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第65話 愛する人を殺めた青年

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「私に指図するな!」


 店内は、急に静まり返った。居酒屋で昼から楽しく飲んでいた戦士も、その居酒屋で客と話しながら働いている店員も、また居酒屋の向かいにある八百屋の店員と客も、全員が黙った。いいや、怯えているんだ、急に奇声を上げたラルティーグという青年の奇行に。


「私は大切な者を失った!」


 そう言ってラルティーグは、俺たちが映っているフォークを片手でへし折った。居酒屋のフォークだ、俺の物でも何でもない。ただ反射して映る俺たちの姿を見たくなかったんだろう。しかしフォークを割ったくらいでラルティーグの怒りは収まらない。


「ああああああああああああああああああ!!!!!」


 怒りを行動でなく叫びに変えたラルティーグは……周りから恐れられた。簡単に言えば恐怖の対象となった。ラルティーグの隣の席で飲んでいた戦士は剣を抜き、酒を運んでいた店員は兵士を呼ぶために外に出ようとしている。向かいの八百屋にいた子供たちは恐怖のあまり動けなくなっていた。


 しかし、これくらいでジャッカルは止まらない。ジャッカルだけじゃない、闇医者であるハルも彼に続けて悪魔の質問を繰り返す。


「君は存在してはいけなかった。これは周知の事実だ、お気の毒だけど」


「ほら、お前が求めていた医者が言っているんだ。お前もいい加減認めろ、お前は存在してはいけない、とっとと罪を理解しろ」


 ジャッカルとハルの声は、ラルティーグにしか聞こえない。それでいてラルティーグは、俺たちのことを自分のように感じている。どういう原理かは分からないけど、架空の討伐者の人生を楽しんでいるとか発言していた。


 考えるに、ラルティーグは絶望的な状態にあり、俺に体を預けて生活させることで、またはそれを客観的に見ていることで安らぎを得ていた……ということが何となく推測できた。そこから3人で考えたのが、今回の悪魔の作戦だ。魔王よりも恐ろしいのは、身近な人間。


 ラルティーグは俺たちの考えが読める、でも深くまでは分からない。それに真っ白な空間でどう行動したかは理解できていなかった。俺とジャッカルが喧嘩したフリをしていたのに、あの空間では仲直りして握手していたのに、奴は気づかなかった。だからこそ、俺とジャッカルは会話せずに、ハンドサインで作戦を考えた。


 医者であるハルの助言により、ラルティーグをとことん病ませることにした。長期的なプランならラルティーグの精神を回復させるべきだが、3年なんてすぐ経ってしまう。それにラルティーグは人の石を使うのに忙しい。だから……悪魔の考えたが、病ませた方が簡単だ。


 病ませに病ませ、求めていた医者や暗殺者から突き放される。唯一の理解者は自身の手で殺した、これは仕方ない、自業自得なんだ。俺たちだってこんな非道なことはしたくない。でも、ラルティーグを止めなかったら、人類が滅亡してしまう。下手すれば他の生物も。俺たちには、ラルティーグと生命体の滅亡を止める義務がある。


 ラルティーグは現在進行形で、病み尽くしている。しかし俺たちは会話を止めない。永遠に話しかける。何でポリスタットにしたか、それは単純、至る所にガラスがあるから。反射する物があれば、俺たちの姿が映る。声は常時聞こえるが、ガラスがあった方が声も大きく聞こえる。


 流石のラルティーグでも、店のガラスを全て叩き割ることはできないよな。ここはポリスタットの中心部、郊外に出るまで時間がかかるぞ。多分、この声も奴には聞こえていない。奴は目の前のことで頭がいっぱいだろうから。


「私はネオルを愛していた! だが私を裏切った! だから殺したまでだ」


「手を上げろ、その場から動くな!」


 遂に周りの戦士から止められてしまった。しかしラルティーグは自身のことで精一杯、頭の中から永遠に離れない言葉の暴力への対応に一苦労で、目の前に剣を持って立っている戦士への対応なんて考えられないだろう。それにしてもネオルを愛していたなんて、なら何で殺したんだ。


「私を邪魔する者は容赦しない!」


 ラルティーグは怒りのあまり、力を制御できずにいた。剣を振り下ろした戦士の頭を両手で握り潰し、首からもぎ取ってから、それを地面に叩きつけた。もはや味方とか敵とかその区別すらついていない。別の戦士に反射するジャッカルを殴ろうと、戦士の胸を殴り潰したが……その人が死ぬだけでジャッカルに害はない。


「早く逃げて!」

「何してるんだ!」

「きゃあああああああ!」


 周りからは悲鳴が聞こえてくる、関係ない人を巻き込んでしまっているが……本当に申し訳ない。人類の滅亡を防ぐためなんだ。罪のあるラルティーグを潰すために、罪もない戦士2人が巻き込まれたが、早いうちに決着をつけなければ。


「鏡を見ろ、映っているのは誰だ? 返り血に染まった人間が正常で正しい存在か?」


 ガシャン……


 いくら周りが悲鳴を上げようとも、ジャッカルの声は常時色々なところから聞こえてくる。それはポリスタット、周りにガラスとか反射する物体があるから。近くにあったフォークや、戦士の着ていた鎧や鏡を破壊しようとも、ジャッカルの声は永遠に聞こえる。


「お前の愛するネオルは、お前のこと嫌っているぞ」


「正義のために人間を殺しているのなら、それは間違っている。君は正義でも何でもない、ただの許されざる罪だ。君の親に罪はない、君にはある」


 ガシャン……ガシャン……


 ラルティーグは無言で泣きながら周りのガラスを割っている。居酒屋だから酒のビンがたくさん置いてあり、それのひとつひとつに俺たちの顔が映っている。ジャッカルの異常な笑みや、ハルの深刻そうな顔が、余計にラルティーグの心に刺さるんだろう。


「お前はモンスター同然だ、治安兵士やストーズよりも厄介で害悪で、価値がない」


「……ごめんだけど、僕たちも君の元に生まれてきたのを後悔している。君の元に生まれるくらいなら……もっと前に消えるべきだった」


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


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