第62話 力の石を手にした討伐者
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そこから、会話をすることは無くなった。
ジャッカルとは一言も喋らない。頭の良いハルは、この独特の空気感と雰囲気を察知してくれたようで、俺とジャッカルの間を保ってくれている。だから俺はハルとは話すけど、ジャッカルとは話さない。同様にジャッカルはハルとは話すけど、俺とは話さない。
「ストーズの王は殺せなかったが、どうせストーズは諸国に吸収されるだろう。数週間様子見かな、その間に石を回収しよう。安心してくれ、ルイの命はお預けだ。石を無事に回収し終え、魔王の元に届けてから……彼女に伝えたいことはあるか?」
「……無い。もう全てを伝えた」と俺は答えた。本当は嘘だ、これからも会いたいし、また一緒に話したい。
「まぁ嘘を着くな、君が考えていることは何となく分かる。生命の石は次元をも超越する、その気になれば全ての生命体を掌握することも可能だ。ルイを君の奴隷にすることだってな。君はそんなことなんて望まないと思うが」
「……勝手にしろ」
そう答えると、ラルティーグの声はまた聞こえなくなった。風を切る音と共にけたたましく鳴り響く足音も聞こえるし、奴は今巨人の肩の上に乗っているんだろう。生命の石を使って、疲弊しきったラルティーグの移動手段として巨人を歩かせていると考えられる。
「ジャッカルがこう言っている……『奴隷にしたらどうする?』って。何か答えた方がいい」
ハルは俺とジャッカルの仲裁を務めている。ハルは拳を地面に叩きつけ、ジャッカルは頭の上で手を適当に動かしている。一体何をしているのか、さっぱり理解できない。そんなことは置いておいて、ジャッカルもそういう考えを持つようになったのか。
「なら、お前を潰す仲間にする……とでも伝えておいてくれ」と、俺はハルに伝えた。
俺はハルの手を強く握り、その上で指を鳴らした。ハルは理解したのか、今度はジャッカルの手を握ってその上で指を鳴らす。更にジャッカルも理解したのか、今度は俺の手を握ってその上で指を鳴らす。よし、ジャッカルを潰す準備は完璧だ。暗殺者を許すつもりはない。
「暗殺者を許すつもりはない……それって、もしかして喧嘩しているのか。私の中で喧嘩するのも自由だが、ハルの負担が大きくなるぞ。まぁ、残りの人生も好きに楽しんでくれ」
ラルティーグは喧嘩を容認してくれた。ならば何度でも戦い放題だな。ジャッカルは俺の耳を掴んで、指をぐにゃぐにゃと動かした。ハルも同じように自身の指をぐにゃぐにゃと波のように動かす。それらを見た俺は指を鳴らす。
「ふざけんなよ……ジャッカル」と、俺はそれだけ言ってジャッカルとまた殴り合いの喧嘩を始めた。
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ラルティーグはストーズから撤退、そのままセントリー内に侵入した。普通なら国境を渡る許可証が必要でそれを申請しなくちゃならないのに、奴は近くにいた門番らしき人達を全員切り刻んだ。前みたいに肉塊にしてやりたかっただろうが、それは体力が許さなかった……と予想しておく。
そうして奴は今、ポリスタットにいる。どうやら力の石はシティストに集中しているらしく、長い戦いになりそうなので準備を進めるとか。そういえば、力の石とか時の石がどこにあるか、俺たちはよく分かっていないな。そもそも効果も何も知らないし。
力の石には保持者がいるってのは前に聞いた、でもそれ以外の情報は聞いていない。俺たちみたいに不思議な力を持っているのか、もしくは魔王と契約していないからショボイのか。でも力というからには、生命の石みたいに想定外の力を持っているんだろうな。時の石も気になるが。
「……教えてやろう。私は君たちに隠し事をしないで生きたいからな。君たちも何も隠さず、真っ裸で生きていてもらいたいがな……今のところは2人が喧嘩していることくらいしか読み取れないが」と、奴は人の石を使って、新たな空間を生み出した。
それにしても、この空間……どこかで見たことがあるな。高級そうなカーペットが敷かれていて、ステンドグラスも美しい。窓から覗いて見てもどこかは特定できないが、景色は群を抜いて美しい。こんなに高い建物、バルパーには無かったからな。こんなに高い塔があるのは……シティストか。
よくよく見ると、塔の中には死体に囲まれた俺と、槍を構え持っている男達がいた。これらはラルティーグが人の石を使って見せている幻覚だが、現実と変わりないように見える。ここは王の暮らす城、遠くの方には王を警備する人間と、剣を持った5人組がいた。
もしかして……でも、あれは夢じゃなかったのか。今でも覚えている、リアルな夢だったから。ネオルから「悪い夢を見ていたようだね」と伝えられたから夢だと勘違いしていただけで、本当は現実だったのか。でもそれなら、俺は指名手配されているはず。王の暮らす城で人を殺したから。
「正確に言えば現実だが、あの時のことを覚えている人間は私たちしかいない。生命の石を使って、周囲に存在していた生物の記憶を消去した。リザードとジオンガルムを討伐したのも事実で、人を殺したのも事実だ」
前に村長から任務を受けて、ジオンガルムを討伐しに行ったことがある。ハルマーナとシティストの境にある川で偶然リザードを討伐した上、デリーシャと呼ばれる5人組パーティーと共にジオンガルムと戦った。彼らは「金に興味は無い」と言って、討伐金を全て俺にくれた。
それだけでも不思議だったのに……彼らは能力とかどうたら言っていた。俺の持つ能力、ラルティーグが魔王と契約して手に入れた力を見抜いているようにも感じた。それに「ここでは能力を使えない」とも言っていた。彼らの言うことが本当なら、彼らにも特殊な能力が備わっているのか?
「今のは俺じゃない」
人の石で生み出された架空の空間にいる、過去の俺はそう呟いていたものの……説得力は微塵もない。だって彼の足元には死体が転がっているから。対モンスター用の剣は人間には効かない、でも彼はそれを鈍器として使用したみたいだ。
この状況、もちろん覚えている。だけど俺は殺した記憶なんてない。となると、ラルティーグの仕業か。ジャッカルなら用意周到だ、治安兵士の武器とか使ってもっと簡単に殺してみせるだろう。何せラルティーグは器用じゃないからな。
「……私は不器用だが、力がある。デリーシャの5人に力の石が五等分されていることが判明し、私は捕まえようとしたが……敵わなかった。彼らは力の石を巧みに利用していたのだ。敗北すれば魔王に多大なる迷惑をかけることになる」
場面は変わって、デリーシャの4人とラルティーグが戦っている。彼ら5人のうち、1人だけ戦おうとせずに怯えて黙って様子を見ていた。ただ、それ以外の4人は状況を理解しているのか、対人間用のナイフでラルティーグの首を切り裂こうと、宙を舞っている。
「……私は敗北したが、特定はできた。そこで私は生命の石を使って皆の記憶を消去し、金を奪ってバーンズ村に帰還した。デリーシャとの出会い、偶然と呼ぶべきか、必然と呼ぶべきかは君に委ねよう」
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