表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/100

第7話 俺って本当に人間?

----------


「心を集中させ、軽く跳んでみて」


 ネオルの言う通りに、心を集中させてみる。さっき森の中を駆け抜けた時は何故かいつもより早く走れたし心も集中できた。鎧を着けているのにも関わらず、重いとか疲れるとかそういった感情は存在しなかった。それどころか周りにいたゴブリンの微かな鳴き声や足音を聞き取れるようにまでなっていた。


 とりあえず、心を集中させよう。


 ゴブリンを目の前にして深呼吸。いつもならこんなことしている暇はない。でも今は心がそれを求めている。息を深く吸って、吐く。それをするだけで心が落ち着く。それに……いつもよりも周りの音が聞こえるようになった。


 周りにいるゴブリンの微かな足音、自分の鼓動、服が擦れる音。それどころかここからじゃ見えない、丘を越えた先にある集落の生活音も。木の葉の舞う音から、人々の会話する声まで。普通じゃ有り得ない、でも今は何故か聞こえる。


 この状態で少しだけ飛び跳ねてみると、家の屋根を越えるくらい高くジャンプすることができた。何だ、これ。何がどうなっているんだ。軽く跳んだだけで5mくらいの高さまで来れた。それに……何の音も立てずに着地することもできた。


 本当に何がどうなっているんだ。普通の人間じゃこんなことできないのに。頭の中に声が聞こえたりする時点で普通じゃないけど、そういう類いではない。身体能力が明らかに向上している。屋根を飛び越えるくらい高く跳び、無音で怪我なく着地。俺って本当に人間なのか?


「それについてはまた今度。今は近くにいるゴブリンを倒す時間。次は自分の思い通りに動いてみよう」


 ……投げやりだな。この力の原理も説明せずに、目の前にいるゴブリンを倒せだなんて。とりあえず、今の俺は何でもできそうだ。高く跳ぶこともできたし速く走ることもできたから、何かやってみたいことをやってみよう。


 俺は剣を背中のケースに収め、目の前に立っている1体のゴブリンに向かって突進してみた。小柄なゴブリンは棍棒を構えようとしたが、もう遅い。目にも留まらぬ速さで突っ込んできた俺に遠くまで飛ばされてしまった。ざっと、30mくらいか。気を失っているのか、起き上がることもなく倒れたまま。


 次に俺の真横にいるゴブリンに向かって剣を振り下ろしてみた。対モンスター用の剣だが錆びれているため切れ味は悪そうだが、俺の力と体重が合わさってか、スパっと真っ二つに切れてしまった。血と共にゴブリンの内臓が溢れ出る。こんなの見たくなかったな。


「ウギャァ!」


 続いて、咆哮を上げてきたゴブリン3体をまとめて剣で切り刻む。いつもは重く感じていた剣が、何故か今は軽く感じる。それに攻撃力も増しているから、少し振るだけで奴らの体には大量の傷が付いていく。


「グルァァァァ!」


 と、ここで棍棒を持ったゴブリンらが俺に攻撃を仕掛けてきた。しかし、無意味だ。棍棒を振るその動き、俺には止まっているように見える。さては、動体視力も高まっているな。ゴブリンらの攻撃を軽く空中で1回転して避けつつも、ガラ空きの胴体に剣を刺し込む。それだけで奴らは、死ぬ。


 残りは2体。遠くに吹き飛ばされて気絶していた奴は口から白い泡を出して動けなくなっていた。これはほぼ死んだようなものだ。体の器官は動いているが、脳や心臓といった精神を司る器官が動いていない証拠。だから生き残っているのは、俺の目の前にいる2体。


 だが奴らは俺を攻撃してこようとはせず、何なら棍棒を置いて逃げようとしている。よくよく観察してみると、奴らは他のゴブリンよりも体が一回り小さい。ということは、子供のゴブリンか。


 助けたい気持ちは山々なのだが、ここでこいつらを倒さなかったら、集落に暮らす人々が襲われる、こいつらが大人になった時に。ならば今のうちに討伐しておいた方が良さそうだな。


 そう考えていたが、頭の中にネオルの声が響いてきた。


「若い命は見逃してあげて。モンスターを全てが悪い存在じゃない」


 ……心の中では納得していないが、確かに悪い存在ではないモンスターもいるな。一応は。調教されて人間を襲わないよう教育されたモンスターは移動手段に使われている。だからって目の前にいるゴブリンがそうであるはずないのだが。まぁ、いいだろう。小さい命を目の前にしたら、流石の俺でも討伐を戸惑ってしまう。


「二度と人間を襲うなと約束しろ。そうすれば見逃す」


 奴らに人間の言葉が通じるかどうかは知らないが、とりあえず奴らの目の前で剣を地面に突き刺したまま交渉してみた。結局、奴らは答えずに棍棒を置いてそのまま森の中へ帰って行ったのだが。まぁ、ある程度の期間は人間を襲ったりしないだろ。恐怖心が心の中に植え付けられているから。


「これでミッション終了、ある程度力の使い方は分かってきただろう。後は村に戻ろう」


----------


 セントリーという国では、モンスターの死体を売買することができる。ゴブリンとかスケルトンとか、そういった下級モンスターでも中々の値段が付く。巨人ともなれば一生暮らせるくらいの金が手に入る。それは流石に言い過ぎか。


 俺はバーンズ村から直接モンスターの死体取引会に連絡してもらい、値段を決める認定士にゴブリンの死体を見てもらった。


 結果、下級モンスターだからかそこまで値段は付かなかったが、それでも稼ぎにはなった。それに1体だけ俺が突き飛ばして討伐したゴブリンがいたが、そいつは「傷が付いていないから」という理由で高く売れた。得た金は……全て村を復興するための貯金にした。


----------

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ