第60話 バーンズ村を襲った犯人
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ラルティーグが左手を森へ向けてかざすと、突然巨人が森の中から現れた。15mくらいはある、でも巨人が何で森なんかに。あの巨体が木の中に収まるとは思えない。
討伐者を養成する学校で習ったが、巨人は厄介な上級モンスターで、弱点も種類によって異なる。そもそも巨体であるため、討伐も困難。少しでもミスを犯せば簡単に踏み潰されてしまう。俺の両親……は存在しないか。でもバーンズ村もバルパーも炎の巨人・スルトにやられた。
その巨人らがどこに暮らしているのかは現在でも不明、突然現れたかと思いきや突然姿を消す。人を襲うとか明確な理由があるかとか、それもよく分かっていない。ただ、危険だとしか。元々討伐者だった先生は「巨人のせいで右目を失った」と言っていた。
「……エルド、君の過去は私の妄想だ。君が学校に通っていたという事実は存在しない。そもそも君に学校時代の友達はいないだろう。私と同じ独りよがりの生命体だからな」
そうだった。ラルティーグは独りを好む存在だ。それに俺の過去は全て存在しない、全てはラルティーグという男の冷たくて悲しい架空の物語だもんな。エボリュード時代からは俺の実在する物語だが、それ以前はそもそも無い。討伐者の資格を取ったというのも、学校で習ったという記憶も鮮明に残っているのに。
「他のモンスターは土の中で眠っている。世界の均衡を乱さないためにも私が眠らせていたのだが、今は任務のために特別に解放した。しかし巨人を眠らせておくスペースは存在しない。だから……今、ここで生み出したのだ」
人間と全く同じ姿をした巨人は、その巨大な体を利用して、拳だけでフォギー城を破壊していく。ゴブリンの攻撃など塵に等しい、でも巨人は……脅威だ。レンガで造られた城は少しずつ崩されていく。対モンスター用の剣を持っている警備員は、為す術なく巨人に踏み潰されてしまった。
巨人は城の近くに立っている塔をぶち抜き、それを遠くに放り投げる。塔の崩落に巻き込まれた市民もいるのにも関わらず、巨人は手を止めない。いや、止められない。ラルティーグが指示しているから、その血だらけの左手で。
「生命の石には巨人を生み出して制御する力も含まれている。魔王によると、巨人は神の使い手に相当する武器らしい。いわば私と同じく、王の側近。自然に生まれない特殊なモンスターとしては最高の味方だろう」
巨人に関しては嫌な思い出しかない。ラルティーグに作られた架空の思い出を除くとしても、エボリュードと共に30m超えの巨人と戦ったことがある。その時も大変だった、何故か人を襲わずに村の周りを徘徊していたから。怪我なく倒すことができたからよかったけど。それにバルパーやバーンズ村も……ちょっと待て。
自然に生まれない特殊なモンスター……巨人って自然に生まれないモンスターなのか。というか自然に生まれないとは何だ、モンスターは森で生まれて人間を襲いに外に出るんじゃないのか。有名どころで言えば、ゴブリンもスケルトンもオークも、人間を襲うために森から出てきている。
人工的にモンスターを生み出すって……もしや。
「真実を受け止めたくない気持ちは分かるが、もう少しスルッと行かせてくれ。私が巨人を生み出したということに変わりはないのだから」
となると、今まで戦ってきた巨人は全てラルティーグが生み出したモンスターになるのかよ。自然に生まれないモンスターってわざわざ言うんだから本当なんだろう。それなら----
「バーンズ村を破壊したのは、私だ」
その言葉を聞いた瞬間、俺は気を失いそうになった。真っ白な空間の中、腹も減らないし眠たくもない。そんな不思議な空間の中で俺は死の川を渡りかけたのだ。変化不可能の事実に押し倒されて、俺は何も出来なくなった。目の前が真っ黒になっていく、白い世界なのに色が足されていく、見たくもない光景が頭の中に浮かんでいく。
バーンズ村を破壊したのは……ラルティーグなのかよ。炎の巨人とモンスターの大群を生み出して、バーンズ村を滅亡させたのは奴だった。ルイさんの家族を奪って、近くの集落に暮らす無抵抗の老人達の命を奪った。そんな卑劣な行為をしたのは……奴だ。
「前々から言おうと思っていたのだが、タイミングが無くてね。ルイと言ったか、彼女を逃がしたのはミスだった。計画の邪魔になるから後々消すが、余生を楽しませてあげたい」
ラルティーグは訳の分からないことをずっと言っている。何が「余生を楽しませてあげたい」だよ、お前が関与しなければ彼女は普通に暮らせたのに。そもそもバルパーをゴブリンに襲わせたのはラルティーグだ、それが無ければ俺とルイさんが出会うことはなかったし、同時に襲われることもなかった。
「許さない」と、俺はポロッと口にしていた。
「許さない……どうせお前は架空の人物だ。登場人物は本物でもな。それに、お前の人生にスパイスを加えないと面白くないだろう? むしろルイに感謝されたじゃないか、私にも感謝しなさい」
コイツは何を言っているんだ。自分で言っていることがおかしいって、ラルティーグ自身気付いていないのか。他人の人生を弄んでおいて、しかも俺だけじゃなくてルイさんの人生も。バーンズ村の村長にだって、立派な人生があった。みんなに。なのにコイツは……他人の気持ちなんて理解できないのか。
「……村長をこの手で殺した、快感だったよ。最後に私の正体を教えて、ゴブリンに頭を殴らせ、胸にスケルトンのナイフを突き刺した。でも死んでしまったから、人の石を使って一時的に蘇生させた。それでもう一度殴り倒してから、バルパーに運んだ」
もしかして、村長をバルパーに運んだとされる漁師って……コイツだったのか。
「親の死に目を見せてやりたかった。どうせ彼女も死ぬし。善意か悪意かは分からないが、私の親は病で死んでいてね、私は拉致されていて死に目に会えなかった。だから彼女には会わせたかった」
変なところで良心が湧くのかよ、人の心を持っているのか持っていないのか分からない。何なんだコイツは、バーンズ村を破壊してバルパーを襲った理由は「計画に邪魔だから」というのまでは分かった。ならそもそも、俺を生み出した時点で殺せばいいだろ。それなら、俺も、周辺の人も巻き込まれることはなかった。
「……私の唯一の安らぎを消す訳にはいかない」
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