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第63話 鏡との対話

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「生命の石を使えば、どんな空間でも生み出せるのか?」と、ここでジャッカルが質問した。


「……私の見てきた記憶ならな。もちろん、君やハルやエルド、殺されたネオルやサーベルト、"フィールド"や"マサカリ"の記憶も知っている」


 聞いたことのない名前が出てきたが、これが前に言っていた王様とか教師の人格なのかもしれないな。結局、どれもラルティーグに殺されてしまったから会うことはできないが。それにしても、どう病んだら王様とか生み出せるんだ。


「……それなら、お前がルフラーン村を襲った時の描写を見せてくれ。俺たちに隠し事はしないんだろ?」


 ジャッカルは、ラルティーグの過去の記憶を見ようとしていた。それはネオルが生まれるキッカケになった出来事で、ラルティーグの親友が暮らしていたルフラーン村を、モンスターの操作方法を覚えている最中に誤って殺してしまった事件。ネオルが生まれるキッカケになったということは……ラルティーグの病みが発生した瞬間とも言える。


「……良いだろう。隠し事はしない。私が味わった経験を見れば、君たちも分かってくれるはず」


 ラルティーグが手をかざすと、背景は少しずつ変わっていった。床に敷かれていた高級そうな赤いカーペットは消え、代わりに草が生えていく。カラフルなステンドグラスも消え、代わりに薄汚れた家が立ち並んでいった。こんなにリアルなのに、家には触れることもできない。


 擬似的な空間だから仕方ない……それにしても、村が騒がしいな。村の方から悲鳴が聞こえる、移動して見に行ってみるとそこには炎に包まれた人間が悲鳴を上げながら悶えていた。というのも、家が何者かに壊されており、そこから人間に火が移ったらしい。助けたいけど、俺に助ける権利はない。


 周囲を確認すると、そこには何十体もの白い巨人が村を襲っていた。草原の上には血だらけの家畜の死体が、それも50匹くらい落ちている。白い巨人は家畜を食い荒らすだけでなく、そのルフラーン村に暮らす人間も食い殺していた。村長の住む石レンガの建物を掻き分けて破壊し、中にいた老人を両手でムシャムシャと貪る。


 目も瞑っていて何も見えていないはずなのに、髪の毛の生えていない真っ白な体をした巨人は次々に人を襲っていく。妊婦の体をへし折り2人を吸収する巨人もいるし、その隣で家の柱ごと子供を食べている巨人もいた。目が見えないのに動いていて、しかも人間を食べているとなると……普通の巨人ではない。


「……私の作り出した巨人の失敗作だ。巨人は本来なら、自然に生まれないモンスター。この時は、そこら辺にいるゴブリンに人の石を使って、無理やり巨人に仕立てあげていた。しかし、ゴブリンの生殖機能と巨人の本能が上手く合わさらずに……人間を捕食する個体へと進化してしまった」


 対モンスター用の剣を持った討伐者達を軽く吹き飛ばし、彼らの下半身を握り潰してから、飲み物のように内臓を啜り出している巨人だっている。真っ白な体をしているから、余計に返り血が目立つのも恐ろしい。それに生物を捕食する度に、微笑んでいるように見える。これは気のせいか、もしくは本当に嬉しくて笑っているのか。


 巨人は名前の通り、巨大な人だ。でも生殖器は付いていないし、厳密に言えば消化器官といった人間の仕組みも有していない。だから食べた物はどこに行くか……簡単に言うとそのまま排出されずに空気となる。胃で完全に溶かして、空気として排出する。どういう仕組みかは分からないけど。


「助けてくれ!」

「……子供たちだけでも」

「早く逃げろって!」


 何を叫んでも結果は変わらない、ルフラーン村に暮らしていた全ての住民がこの真っ白な巨人によって食われて殺されてしまった。子供や大人、男性と女性関係なく、全ての人が平等に殺られた。どれもこれも平和を望む1人の青年のせい、ラルティーグが引き起こした最低最悪の事件。事故じゃない、故意じゃなくとも。


 草原の上で1人、巨人にも襲われずにうずくまっている青年がいる。顔は見えないけど、間違いなくラルティーグだろう。巨人は体の状態を保てなくなったのか、徐々に崩壊していく。血を浴びた体は少しずつ小さくなっていき、やがて消滅した。巨人の跡地からはゴブリンともいえない、不思議な生命体が這い出てくるが、そいつらも消滅した。


「……モンスターになり損ねた失敗作、私はこれで親友を殺してしまった。それから、私は食べ物を受けつけなくなった。食べ物を見る度に、このアルビノ巨人のことを思い出しざるを得ない体となった。どうやっても逃れられなかった、私のせいなのは分かりきっている、だからこそ」


 場面は変わって、家の中で泣いているラルティーグの姿が映し出された。食べ物を何十日も摂取していないのか、顔も体もやつれて痩せ細っている。でも人の石とか魔王との契約の関係もあってか、死ぬことはできない。生命の石を使って、無理やり栄養を摂取して生き延びている状態なんだろう。


 ラルティーグは独りで、鏡に向かってずっと話しかけていた。特に罪を懺悔するようなことは話しておらず、ただ普通の日常会話を繰り返している。誰が相手かも分からない、これは単に情景を映し出しているだけであって、ラルティーグの本心は理解することができない。


「……明日は晴れるかな? そうか、明日は曇りだったっけな。そういえば、ハルマーナの方に美味しいパン屋さんがあったよな。あれ行きたいな、そうだね。そういや、ルフラーン村のローグは元気かな、最近結婚したとか言っていたしな。子供も産まれるとか言っていたし、楽しみだな。


……いやいや、俺はまだ恋人なんていないからさ。それよりお前はどうだっけ、彼女とまだ付き合って……いないか。もう別れたのか、お気の毒に。でも俺は好きな人くらいいるさ、ハルマーナのピザ屋さんにいる看板娘が、めちゃくちゃ優しいんだ。俺にも声をかけてくれる。いつかお前にもチャンスはあるさ」


 鏡に語りかけているラルティーグは少しずつおかしくなっていった。目の焦点は合わず、呼吸する回数も減っていき、挙句の果てに言葉遣いにも異常が見られるようになった。それなのに、ラルティーグの鏡との対話は終わらなかった。


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