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第76話 倫理観を捨てろ

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「……封鎖されている?」


 結局、俺たちは地下都市に向かうこととなった。ハルマーナからツェッペリンの地下都市まではかなり離れている。モンスターの引く車に乗って向かうのでもかなりの時間を有する。それなのに、特殊な能力を持った俺たちは、たったの3時間で辿り着いた。


 生命の石を使ってワープしたとか、そういうのじゃない。ただ普通に走った、それだけ。障害物も何もない、昼間で明るく照らされている草原を走り続けた。何千キロと離れているが、能力が発揮されているからか疲れることなく走り切ったのだ。ジャッカルは人を背負っているものの、能力で補完されているようで素早く動けていた。


 やっぱりモンスターなんだろう、何時間全速力で走っても息が上がらない。水分を欲しがろうともしないし、食欲もない。ただ生きるために少しの水分は必要だ……と思い、森の中にあった湖の水を飲んだが、少量でも体が満たされていった。モンスターの生態を完全に理解している訳じゃないが、奴らは普段どういう生活をしているんだ?


 自身のことを「モンスターだ」と自覚している状態で高く跳んでみたが、前以上に空高い地点まで行くことができた。それでも抑え目に跳んだつもりなのに、助走もなしで何十mも。スピードも跳躍力も上がっているとなると、攻撃力もえげつなくアップしているんだろうな。


 そうやって人気の少ない、地下都市の入り口に辿り着いたが、門には「完全封鎖通行不可能」と書かれた看板が立て掛けられていた。文字通り、本当に入れないんだろう。感覚を使って地下都市に人がいるか確かめてみたが、地面が厚いせいかどうなっているか分からない。


 本来なら門をぶち破って侵入するところだが、何にせよここには同じ顔をした男が7人もいる。どうにかして顔を隠さないと、色々とまずいことになる。しかしここら辺には仮面屋がない、そもそも金も持っていないし、どんな行動も起こせない状態だ。


「……ハル、家もどきはいくつかあるんだろう。他には何がある?」と、フィールド。


「……他はボクの家じゃない。ネオルの家族が暮らしていた家と、エルドの知り合いが暮らしていた都市。後は身を隠せるところで言ったら……廃墟くらいかな」


「……ネオルが居ない今、ネオル無しで家族の家に押しかけるのはダメだ、彼らにはまだ知らせない方がいい。知らせるタイミングを誤ってはいけない。それなら、本人がいるエルドの知り合いの家に行った方が良さそうだ」


 俺の知り合いって、まさかルイさんのところか。いや、それしかないよな。エボリュードの皆は殺されていて、バーンズ村は滅んでいる。俺の知り合いで今でも生きているのは……彼女くらいか。他にも知り合いはいるけど、誰も多重人格のことを知らない。


 どうせなら、理屈は多少違うけど、何となく多重人格のことを知っているルイさんの家がいいだろう。でも、あれから5年は経っている。彼女にもし新たな家族がいたらどうすればいいんだ、これ以上迷惑はかけられない。よりによってバーンズ村を滅ぼした元凶がいるんだ、真実を告げなきゃいけないけど。


「エルド、お前は今こう思っているだろ。『彼女に迷惑をかけたくない』とな。俺が背負っている奴のことは忘れろ、ここにいる俺たちのことも。彼女に会いたいか会いたくないか、それだけで一旦考えてみて、そこから結論を出せ」


 ……ジャッカルの言うことは当たっている。確かに俺はそう考えていた。けれども、そう簡単な理屈じゃないんだよな。相手の人生を巻き込むことになるし、実際に巻き込んだこともある。彼女の家族と、血の繋がっていない村人は、全員俺たちのせいで亡くなった。


 それでも、会いたいことに変わりはない。会いたい……この気持ちは変えられない。不思議なことに、俺は人間じゃなくてモンスターなのに、人間らしい不思議な感情を持っている。不思議だ、俺は何なんだろう、人間らしさとか、そういうのをどこから学んだんだ。


「決まりだ、ルイの家に向かおう。しかし、5年も経っている。エルドは彼女の家が分かるのか? 確か、新たな土地に行くとか言っていただろう。それについて聞いていないのか?」


 ……そうだった。あれから5年間、当たり前だけど気絶していたから会えていない。バーンズ村は破壊されて行き場を失った彼女は、新たな土地に向かうという覚悟を決めていた。それがどこかも聞いていないし、その時はどこかとも決まっていなかった。国内にいるとも限らないし、全世界から彼女を探し出すなんて無理だな。


「エルド、今お前は諦めただろう。しかしこちとら、魔王による世界滅亡計画が始まっているんだ。別に彼女の家に無理に寄る必要は無い、けれども、落ち着く場所でやることがある。多少の倫理観を捨て去ることにはなるが、試してみないか?」


 と、ジャッカルは悪魔の提案をしてきた。アイツが考えていること、何となく分かる気がする。体は分裂しているから、思考とかも読めなくなっているはずなのに、やっぱり長年一緒にいたからか、次どういった行動を取るのか読めるようになっていた。


 多少の倫理観、そんなものとっくに捨てている。世界滅亡寸前だ、世界が消滅するくらいならある程度の罪は犯してやろうじゃないか。人を殺すとか最低な行為はしない……はず。とにかく、ある程度のことは仕方がない。こういう姿、彼女が見たら幻滅するだろうな。ネオルですら引いてしまうかも。


 どれもこれも世界を救うため、無償で簡単に気楽に世界を救えるヒーローがどこにいるんだ。


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