第92話 ネオルの正体
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ここは、どこだ……?
俺は真っ黒な空間に、たった1人で取り残されていた。
確か、シンカは自死を選んだ。本当に観察者だったんだろう、世界は消滅した。ジャッカルの姿も見当たらないし、シンカの姿も見えない。ここはグルガルタ島じゃない、なら星の外の空間か。でもそこは普通の場所じゃない、生命体は生きられないようになっている。いくらモンスターであろうとも。
くっそ、生命の石を持っているのに、俺はシンカの真意に気づけなかった。シンカの自死を許してしまった、そのせいで世界は消滅した。これだけは分かる、だってこんな真っ黒な空間、普通の世界には存在しない。夜だろうとも、月や星の明かりがあるから、こんなにも残酷な空間にはならない。
「……いいや」
と、ここで誰かの声が聞こえた。どこかで聞いたことのある、優しい男の声がする。でも真っ黒な空間だから姿は見えない、どこだ、どこにいるんだ。
「……世界は滅んでいない」
優しい声をした男は、世界の存続について知っているみたい。少なくとも、只者では無さそうだ。でも、姿はまだ見えない。声しか聞こえないが、その声もどこから聞こえているか分からない。真っ黒な空間を歩こうにも、足を踏み出せないでいた。
「……こっちに来なよ」
彼の声と共に明かりがつき、辺りが見渡せるようになった。目の前には巨大な本棚が何百個も並んでいる。そこにある本は残念ながら読むことができない、というか言語が違っていて読めないだけ。そういう本が永遠に何千冊も置かれている……ここは図書館か何かか?
「……君にはそう見えているんだ」
と、ここで男の正体が分かった。
目の前にいたのはネオルだった。ストーズの洞窟でラルティーグに殺されて以来、5年ぶりだ。俺はネオルと抱き合ったが、何でネオルは生きているんだ。むしろ、俺が死んだからネオルと会えているのか。そこら辺、よく分かっていない。
「……僕にはモンスターの研究所に見えているよ。しかも別の世界だ、そっちではもうモンスターが人のことを襲わなくなったみたいだね」
ネオルは「別の世界」とか言っているが、俺はそもそもここがどういう場所か分かっていない。死後の世界なのか、幻を見ているのか。人によって見える景色が違うってことは……どういうことだ。ジャッカルとかハルはここにいるのか?
「……ここには僕とエルドしかいない。話すべきことがあるから、君を呼び寄せた。ここは”観察者の部屋”、”第三の石”から連動して生み出される空間だ。石を持っていないジャッカルやハルはここには来れない、呼べるのは世界で君だけ」
観察者の部屋、シンカは観察者だったみたいだが、そういう名前のところにどうして俺が呼び寄せられているんだ、しかも死んだはずのネオルに。第三の石を持っている……ということは、生命の石は第三の石という名称でもあるのか、ややこしい。
「いいや、シンカは観察者だったけど、今は僕だ。全ては根幹の偽りなき世界の元にある、僕はそれになった」
これは言葉通り受け取っていいのか、ネオルが色々とあって観察者になったと、認識していいのか。未だに観察者のシステムを理解できていないのに、ラルティーグの病から生み出された人格のネオルがどうやって観察者になったんだ?
「あまり深くは知らなくていい、どうせここから帰る時に記憶も消すから。でも君の持つ石はそれを記憶し、君の奥深くにも残る。それでいい」
ネオルは真実を告げずに、はぐらかした。記憶を消すからこそ話してもいいはずなのに。彼は遠くから本を取り、俺の目の前にある机にドスッと置いた。家の近くの図書館にあった辞書よりも厚い本、タイトルも読めないが何が書かれているんだ。
「これは”観察の書”、観察者となった生命体が書き連ねる本。僕の前の観察者であるシンカは何も書いていない。シンカは本当に観察者だったけど、観察者といえる仕事は何もしていなかった。だから僕が観察者に成り上がった。マークに殺された後、僕の魂は観察者に選ばれた。ただ、それだけ。シンカが亡くなった今、僕が観察者になっただけなんだ」
言われれば言われるほど分からなくなってくるな。結局のところ、観察者ってのはどういう存在なんだ。星を見守るだけなのか、神に等しい存在なのか。
「……神といえば神みたいなもの。でも神は現世に降り立ち、恵を民に渡す。でも僕は観察するだけ、観察者として星を見守るのみ。その観察者になったということを君に伝えたかったんた。もちろん記憶は消えるけど、どこかで思い出す日が来るよ」
そう言って、ネオルは観察の書を本棚にしまった。彼は微笑んでいるが、俺は気が気でない。心配とかいう感情でもなく、楽しいという感情でもなく、何でもない感情が俺の心の中で渦巻いている。
「魔王はいなくなった。島が浮いて、光の巨人が出現したから、世界中の人々は怯えていたけど、記憶を消させてもらった。魔王の存在を知っているのは少なくていい。とにかく、僕は観察者で、君は世界の住民だ。もう会うことはない、でも思い出す時がいつか来る、その時はまた話そう、今度はみんなで。マークもハルもジャッカルも、サーベルトもフィールドもマサカリも。誰とでもいい、それまで僕はこの空間で見守り続けるよ」
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魔王は討伐され、世界に平和が取り戻された。グルガルタ島は完全に消滅、でも何故か俺たちは無事だった。俺とジャッカルは近くの島に打ち上げられていた、そこはちょうどハルたちが逃げていた島だったため、すぐに救助された。
ジャッカルは生命の書物を、俺は生命の石を持ったままだった。魔王が死んで辺りが真っ白になった時くらいから記憶はないけど、どうやら無事に帰って来られたみたいだ。
そして、ここには7人の、同じ顔を持つ男がいる。エルド、ハル、ジャッカル、サーベルト、フィールド、マサカリ……そして、ラルティーグだ。生命の石を使って復活させた訳じゃない、でもラルティーグは何故かそこにいた。生命の石の覚醒に伴って体が消滅したはずなのに。
「魔王の手から魂が離れたんだろう、とにかく、みんな無事で本当に良かった」
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