でもあるミリテアに会いに行ったんだろう。2人でデーヴィーネッドとして活躍してくれるだろうし、こっちも楽しみだ。
それで、俺たち4人はガーディアに残った。生命の石を使ってハルから、モンスターの特性を抜き、人間と同じような生命体へと変化させた。だから彼には寿命というものが存在するし、前みたいに好き勝手にモンスターと戦うことなんてできない。でも彼がそれを望むなら、俺はそうする。
マーク……ラルティーグと呼ぶのはもう止めた。彼はマーク・リューゲ。これからはマークと呼んでおこう。マークもまた人間に戻ろうとしていたが、流石に石がそれを拒んだ。マークは石から生まれた生命体、人間に戻ると体が消滅してしまうらしい。だからそれはやめた、本人の意思を尊重した上での結論。
で、ガーディアで俺たちは普通の生活を始めた。4つ子ということにして、ルイさんの働く喫茶店で俺たちも働くことにした。髪型も髪色も違うし、ジャッカルの目には傷が入っている。これなら同一人物とは言われないだろう。
何故かルイさん以外、皆光の巨人に関する記憶がなかった。ルイさんはここから光の巨人の翼が見えたと言っていたのに、彼女以外は何も覚えてないらしい。魔王が何かしたのか、それは分からないが、わざわざ魔王に関する記憶を蘇らせる必要もない。一般人には何も知らずに幸せになってほしい。もう、脅威は去ったことだし。
「左から……エルド、マーク、ハル、ジャッカルでいいのかい? 不思議な名前だね」
眼鏡をかけた老人は、喫茶店のマスター。しかしながら店を畳もうとしていた、理由は簡単。従業員が少ないから。もはやルイさんくらいしか働いていないみたい。それもそのはず、ガーディアはそこまで栄えていない都市。ツェッペリンとかに出店すればまた違っていただろうに。
そこに俺たちが店員として働き、客を呼ぶ。これは皆のため、自分のためでもあるし、ルイさんのためでもあるし、マスターのためでもあるし、ガーディアのためでもある。俺たちが命を懸けて守り抜いた星で楽しんでいきたい。それが今、俺たちがやるべきミッションだ。
「えーじゃあ、その棚にあるコーヒーカップを取って注ぐんだな」
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魔王を討伐してから7年後、俺はルイと結婚した。ハルは医者としてバルパーで働き、マークは子供たちと一緒に学校で一から教育を受けていた。ジャッカルはルイの経営する喫茶店で働き続け、俺は討伐者としてセントリーに出没する上級モンスターを狩り続けていた。
元々、彼女に恋愛感情なんて無かったはずなのに、とあることがあって結婚することになった。元々お互いに気が合うし、話していても楽しかった。自分の心の中にある扉を開けてくれたのも彼女だった、だから分かったんだろう。そういう存在になれたのも。
でも、子供は産めなかった。厳密に言えば俺はモンスターだから。それでも、人間になろうとは思わなかった。モンスターのまま生きようと思ったから、生命の石の保持者として。別に石を持っていなくてもモンスターとして生きていた気もする。
それで、今はセントリー全域でモンスターと戦っている。と言っても、俺には生命の石があるから、そこまで苦戦しない。でもセントリーの端には討伐者のいない村がある、だから俺はそこを助けに行っている。助けを必要としているのなら、どこにいても助けるべきだ、俺にのみ課されている義務。ついでに討伐金は受け取らずに、全て村に渡している。
今は楽しいけど、大切な人ができたからこそ、いつか終わりが来る。自然の摂理を侵すことはできない、いくら俺が石を持っていようとも、石を持つ者としての責任を果たさないといけない。ハルはさておき、普通の人間の寿命を操ることなどしてはいけない。
「お疲れ、エルド」
「そっちこそ、お疲れ様」
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魔王を討伐してから53年後、ハルが死んだ。彼はただの人間、肺の病気かなんかで亡くなった。止めたかったけど、彼が望んでいることを止めることはできなかった。だから生命の石を持っていても、俺は何もしなかった。
強いて言うなら、墓を作った。誰も来ない丘の上に、ハルの名前を記したモニュメントを。それは生命の石で作り上げた。彼が生きていた証を、確実に後世に残したかったから。でも、それはハリケーンに巻き込まれてズタズタのボロボロになったっけな。だから今度は自分の手で作り直した。
俺は討伐者としてではなく、生命の石を持つ者として、これからも生きていくつもりだ。だから、ジャッカルの持っている生命の書物に書かれていたシナリオ通りに、とある準備を進めた。シナリオと言っても、途中までしか記されていない。それでも、この行為がこの星に必要とされているのなら、やるしかない。俺の長年の夢でもあるし。
ジャッカルはヒーローとなっていた。戦争を起こした国に潜入して、民を虐殺した奴らをボコボコにしていた。それを俺は新聞で読んだが、ジャッカルの仕業だってことは一目瞭然。まぁ、暗殺者よりはマシな職業だろう。見過ごす訳にはいかないが。
それで、マサカリの情報も新聞で読んだ。彼は一国の主となっていた、それもセントリーの隣国。名前は”シンジュ”、小国だがとても楽しそうな国。王の側近としてフィールドもいるらしい。サーベルトは今でもストーズの近くで生きているらしいが、よく分からないな。
反対に、マークは冒険家になっていた。セントリーから出て、色々な世界を飛び回ってみたいと考えたんだろう。置き手紙だけを残して去っていた。彼がどこにいるかは分からない、でも生きているってのは分かる。
それで、ルイはもうお婆ちゃんになっていた。
「えらい大きなったねぇ」
「うん、ありがとう」
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