第83話 兵士、集結
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ビルディングにあるノエイン港に着いたが、そこでは何故か厳重な警戒網が広げられていた。一般人なんて誰もいない、ここには槍や剣や鉄砲を持った兵士しかいない。昼間から盛りあがっていると聞いていた酒屋も封鎖されており、俺たちが船を襲うことが分かっていたのか、というくらいには奇妙で重い空気になっている。
「……魔王、シンカの仕業だろう。私らが船を使うことを予測し、行方を阻むために。戦闘は避けられないぞ」
用意周到であった魔王は、ノエイン港に嘘でも垂れ込んだのか。「今から襲われるから用心しておけ」とでも。まぁ嘘ではない。下手な戦闘は避けたかったが、こちらとしては船がどうしても必要になってくる。
兵士といえども民間人、だからある程度は手加減しても勝てるとは思うが、人数が圧倒的に多い。何百人もの兵士が港に集結している。それに鉄砲を持っている兵士もいる、鉄砲は確か治安兵士が開発した武器だったような。5年の間に何があったのか、ルイさんに聞いておくべきだった。
「……やることは変わらない。穏便に済ましてやる、力で」と、ジャッカルは暴力性の高い発言をしている。
やっぱり……やるしかないのか。俺たちは荷車から対人間用ではなく、対モンスター用の武器を取り出した。これなら人間に効かない、刃も人間の肌を切るのに向いておらず、ただ鈍器として扱うことができる。槍も剣と同じく。ゴブリンの体は簡単に貫けるのに、不思議だな。
そういえば、ラルティーグはガイドに切られた時、腕から大量の血が噴き出すくらいには重傷を負っていた。対モンスター用の剣なのに。あの時は衝撃的なことが多すぎて素通りしてしまったが、今思えば大きな違和感であったな。
反対に、シティストの塔でラルティーグは、対モンスター用の剣を鈍器として扱い、人の頭をかち割っていた。今回はそこまで重傷を負わせるつもりはない。軽く気絶するくらいに留めておかないと。やり過ぎには注意だ。
ラルティーグは留まろうとしていた。人間との戦闘にはジャッカル以上に慣れている存在だが、その分心に負う傷も多い。また、心に負う傷というのは、何回負っても慣れることなんてない。ジャッカルが人を暗殺すればするほど、ラルティーグの心に傷が積もっていくし、ラルティーグ本人が殺しても、また積もっていく。
こうなると5人で戦うことになるが、相手は人間だ。ある程度なら大丈夫そう。そもそも俺たちはモンスター、人間に最も近い存在でもあるから、どっちの武器が効くのかは分からない。どちらにせよ、素晴らしい感覚とテレパシーのような能力を持っているんだ、何とかしてやる。
「分かった、ここで荷車を管理してくれ。森の中に入れば追跡は免れるはずだ」
ハルの指示を受け、ラルティーグとはここから別行動。彼は荷車を守り、俺たちは港にいる兵士と戦う。船を奪えば、インフィニティ作戦が続行可能となる。奪えなければ、デストルドー計画は止められないまま。新たな作戦を考える時間はあるかもしれないが、実行するための時間は残されていない。
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「こちら異常なし、船も視界に入っている。繰り返す、こちら異常な---」
屋根を上に立って、仲間に大声で状況を伝えている兵士の足めがけて、小石を投げる。すると奴は石の衝撃に耐えられずにその場から転落。でも大丈夫、下にはクッション代わりとして井戸の水がある。予め、場所は把握していた、用意周到だから。
「どうした、カール。返事をし---」
違和感に気づいた別の男に、後ろからこっそり近づいて拳を食らわす。ジャッカルの気配に気がついた時にはもう遅い、その時には腹に激痛が走って気絶しているはずだ。やっぱり慣れているな、ジャッカルは。隠密行動もそうだし、近距離戦闘も。
「侵入者がいるぞ! 正面に……5名。こんなに居るのか、聞いてないぞ!」
ここで俺たちは一斉に姿を現した。もちろんローブと仮面は着けたまま。これには意図がある、侵入者を見た彼らは一斉に襲ってくるだろう。それでいい、俺たちは最強のモンスターだ。普通の攻撃など痛くも痒くもない。自分のことを「モンスターだ」と自覚すればするほど、能力はより覚醒していく。
深呼吸して、息を整える。
手には対モンスター用の剣。これを鈍器として、またはブーメランとして扱っていく。投擲武器としては役に立たないように見えるかもしれないが、そこら辺は俺の持つ力でどうにでもなる。最悪、さっきのようにそこら辺の小石を使って叩き落とすのもアリだな。
「行くぞ!」
ジャッカルの掛け声と共に、俺たちは同時に敵に向かって突っ走る。発射された鉄砲の弾を避けながら、状況を理解できずに突っ立っている兵士の顔面を強く殴り、時には盾にしながら進む。下手な戦闘は避けるべき、だから船周辺に群がっている兵士を倒すだけでいい。
とは言っても、奴らは鉄砲を持っている。いざ船に乗り込んだとて、船を撃たれたら終わりだ。俺たちは大丈夫でも、船は脆い。結局は、周りにいる全ての兵士を倒すことになるかもしれないな……こっちだって体力を消耗したくはないが、仕方ないこと。
「エルド、今!」
ハルの合図と同時に弾が発射されたばかりの鉄砲の銃口に向かって小枝を思いっきり投げる。すると、鉄砲内のエネルギーを発射する出口が無くなるため、爆発を起こす。前にもやった、治安兵士と戦った時に。これが狙いだ。
ドンッ……!!
派手な爆発音と共に、何人かの兵士が衝撃波で吹き飛ばされていった。鉄砲を持っていた人はともかく、周囲にいた人まで巻き込まれるなんて……恐ろしい技だな、威力は充分に知ってはいたけれども。
ビルディング中の兵士が集結しているからか、いくら倒しても終わりが見えない。もう30人くらいは倒したはずなのに。ストーズのマードックではジャッカルが独りで110人ほどの兵士を相手に戦っていた。しかし彼らは弱く、その半数くらいが逃げていった。
しかし、今戦っている彼らは、魔王に何を吹き込まれたのか、俺たちを絶対に殺す標的として見ている。デーヴィーネッドを気持ちのエンジンとしていたかのように待ち望んでいた兵士とは違って、俺たちは居ない方がいい存在だと聞かされているんだろう。とにかく、あと何百人と戦えば終わるんだ。
「ナイスパール号とワンパール号に爆薬が設置されているみたいだ」と、小声でフィールドが伝えてきた。彼は聴覚が優れているから、数百m離れている船の中にいる船員の会話も聞き取れる。
それで、俺たちが乗ろうとしているのは、赤いボディが特徴的な”ダイヤマト号”で、ナイスパール号とワンパール号に挟まれている。もし、2つの船が爆発すればダイヤマト号も巻き込まれてしまう。いくら頑丈で高級な船といえども、強度の爆発には耐えられない。
「……まずい、あと3分で起爆させる様子だ!」
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