表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/100

第6話 正気じゃない作戦

----------


 4日後、俺は近くにある集落に行った。用件は前に言われた通り、近くにあるゴブリンの出没地でゴブリンを討伐すること。「前は素手だったが、今回は剣があるからいけるだろう」と、村長はそう思っているらしい。


 前回、ゴブリンを無意識のうちに討伐したと言ったが、もしかしたらあれはネオルがやったのだろうか。2つの人間が1つの体に宿っているなら、もちろん交代という制度があるはずだ。ずっと脳の中で閉じ込められるなんて嫌だしな。


 で、もしそうなら俺の体は素手でゴブリンを討伐できる力を、今も有していることになる。正確には素手だけでなく瓦礫とか石とかも使ったらしいが、どちらにせよ変わるのは人間だけ。体自体に変化がないと仮定すると、今の俺にも同じようなことができるのかもしれない。


 でも、今までの俺はそこまで強くなかった。


 というか、そういう力があったらエボリュードを追放されていないだろ。あのパーティー内で俺は4番目に強かった。要は下から1番目、1番弱かったんだ。他の人はサポートに徹したりできるのに、俺は皆をサポートすることなく、ただ普通に立ち向かって普通に倒す、上級モンスターは皆で力を合わせて倒す。ただ、それだけ。


 ちょうど俺が追放されたタイミングで、色々と変わったりしたのか。それは急すぎるな、ネオルって人は一体いつから俺の体の中にいるんだろう。


「今はそんなことより、出没地に急ぐんだ」


 頭の中にいるネオルはそうやって俺を急かしてくる。分かっている、ただどうしても気になるだろ。集落に暮らす人達から武器と食糧を貰い、俺はゴブリンが大量に出没するとされる森に来た。


 お昼時でいつもなら眩しいのだが、森に入るともう光は届かず真っ暗。手元にある物とか足元は見えるのだが、一寸先は闇。急にゴブリンが走ってこられても何も対処できないな。あいつらは薄汚い棍棒を巧みに扱うから、頭を殴られたらそれだけで致命傷になりうる。


「……今のうちに言うと、もう既に君はゴブリンに囲まれている」


 ネオルはいつもと変わらない優しそうな声でそう告げた。俺がもうゴブリンに囲まれている……だって? いつの間に囲まれていたのかよ。確かにあまり周りが見えないから、もしそうだったとしても……ちょっと待って。何でネオルはそう焦らずにいられるんだ。もう少し焦ってくれたっていいだろ。


「言ったはすだけど、僕には攻略法が見える。ここから30歩分、前に全速力で走るんだ」


 ネオルはまた優しそうな声で俺にそう言った。そうか、ネオルには全てが見えている。角を曲がったところに大男やゴブリンがいたことも。だから今言われた通りに全速力で走れば……攻略できるということか!


 俺はネオルの指示に従い30歩分、全速力で駆け抜けた。いざ走ってみると、心が集中モードに入った。自分の駆ける音だけでなく、周りを囲っているゴブリンの鳴き声や足音まで全て聞こえる。それに心なしか、普段より速く走ることができた気がする。


 それで俺は森を抜けることができた。ちょうどネオルが言った通り30歩分だった。「前に30歩走れば森を抜けられる」なんて的確な指示、普通の人じゃ出せっこないな。できたら結果も言ってほしかったが。「大男にぶつかるぞ!」とか「森を抜けられるぞ!」みたいな感じで。


「これで集落のない方面から森を抜けることができたはず。ここでゴブリンと戦えば集落に被害は及ばない」


 ネオルの言葉通り、森からはぞろぞろと大量のゴブリンが出てきた。この数……10体以上はいるぞ。こいつらと真っ暗な森の中で戦っていたらと思うとゾッとするな。確かにここでなら、ゴブリンといくら戦っても集落に被害は及ばない。よく考えられるな。


 あと、強いて言うならネオルにはゴブリンの数も教えてほしかった。


「それは求めすぎ。僕だって全てが見えている訳じゃない。見えるのは攻略法と周りの大まかな情報だけ」


 ……それもそうか。普通の人は頭の中に声なんて響いたりしないもんな。その声が手助けをしてくれるだけでもマシか。


 とりあえず、太陽に照らされた平原で俺はゴブリンと戦うことにする。右手には錆びれた対モンスター用の剣、左手には古びた対モンスター用の盾、後は一応対モンスター用の鎧を着ているが、着心地は悪いし錆びれている。こんなんでゴブリンの攻撃を防げるのだろうか。何なら着けてない方がマシなまである。


 と、ここでネオルからとある指示が下された。


「ここで鎧を脱いで、盾を置こう」


 ……正気じゃない。確かに古びた盾と錆びれている鎧でゴブリンの攻撃を完全に防げるとは思っていないが、それでも無いよりはあった方がマシ。さっき自分で「着けてない方がマシなまである」とか思ったが、絶対着けていた方がマシ。


「かもしれないね。でも君にはそれがちょうどいい」


 ……俺はどちらかと言えば疑い深い人だと思っているから、ネオルが俺をハメて殺そうとしているんじゃないかと、頭の片隅では思っている。でもそれをわざわざするくらいなら、ゴブリンの時に何も手出ししないで見捨てるか。


「ちょっと待て。僕が君を殺す? そんなことするはずがない。僕は君を救う、だって君が死んだら僕の人格まで消えてしまうから」


 それもそうか。俺がもし死んだとしたら、それは俺の人格が消えることも肉体が消えることも意味しているらしい。だから俺が死んでもネオルは体を乗っ取れずに共に死んでしまう。だからネオルは俺を助け続けるのか。


 それなら従おう。俺は鎧を脱いで盾を捨て、剣だけを持ってゴブリン達の前に立った。


----------

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ