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第66話 白いゴブリン

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 ラルティーグは急に発狂し、その場にうずくまった。耳を押さえて塞ぎ込んでいるようにも見えるが、どちらにせよ俺たちの声は心の奥深くまで聞こえてくるようになっている。原理は分からないけれど。


「耳を押さえる必要は無い、どちらにせよ聞こえるからな。それがお前の弱いところだ、お前はすぐに真実を塞いで見ないフリをする」


 ジャッカルの言葉はラルティーグの心をえぐっていく。自傷行為を始めたラルティーグを止めることはできない。それは勝手に奴が始めた行動だから。奴は見える範囲にある全てのガラスを、自身の手で叩き割ろうとしていた。ジャッカルの声が聞こえないようにするために……無駄だけど。


「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ」


 奴は拳で酒のビンを叩き割っていく。魔王と契約した人間で怪力を持っているとはいえ、病んでいる体を無理やり動かしているからか体が思考に追いついていない。ラルティーグの心は早くガラスを割ろうとしているが、体は休もうとしている。拳からは血が垂れ流れ、居酒屋の床を赤黒く染めていく。


「お前らは何も分かっていない!!!!」


 左手の拳で殴り続けても、能力を使って怪力で一気に割ろうにも、居酒屋が血まみれになるだけでジャッカルの声は一向に止まない。それどころか、バベル城から多くの兵士がやって来ており、居酒屋の周りを囲んでいる。


 しかしラルティーグも追い詰められながらもそれに気づいており、左手の傷を使って、モンスターを呼んでいた。遠くの森から大量のゴブリンの走る足音がドッドッドッ……と聞こえてくる。だけど何かがおかしい、いつも聞こえるゴブリンの鼓動音が聞こえない。


「手を上げて出てこい、お前に逃げ場はない!」

「抵抗するな、戦士を殺害した罪で逮捕する」

「無視するなら、今この場で処刑するぞ!」


 ここで、居酒屋の周りにいる兵士を取り囲むようにゴブリンが到着した。しかし、ラルティーグに呼び寄せられたゴブリンは……何とも言えない不思議な形をしていた。鼓動音は聞こえないし、体も痩せ細っていて、体が白い個体もいる。棍棒を持っている個体はいないし……目も真っ黒だ。


「何だこれは!」

「ゴブリンの形をしているが……」


 謎の個体だらけのゴブリンは、その場で突然……消失した。煙を上げながら跡形もなく消えていった。不思議だ、こんなゴブリンは見たこともない。死体も残さないゴブリンなんて……もしかして、アルビノの巨人と同じ失敗を繰り返したのか?


「何がどうなっているんだ」

「ちょっと待て……奴はどこに行った!」

「探せ! 戦士を殺害した犯人が消えた!」


 精神的に追い詰められたラルティーグは、隙をついて生命の石を使い、空間をねじ曲げることによって近くの森へとワープした。生命の石にこんな能力があったなんて。兵士から逃げ切ったラルティーグは……というと、精神的も肉体的にも疲労しており、手も足も顔も何もかもがガタガタと震えていた。


 今が……チャンスだ。


 俺はラルティーグから体の制御権を奪い返した。今まではラルティーグが体を動かしていて、奪うことはできなかった。でもそれが、今ならできた。何日ぶりだろう、自身の体をこうやって自由に使えるのは。ストーズの洞窟で閉じ込められたのが最後じゃないのか。ネオルと最後に話した時くらいが。


 ラルティーグは真っ白な空間で眠りについている。精神的にも追い詰められたんだ、無理もない。それにおかげで体の制御権を奪うことができた。ここからは俺たちのターンだ、世界滅亡を阻止するための、ネオルの夢を叶えるための。


「それで、どうすればいいんだ」


「手っ取り早いのは、ボクらが死ぬことだ。でもそれなら生命の石を魔王に奪われてしまう。魔王がどういった行動を取るのか不明だし」


 俺の体には、世界を変えてしまう3つの石のうちの1つが埋め込まれている。力の石はシティストで有名な討伐パーティー・デリーシャのメンバー5人が分けて持っていて、時の石は賢者の館に保管されているらしい。だから彼らに会えば、石を取ってくれるかもしれない。


 でも、この悪魔の作戦を遂行するために、ポリスタットの戦士や住民を巻き込んだ。ただ普通に生きてきただけなのに彼らは殺された。そういう訳があって、もう少ししたら容疑者として指名手配されるだろう。それよりも早く、賢者かデリーシャに会う必要がある。


 石を持っていることに戸惑っているんだ。それさえ伝えれば、疑惑の目はあるかもしれないけど、石を取り除くのに協力してくれるかもしれない。


「……その前にラルティーグを殺すべきだ、ネオルを殺した犯人はラルティーグ、奴がいつ復活するか分からん。だから完璧に原因を駆除する必要がある」


「いいや、ボクらは彼に作られた存在。彼が死んだらボクらも居なくなるかも。居なくなるだけならいい、空っぽになった肉体はどうなる? 魔王に回収されたら終わりだ」


「それもそうだな。まずはデリーシャに会いに行くか。拠点は新聞にでも載っているだろう。エルド、ハル、ここが正念場だ」


 そうこう会話している間に……ラルティーグが目覚めてしまった。


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《数日後 シティストの居酒屋の倉庫にて》


「ポリスタットで殺人事件、白いゴブリンを目撃した者もいるみたいだ」


 赤髪の、討伐パーティーのリーダーをしている青年は新聞を広げながらパーティーメンバーと話していた。彼はこの都市では人気の存在で、自分の記事を見るためにいつも新聞を買っている。そんなお茶目なガルだが、この時だけは表情が違った。


「白いゴブリン……妙ね」と、サタナ。


「特殊個体でも、死体の消えるモンスターなんて聞いたことないね」と、フィン。


「調査に行くか、何だか妙な予感がする」と、ソール。


 俺たちはシティストで最も有名な討伐パーティー。それでも真っ白で死体の消えるゴブリンなんて聞いたことがない。今まで長いことモンスターと戦ってきたし、訓練生時代からゴブリンの王を討伐したこともある。自分で言うのも何だけど、この5人は本当に優秀なんだ。


「もしかして、石か?」


 リーダーのガルがそうやって発言した瞬間、空気が一気にシーンとなった。石、彼は何を言っているんだ。石ころが何かしたのか、白いゴブリンと石が何か関係あるのか。


「……いや、居酒屋に……イシガキという名前の酒があるみたいでな。それもその殺人犯に割られてしまったらしい。高級酒だからいつか飲みたかったのに」


 天然のガルは笑い飛ばしながらも、真剣な目をしていた。それにしても不思議だな、白いゴブリンなんて。でもそれは殺人事件、ポリスタットの中心部で人が人を殺したんだ。目撃情報によれば「青年が発狂しながら、頭を潰した」とあったけど、そんなことができる人間なんているのか。


「もしかして、人と同じ形をしたモンスター?」と、俺が発言したら……4人は「そんなことないでしょ」と否定してきた。有り得る話かと思ったけど、やっぱり違うみたい。巨人と呼ばれるモンスターはいるけど、そいつらは15mくらいの大きさ。とても居酒屋に収まるサイズじゃない。


「それはさておき、今からポリスタットの討伐者育成の学校を助けに行くぞ。先生が足りなくて困っていると言っていた」


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