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第75話 地下都市・プラエトル

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「危なっ……」


 木々を飛び移っている時、マサカリが派手に転んだ。無理もない、久しぶりに外に出たんだから。数百年間もラルティーグの脳内に閉じ込められていたんだし。それで左腕に擦り傷を負っていたけど……回復速度が異常だ。もう傷が塞がろうとしている、とても生々しくて見てられないけど。


「大丈夫かい?」


「私は大丈夫だ。やはりモンスターであることを自覚したからか、傷の治りも早くなっている。これをメリットと捉えるか、人間らしさを失ったデメリットと捉えるかは人によるな」


 マサカリは元々王をやっていたからか、妙に落ち着いている。それにしても、どういう経緯で王になれたのか気になるな。先生とか討伐者なら、多重人格だとしても、育成学校に通えばなれなくもない。討伐者を育成する学校も、先生を育成する学校も、何だってある世界だし。


 でも王になるためには、国と土地と民が必要だ。王になりたいと願って、育成学校に通うだけではどうにもならない。どこかの土地を貰って、それを国として申請しなきゃいけない。普通の人間じゃできっこない……けれども、ラルティーグが変に関与していたらできるのか。


「そういえば自己紹介がまだだったな。私はマサカリ、数百年前にスズランという国で王として、国を治めていた。そこら辺はフィールドに聞いただろう。ラルティーグが誤って小国の王と側近を殺害したことがある、同時に『国民の面倒を見たい』という欲でも生まれたのだろう。私はマサカリという名前で、スズランという国を治めることになった」


 ラルティーグは昔から病んでいた。病んだ挙句、彼は全く関係ない人を殺害する癖がある。やっぱり関係ない人を巻き込むことに罪悪感を覚えていたんだろう、そのせいでマサカリが生まれた。王も亡くし行き場を失った国民の面倒を見るために……何だか悲しい男だな、ラルティーグって。


「トラブルは無かった、トラブルの原因をラルティーグが消していたからだが。しかしストーズに侵略され、どうしようもなくなってからは封印された。というより、私らが真実に近づいたからだな。魔王と世界滅亡の関連性に、ガーゴイル計画ではなくデストルドー計画の真相に」


 これを聞いているラルティーグは、未だに何も発さない。封印されていたマサカリとフィールドからラルティーグに関する、隠したかった真実を告げられて言葉を失っているのか、それともさっきの出来事がショックで何も考えられないのか、どっちかは本人しか分からない。


「それで、今はどこに向かっている?」と、腕の傷を完全に修復し終えたマサカリが尋ねてきた。


 確かに、今はサーベルトを先頭に木々を飛び移っているが、どこに向かっているのかというと、それは聞かされていない。ただサーベルトの向かう方へ着いて行っているだけだ。しんがりはラルティーグを背負ったジャッカル、未だにラルティーグは腕で顔を隠している。


「ぶっちゃけると、俺はセントリーの地理なんて知らない。だからここはハルとエルドとネオル……は居ないんだった。ハルとエルドに任せる。ジャッカルは彼を運ぶのに精一杯だろう」


 サーベルトは地面に降り立ち、風の吹く向きを調べていた。サーベルトはストーズのマードックで義賊として活動していた、だからセントリーの地理なんて知らなくても問題ない。マサカリとフィールドに至っては数百年前の人達だ、もはやセントリーなんて国が無い時から生きている。


 俺は感覚を研ぎ澄ませて、ここら辺の地形を予想してみることにした。風の吹く向きから、どこに山があって川があって、どこら辺に人が暮らしているかが分かる。匂いは風に乗って飛んでくるから。だからモンスターの独特な匂いも分かる。


 こんな能力、ネオルに教えられるまでは使ったことなかった。俺がエボリュードに所属していた時、この能力は既に備えられていたはずなのに。これもさっきマサカリが言っていた「自覚するまでは分からない」ということなのか。こんな鋭い感覚があったら、俺は世界一の討伐者になっていただろうな、今更どうでもいいけど。


 近くに川があって、モンスターもいる。鋭い爪を持つモンスターで、身長も高めだ。姿は見えないから分からないけれど、リザードだと俺は予想する。また、ここに来るまでずっと森が続いていた。途切れることのない巨大な森、つまりここはシティストとハルマーナの境にある"ノープの森"か。


 何なら前に訪れたことがある。ジオンガルムを討伐しに向かい、その途中でリザードを討伐した。そこで1回デリーシャと出会っていたが、その時は石の存在も知らなかったし、そもそもジャッカルとも出会っていなかった。だから何も知らずに何も気づかなかった。でも、ネオルは全てを知ってたんだよな。


「ボクたちがいるのは、シティストとハルマーナの境目。シティストはさっきの教会があった都市。ぶっちゃけると、ボクたち3人に家なんてない、だから行くべき目的地もない……家もどきならいくつか存在するけれど」


 ハルの言う「家もどき」というのは、地下都市のことだろう。ジャッカルが治安兵士のリーダーを暗殺するために本部のタワーに行ったが、色々とあって退却。その際に地下都市の中を通った。だけどちょうどそこでハルの仲間に出会い、ハルが目覚めた。そのハルの仲間も診ていた患者も治安兵士に撃たれて亡くなったからか、あれから一度も戻っていない。


「家もどき、とは?」


「セントリーの大首都のツェッペリンの地下に、地下都市・プラエトルがある。地下での生活を余儀なくされた人々が暮らしている。君たちも見ていたとは思うけど、色々とあってボクはあそこから逃げ出した。ボクのせいでみんなが巻き込まれる羽目になったからね。またみんなを巻き込むのはゴメンだ……もう、みんなは居ないからいいけど」


 ジャッカル関係なく、治安兵士によって彼らは殺された。何か悪いことをした訳でもない、ハルを匿った訳でもない、ただ地下都市にいたから殺された。どういう訳で地下での生活を余儀なくされたのか、それらバックグラウンドも知らない。とにかく、許されざる行為ってだけは言える。


 もちろん、ハルは地下都市に戻ることを拒んでいる。でもそれは「仲間を巻き込みたくない」という理由から来ている。しかし世の中は残酷だ、その仲間というのも全員治安兵士に殺された。だから戻りたくない理由ってのも存在しない。


「……分かった。プラエトルに向かおう。地下なら地上からの監視も免れそうだ」


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