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第82話 僕らは英雄だ

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 朝、起きると……机の上に1枚の手紙が置いてあった。ルイさん宛に届いた手紙じゃない、何なら宛先が”お前らへ”と書いてある。


 地下室にいるメンバーを見てみると、俺含めて5人しかいなかった。ラルティーグは庭にいるから分かるとしても、ここにいないのはサーベルトか。トイレとかなら分かるけど、手紙を残すなんて……何をしたんだ。


 手紙には、小さな文字でこう書かれていた。


 ”俺は戦えない”


 たったこれだけの文章。それが手紙として残されていたのだ。ここに居ないのだから、サーベルトがこの手紙を書いてたってとこまでは分かる。でも、何でサーベルトは急にここで戦線離脱を決意したんだ。「俺は戦えない」という、弱々しい文字も、彼の悩みを表しているように見えるが……どういうことなんだ。


 確かに、サーベルトは昨日からおかしかった。義賊としての務めとか、義賊は魔王と戦うべきじゃないとか、色々なことを言っていた。最終的にはそのまま戦うことを選んだかに思えたが、違った。手紙を置いて消えた、どこにいるかは俺からは読めない。どうやら、心を読むことのできる人は限られているみたい。


 外に出て、辺りを感覚で辿ってみても、サーベルトがどこに行ったかは分からないようになっていた。一応、体の中に少量の生命の石が埋め込まれている身だ。マイト・ラスターと同じように、石が俺の能力を拒否しているんだろう。


 庭にいたラルティーグは、うつむいたまま。昨日は立ち上がるところまで回復していたのに。やっぱり俺じゃ心情までは読めないけど、そのうずくまった、どんよりとしたポーズから何となくの心情は察せる。


「マーク。夜に何があったか教えてくれるかい?」と、フィールドが彼のところに駆け寄った。すると、ラルティーグも小さな声で返答した。


「……を……無理やり……出て……行った……せいで……私が……ったから」


 ラルティーグが魔王に裏切られてから、誰かの言葉に反応を見せたことはあるが、言葉を返したのはこれが初だった。やっぱり彼の声はか弱く、聞こえない部分も言ったが、これだけは分かることがある。サーベルトが出て行った原因が自分にあると思っているんだな。


 こうやってまた自分を責め始めるラルティーグは、うずくまったままブツブツと何かをボヤいている。見て分かる通り、サーベルトが消えたのは俺たちのせいでも何でもない。ただ、魔王と戦いたくないから消えた。魔王に怯えているのか、それとも純粋に戦いたくないのか……それは俺には分からない。


「……サーベルトは今、ストーズにいるね。僕は分かる、頭の中で彼の見ている景色が見える。けど、深追いするのは控えた方が良い、時間が残されていない。魔王がデストルドー計画を実行するのは今日だ、何にせよ早くグルガルタ島に向かわないと」


 デストルドー計画の準備段階である、この星のエネルギーを島の直上に抽出する作業は今日で終わると予想されている。それまでにインフィニティ作戦を決行し、魔王の計画を止めなきゃならない。でも、サーベルトはストーズにいる。多分、彼女と会っているんだろう。


 時間は限られている、ストーズまで行ってから島に行くのでは、もう遅い。ここは、デストルドー計画の阻止を優先するべきだと思う。サーベルトがいないと心細いけど、でもデストルドー計画を阻止する方が優先度から言えば高い。一応、6人もいるんだし。


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 それで、出発の準備を始めた。


 ハルとマサカリで装備の確認。万が一、切れない剣とかあったら、それは金属の重い荷物になる。こういうことがないようにしなきゃいけない。そして、俺とジャッカルで荷物を荷車に乗せる作業。ジャッカルの持つ、治安兵士の武器を壊さないように慎重に運ぶ。


 フィールドは計画と作戦の最終調整を行っている。ここで見間違いがあったら元も子もない。例えば「計算ミスで、実は昨日にエネルギー抽出作業が完了していた」とかなっていたら、もう絶望的。といっても、インフィニティ作戦は概要しか決まっていない。後はその場の判断に委ねる。


 そういえば……荷車は正式に借りた、道に捨てられているゴミだと思って持ってきたやつだが、実はそれは都市・ガーディアの所有する物だったらしい。だから、ルイさんにお願いして、正式に借りることとした。「壊さないように」という条件付きだが、守れるか心配だな。


 その時、誰かが……とある言葉を発した。


「……行くのを……も辞める」


 突然、口を開いたのはラルティーグだった。


 目の前でサーベルトが逃げて行くのを目の当たりにして、固めていた勇気や決意が一瞬にして崩されたんだろう。俺たちごときじゃ、魔王に歯向かうことはできない……そう思っているんだろう。下手に魔王と戦うくらいなら、ラルティーグは戦線離脱を願うのか。


「マーク、君が抜けたら僕らは5人だ。それじゃ魔王に勝てない」と、作戦を練っていたフィールドは、急いでラルティーグのいる庭に駆け寄り話しかけた。


「私がいても結果は同じだ、サーベルトが居ようとも……全て私が引き起こした事態だ。原因である私が向かっても、何も発展しない。ただ状況が悪くなるばかりだ」


「君がいない方が状況的には不利。それに原因は君じゃない、魔王だ。君がいてもいなくてもデストルドー計画は遂行されていた、だから君は原因じゃない。ここで僕らが行くべきなんだ、サーベルトがどこかへ行ったのも君のせいじゃないし、世界が滅亡するのも君のせいじゃない。だけど魔王を止めれば、僕らは英雄だ。全ての人に慕われる」


 フィールドはとにかく、島に向かう利点を熱く語り続ける。魔王と戦うことで何が生み出されるか、逆に戦わないことで何を失うか、今俺たちは何をすべきなのか。5人で行くデメリットと、6人で行くメリットなどを。


「世界が滅亡すれば、今度こそネオルと暮らせなくなる。世界が元通りに続けば、ネオルもまた還ってくるさ」


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「ありがとうございました、行ってきます」


「……未だに信じられないけど、無事に帰ってきて」


 ルイさんに別れを告げ、俺たちは旅立った。


 荷車には大量の武器とラルティーグを乗せてある。ラルティーグは渋々だが、乗ることを決意してくれた。俺とジャッカルが荷車に荷物を積んでいる時に、フィールドとマサカリが必死に説得をしたからだ。


 途中までしか聞けていないが、ラルティーグが荷車に乗っているということは、そういうことなんだろう。重い決断だったとは思うが。ラルティーグからすれば、魔王は親みたいな存在。先生でもあり王でもある。それを殺しに行くんだ、世界の運命も関わってくるというのに。


 それで、俺たちは不思議な特殊能力を使って、1時間弱でセントリーを横断した。今回はただ走るだけじゃない、治安兵士の武器を思う存分使わせてもらった。ワイヤーと荷車を括り付け、その上に生命の石を僅かながらに持っているラルティーグの能力を使うことで、擬似的なモンスターを召喚した。


 この世界には車と呼ばれる移動手段がある。モンスターに荷台を引っ張ってもらって移動するもの、これを生命の石で再現したのだ。実際にそこら辺にいるモンスターを使うのではなく、新たに召喚したモンスターを使うのがポイント。これで時間は限られているが、超高速で動けるモンスターと車を作り出した。


 もちろん、こんなのが街に出没していたら危険だから、用が無くなったら討伐した。これは仕方ない、尊い命ではあるが……このモンスターもこんな星では生きられない、直ぐに端に行ってしまうからな。もう少し広い星で生まれてほしい。


 これから向かうのはノエイン港。都市・ビルディングの端にあり、港町としてとても栄えている。そこには巨大な船が何個かあるから、それを奪いグルガルタ島に向かう……という作戦だ。擬似的に生み出したモンスターを泳がせるという作戦も考えたが、安定性が乏しい。


「大丈夫だ、ボクたちは頭と胸を貫かれない限り死なない。ある程度の倫理観を捨てると約束した、これは仕方ないことなんだ」


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