第93話 最後の話し合い
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俺は生命の石を使って巨大な船を作り出し、それでセントリーに向かった。全てが終わったんだ、まずは家に帰って報告しないと。ガーディアに暮らす、ルイさんに。色々と変わったところはあるけれど、全員無事ってことだけは伝えたい。
「……エルド、顔色が悪いが大丈夫か?」と、ジャッカルに聞かれた。
何でだろう、魔王を完全に討伐したはずなのに、さっきから胸の奥底で謎の感情がウズウズとしている。悲しいとか達成感とか、そういった言葉に表せられる類ではない、全く知らない、味わったことのない感情だ。言葉で表していいのか、迷うくらいの。
「……まずは帰ってリラックスすればいい。下手に心を治そうとするとかえって毒になる」と、ラルティーグがアドバイスしてくれた。何だか身に染みるな。ラルティーグもすっかりカッコイイ大人になっていた。
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光の巨人は大きな翼を生やし、島を持ち上げたというのに、この世界で光の巨人を見たのは俺たちだけだった。エネルギーが世界に放出されて、星全体が不安定になっていたのにも関わらず、みんな光の巨人の存在を知らなかった。
でも、唯一知っている人がいた。
それはルイさん、彼女だけ何故か光の巨人のことを覚えていた。ガーディアからも光の巨人の翼が見えたのに、他の人は見えてないと証言しているらしく、とても戸惑っていた。
「……本当に無事でよかった」
「俺もです。ルイさんが無事でよかった」
とにかく、この言葉を本人に直接伝えられたというのに意味が込められていると思う。良かった、生きている間にルイさんに会うことができて。恋愛感情とか特になく、ただ大切な人にもう一度会うことができた、それがただ単に嬉しい。
しかし、不思議だな。俺は生命の石を使って何かしたわけじゃないのに、皆が魔王に関する記憶を失っているなんて。逆にルイさんだけ失っていないのにも意味があるのか、ないのか。全世界を探せば光の巨人を知っている人がいるかも。
台車を返すのを忘れていたが、仕方ない。あれは島の崩壊に巻き込まれた。後で生命の石でも使って、そっくりの台車でも作っておくべきか。ルイさんにも申し訳ないし、後でこっそり作り直しておこう。少しくらいはアップグレードしても気づかれないか。
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「それで、最後の話し合いだ」
俺たち7人は、魔王を討伐した次の日に最後の会議を始めた。議題は”今後どうしていくか”というもの。
そもそも俺たちはラルティーグから生み出された架空の人格であったが、ラルティーグだけを作り出すために魔王によって7分割され、今に至る。で、生命の石は俺が持っているから、6人の魂をラルティーグの体の中に入れることは可能である。
でも、ラルティーグは既にトラウマを克服している。そうなったら、各々自由に人生を歩むのも悪くない。子供たちに教えたいのなら教えればいいし、一国の主でありたいのならそうすればいい。魔王という強大な敵が倒れた今、早急にするべきことはなくなった。だからこそ、人生を歩むための目的が必要になった。
「そもそも、ボクらに寿命なんてある?」と、ハルが聞いてきた。
ハルは神を信じていて、神は「生命体の永遠に生きる罪を肩代わりしている」と考えている。でも、俺たちはモンスター。基本的にモンスターに寿命はない。ゴブリンでも死ななければ永遠に生きる。俺たちも同じなら、永遠に生きることとなるだろう。
「1人の体に入れるのは反対したい、各々好きな人生を歩んでもいいじゃないか」と、マサカリが発言した。
今更この話を持ち出したくはないが、ジャッカルは勝手にルイさんと関係を持った。多重人格だとそういった事象が起こる。それなら自由の身として各々好き勝手に生きよう、そう考えるのも当然だ。皆、何かと多重人格に苦しめられてきた存在だから。
「でも、力は健在だ。この力は持ったままでいいのか?」と、サーベルトが聞いてきた。
生命の石が関係していない、モンスターとしての俺たちの能力は体に残ったまま。俺には未だに鋭い嗅覚が残っているし、ジャッカルには記憶力が残っている。ハルにも空間把握能力が残っている。それに全員に優れた戦闘能力が残っていて、今ここでモンスターに襲われても素手で戦えるくらいには強い。
実際、生命の石を使えば、そういった能力も消せるだろう。そこは考えなきゃな。サーベルトはこのままストーズだった国に帰って、デーヴィーネッドとしての活動を再開するつもりらしいが、そうするなら能力が必要になってくる。俺はまだ考えていないけど、能力はアイデンティティとして残すべきなのか。
「それならボクからはモンスターの能力を奪ってほしいね。永遠に生きたくはない、人間として生命を終えたい。ワガママかもしれないけど、脅威は去った。そういう人生を歩みたいんだ」
ハルは人間として生きたいみたいだし、実際生命の石を使えばそうすることもできる。ハルとサーベルトが自由な生き方を望んでいるのなら、尊重するしかない。後はお互いに、やりたいことをやり続けるしか。
「俺は自由に暗殺以外でやり続ける。場所はこれから決めるが」と、ジャッカル。
「私はまた国に関わりたい、幸い、ストーズは滅亡しかけている。当時の民は居ないが、精神は引き継がれていると信じたい」と、マサカリ。
「俺もデーヴィーネッドとして生きる。マサカリには迷惑をかけないよう、別の国でやっておく。彼女には会ったしな、また2人で楽しんでいくさ」と、サーベルト。
「僕は先生をしたい、せっかくならマサカリのところで働こうか?」と、フィールド。
俺は全く決まっていない。このまま討伐者をやり続けるか、ルイさんの近くで普通に生きるか。でも生命の石を手にした今、することなんてない。生命の石を封印するべきか、それも自由だ、全て俺に委ねられている。
それで、やりたいことは1つ。これは生命の石があってもできないこと。
できることなら……また皆で一緒に冒険したい。全員じゃなくて、一部でいいから。脳内じゃなくて今度は対面で、モンスターと戦ったり、セントリーを旅行しながら、皆で話し合いながら人生を謳歌していきたい。生命の石があっても、仲間は簡単に作れない。やりたいことは、それだけ。
馬鹿げた提案かと思っていたが、ラルティーグが楽しそうに返答した。
「私もそれに乗った。また1から、色々な人と関わって生きていきたい。今なら出来そうな気がする、時間もある上、仲間もいる」
ルイさんの暮らす家の地下室で、7人揃って話し合ったのは、これが最初で最後。やっぱり同じ人間だから感性が合うんだろう、ラルティーグと俺の提案に一部は乗ってくれた。といっても、乗ってくれなかった人も「楽しそうだ」と言ってくれた。
薄暗い地下室、灯りを作り出して皆の顔を見たが、今までで1番楽しそうな顔をしていた。魔王がいなくなった世界は、ここまで明るかったのか。ラルティーグも、魔王から完全に解き放たれて、嬉しそうにしていた。これだ、これが見たかったんだよ。
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