第73話 同じ顔を持つ7人
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ここにいる、ラルティーグを除いた6人は、全員ラルティーグから生み出された架空の存在なんだろうな。だから生命の石で体が分割されても、ここに存在できている。同じ顔だから奇妙だけど……だとしたら3人はどういった役割を持っていたんだ。
「……俺はサーベルト・ヘロドトス。ストーズで貴族の金を盗んでは、貧しい人たちに配っていた。誤った正義心がアイツから生まれたんだろう」
最初に口を開いたのは、サーベルトと名乗る人物であった。サーベルト、ストーズでミリテアという女性と共に義賊を行っていた人か。デーヴィーネッドと呼ばれてもいた。でも確か、サーベルトはラルティーグに殺されたんじゃなかったのか。何ならラルティーグ本人がそう言っていた。
「……アイツは臆病な男だ、大切な人を殺す勇気はない。一応俺も大切な人という扱いだったんだろう、殺さずに人格だけを封印された。俺だけじゃない、フィールドもマサカリも同じく封印された存在だ」
なるほど、ラルティーグでも人を殺すのに躊躇するのか。やっぱり病んでいるからか、思考がぶっ飛んでいる時もあるな。どうでもいい人を殺すのには厭わないけど、大切で身近な人を殺すのには躊躇いの心が生まれる。そうなるのなら、そもそも人を殺さないようにすればいい。魔王も命令していないんだし。
「……それなら、ネオルは今どこに?」と、ハルが尋ねた。
ネオルもまたラルティーグに殺された、世界滅亡の真実を伝えようとして。サーベルトもフィールドもマサカリも「殺した」と言っていたはずなのに、実際には封印されていただけ。殺されてはいないから、今もここにいる。でも、ネオルの姿は見えない。
「……ネオルか、彼は良い人だった。でもここに居ないということは亡くなったということだ。本人の口から聞いた方が早いかもしれないが、今はそれを話せる余裕は無いみたいだなぁ」
サーベルトの代わりにそう言ってきたのは、名前も知らない別の男。サーベルトの横に立っているから、マサカリかフィールドか。どっちかが教師をやっていて、どっちかが一国の主と聞いていたが、服装も顔も同じだから見た目で判断することはできない。
「僕はフィールド、数百年前、"ネルフィー"という国で教鞭を執っていた。彼の奥深くに眠っていた『人の役に立ちたい』という心から生まれたんだろう。そうやって僕は貧しい子供たちに、勉強を教えていた。戦争が始まって、ストーズに吸収されるまではね。戦争で子供たちを失った時に、同時に真実にも気づいてしまった。彼が魔王とやらと企んでいる計画について何もかも。真実を知った僕は、病んだ彼に封印された」
ストーズは数百年前から侵略行為を繰り返していて、世界相手に残虐な戦争を仕掛けた最悪の国としても知られているみたい。俺はもちろん生まれていない、ここ数年に与えられた命みたいなものだから。でもフィールドは、その時期を生き抜いていたのか。
「……話を戻そう。僕とマサカリは同時期に封印された。マサカリもネルフィーの隣国の"スズラン"の王をやっていた。でもストーズに吸収された。そこら辺で色々とあって、魔王の存在を知った。世界滅亡とかは知らなかったけど、魔王の言動から何となく予想できた。それで病んだ彼に封印されたのがオチだ。それから2人でずっと君らのことを観察していたよ。2人といってもお互いの姿は見えない、ただ存在しているのは分かっていた。数百年も時が経ったある日、僕らは久しぶりに外に出られた。それが、今だ」
マサカリもフィールドも数百年前から生きてきた人で、2人ともラルティーグに封印されている。サーベルトも封印された存在だけど、今日やっと外に出ることができた。それで聞かされた言葉が「世界滅亡」って、そんなの酷すぎる。彼らが辿り着いた真実って何なんだ。
「……僕らが知った真実をここで言うこともできる。でもここでは言わない。まずは彼の保護を優先するべきだ」と、フィールドは言う。
「……その真実とやらを言え、世界滅亡をそのまま見過ごす訳にはいかないんだよ。ラルティーグなんてどうだっていい、今はそれより……世界を救う必要がある」
と、フィールドに歯向かったのはジャッカルであった。何故か真実を告げない2人と、真実をいち早く知りたいジャッカル。この対立構造、いつもどこかで見ているような……気もする。
「ここで伝えることじゃない、彼がこれ以上病んで自死を選んだらどうする? 僕らが分裂しているのも彼が望んでいるからだ、彼が死んだら僕らも消滅する。世界滅亡を止められる人間は居なくなる」
フィールドにそう告げられたジャッカルは黙ることしかできなかった。魔王に見捨てられ、ラルティーグはずっとうずくまっている。起き上がる気配もない。寝ているようで、寝ていない。ただ何もする気力がないんだろう。魔王に着いていこうともせず「裏切られた」という心から何も発展せずに、ただただ居るだけになっている。
5年前、俺とジャッカルとハルで、ラルティーグを精神的に追い詰めた。酷い言葉をかけまくった。そうすれば体を制御できると思ったから。それは正しかったし体を奪い取ることもできたけど、本当に正しかったのかというとそうでもない。永遠に鳴り響く声に苦しめられたラルティーグは、ポリスタットの酒屋を破壊した。
あの時は目の前のことに夢中で気にかけていなかったけど、ラルティーグは異常なまでに苦しんでいた。耳を塞いでも声は聞こえてくる、しかもその声の主は自身が求めた安らぎの存在、だから殺そうにも殺せない。ネオルを殺したという罪の意識もあった、だからラルティーグは……声が聞こえなくなるように分裂を求めた。
決して、俺たちを殺すとかは考えなかったんだ。ただ永遠に聞こえる声を止めるためだけに、分裂し体を分けた。それが魔王の復活に繋がろうとも、ラルティーグのやったことは間違っていなかった。逆に間違っていたのは、俺たちだ。もう少し、平和な解決法があったはずなのに。
とにかく、ネオルはここには居ない。やるべきなのは……ラルティーグとの対話だ。
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