第87話 人間でもなく、神でもない
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「……仕方ない、少しだけ頂く」
シンカはエネルギーの溜まったゴブリンから、少量のエネルギーを分けてもらい、それでまた「レミノウ」と呟いた。次は大きなヒビが空間に現れ、地面も揺れた。これが人知を超えた呪文の力か、恐ろしい。人を軽く移動させるなんて、普通じゃできないことなのに。
「これで計画も大詰めだ、求めるのなら来るだろう、サーベルト」
奴が空間をひねった瞬間、ヒビから武装したサーベルトが現れた。しかしそこにいたのは、ただの普通のサーベルトではない、怒りに満ちた復讐心を持つサーベルト。戦いから逃げたはずなのに、対人間用の剣と盾を持って、防御アーマーも着ている。戦闘態勢といってもいいだろう、赤く光る目は鬼のような豪快さと破壊が見て取れる。
「待っていたぞ、魔王!」
そう言って、サーベルトは近くにいたシンカの首を斬った。対人間用の剣で、スパッと。いくら元々魔王だったとはいえ、今のシンカは人間だ。そうやって、一瞬にしてサーベルトに倒されてしまった。もちろん、これを見ている俺たちは状況の理解にとても苦しんだ。
赤い血の溢れるシンカの死体の近くにいたサーベルトに駆け寄り、状況を詳しく説明してもらった。シンカが死んだからか、俺たちを強制的にその場に留める呪文は解け、自由に動けるようになっていた。
「すまない、怖くてストーズに逃げたのは事実だ。彼女に会いたかったし。でも、ラルティーグとフィールドとマサカリが、心の中でずっと説得してくれた。それで分かった、俺が今すべきことは、愛を選んで逃げるよりも、愛を選んで魔王を倒すことだってな。儀式に7人の体が必要なことは分かっていた、魔王が呼ぶことも。装備はストーズで集めたさ、もう滅亡しかけていたけど」
シンカの近くにいて返り血を浴びたサーベルトは、前とは違い笑顔で立っていた。前は魔王に怖気付いて、誰にも言わずにその場から立ち去ったが、今回は違う。まさしく「愛を選んで魔王を倒す」だな、サーベルトがいなかったら、俺たちはこのまま負けていた。これも3人の説得と、サーベルトの勇気のおかげだ。
そういえば「心の中で説得していた」と言っているけど、それは俺には聞こえていないな。ジャッカルもハルも事情を知らないということは、彼らにも聞こえていないんだろう。やっぱり封印された3人と、つい最近まで生きていた3人では精神の区分が違うか。
「……サーベルト、来ていたのか」
気絶していたラルティーグも目覚め、また7人が揃った。これは、インフィニティ作戦を考案していた時以来。といっても数日も経っていない、それでも俺には長く感じる。やっぱりバラバラになってはいけない存在なんだと思う、ラルティーグから生み出された存在だからか、それも関係ないか。
「さて、どうする?」と、ハルが尋ねた。
というのも、シンカはサーベルトに殺されたが、島の噴火は止まっていない。ゴブリンの体には星のエネルギーが溜まっているが、それらを星の中に戻す方法も分からない。ユーアローンの儀式と真逆のことをすれば元に戻る、そういった保証もない。このままだと、放出されたエネルギーを戻せないまま時間が経っていく。
それらが生態系にどういう影響を与えるのかも分からないが、少なくともエネルギーは星に戻しておいた方が良い。逆にエネルギーの消失した星なんて、文字通りすぐに滅びそうだ。
「ラルティーグ、何か分かるか?」
「いいや、デストルドー計画自体聞かされていなかった。ユーアローンの儀式とマザーの儀式は軽く聞かされていたが、それらも闘争心の消失に繋がると言われていた。止める方法など知らない」
そうやって話し合っていた時、とある男性の声が耳に入ってきた。
「意志を奪うな」
こんな言葉を近くにいた俺たちは、全員耳にしていた。でも俺たちの声じゃない、もっと低くて無機質な音声をしている。人間らしいといえば人間らしいが、人間じゃないといわれれば人間じゃない声に聞こえる。
誰だ、この周辺に人なんていない。それどころか、俺たち以外の生物自体見えない。ここはゴツゴツとした岩で作られた島で、木なんて1本も生えていない。生命の繁殖などこの島には無縁だ、そのくらいにこの島は危険な匂いがするのだ。
「私の許可なしに、許さない」
こんなことを今更言うのは、魔王くらいしかいない。でも、魔王はシンカと化し、そのシンカはサーベルトによって首を斬られて死亡した。シンカの死体も血だらけで、繋がっていない頭部も特におかしな様子はない。口も動いていないし、目も虚ろ。ただ普通の人間と同じように殺され、同じように死んだ。
「待て、エネルギーの変動を感じる。それも火山だけじゃない……広範囲だ」と、ラルティーグが険しい顔をしながら俺たちに伝えた。エネルギーの変動、それも火山じゃなく広範囲。その上、シンカの声が聞こえる。一体、何がどうなっているんだ。奴は死んだはずだろ。
「私も人間と化したのだが、自覚が足りなかったようだな。そうだ、私は神であり、人間でもある。その神の要素を持ちながら人間であろうとするのは不可能に近い。そうなれば、私は人間でも神でもない新たな生命体へと進化を遂げる。完全なる生命体、人智を超えた最高の発明品として、世界を滅亡させるのだ」
シンカの声は、生首からではなく島から聞こえる。ただの男の声ではなく、大地を揺るがす程の大きな声。地面は轟々しく揺れ、シンカの声に空気が共鳴している。火山のエネルギーは何かに吸い込まれていき、やがて火山からは巨大な手が出現した。
「私は光の巨人だ、人間でもなく、神でもない」
巨大な島を丸々覆う程の、真っ白な手が、海の底から現れた。そうか、火山のエネルギーはこの巨人に流れていたのか。今までの計画、デストルドー計画やマザーの儀式は全て、白い手をした、世界滅亡のアルビノ巨人のためだったのか。
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