第58話 全生命体の絶滅
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ガーゴイル計画、力の石、時の石、生命の石、ラルティーグ、魔王、何もかも初めて聞いたものばかりだ。ジャッカルもハルも同じく。でも、ネオルだけは前から知っていた。苦痛を味わっていたのもネオルだけ。ラルティーグと戦っていたのも……ネオルしかいなかった。
「質問なら何でも答えよう。後でもいい、3人で整理する時間が欲しいだろう。でもこれだけは言える、エルドは架空の人物だ。君がエボリュードに追放される前の思い出は全てが私の妄想。追放した理由も答えておこう、単純に計画の邪魔だったからだ、エボリュードが」
そう言ってラルティーグは、落ちていたステンドグラスを手で叩き割った。俺とジャッカルとハルは真っ白な空間の中に閉じ込められたのだ。周りの景色も見れない、ラルティーグの呼吸音も鼓動も何もかもが聞こえない。何もない空間だ、3人いる以外は。
ラルティーグの声も聞こえなくなったし、これが奴の言う「3人で整理する時間」なのだろう。ぶっちゃけ話がよく理解できていないのに、奴はそのままどこかへ消えた。というより、俺の体を動かしているんだろう。いや、俺の体じゃなくてラルティーグ自身の体か。
ここにいるのは俺と、足を伸ばしてリラックスしているハルと、鋭い目つきである場所を睨んでいるジャッカル。ある場所というのは、元々ネオルがいた場所だ。真っ白な空間の中でも定位置みたいなのがあった。ジャッカルの隣はいつもネオルだったんだろう、でもネオルはもういない。
「……意外だったね。ボクとジャッカルは当然だけど、君もオリジナルじゃないとは」
最初に口を開いたのはハルだった。ハルは闇医者として生きていた。いつネオルに人格についてを伝えられたかは分からないけど、俺に迷惑をかけないように、ツェッペリンで黙々と患者の手当てをしていた。邪魔をしたのは俺の方だ。
「同感だ、多重人格とかいうよく分からん病にかかった青年から生まれた暗殺者、それだけ聞かされていた。自暴自棄になって見つけたのが暗殺者の道、俺にはそれで充分だった」
ジャッカルも俺と同じように、ネオルに架空の人物だと伝えられていたんだろう。その時から辛かったはずなのに。暗殺者として活動していたのは共感できないけど、自暴自棄になるのはよく分かる。
「質問でも考えるか?」
「エルドが必要とするならね。ボクは何となく分かってきたよ、彼の求める答えが」
ハルは何かを察した様子。ラルティーグから体の制御を奪ってどうにかしようと考えていたけど、俺にもその気力は残っていない。ジャッカルだけは唯一、何かをしでかそうとしているが……残念ながらジャッカルにも制御権を奪うほどの力は無かった。
「3年間ここで暮らすか抜け出すか、何もしなければ……」
いつもなら力を込めて念じるだけで、人格を交代できた。ジャッカルの暗殺を止める時も、洞窟の中でミリテアとの出会いを聞いた時も「外に出たい」と思うだけで体を動かせるようになった。でも、今はそれができない。どんなに念じても、心から念じていないのか、手が震えるだけで終わる。
それはハルもジャッカルも同じ、さっきから試しているようで心拍数が徐々に上がっていっている。それでも失敗している、現に2人の姿がまだここに見えるから。ラルティーグの姿が見えないし、奴が体の制御権を持っているんだろう。
「……体を奪うのは無理みたい。なら、何をすればいいと思う?」と、ハルが尋ねてくる。
多分だけど、ハルもジャッカルも俺も同じことを考えている。あの凶暴な性格のジャッカルも同じ気持ちって……初めてじゃないか。最初で最後の共同作業をした時でも、彼は暗殺を続行しようとしていたからな。
「よし、話し合いだ」
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「ラルティーグの力の出処は?」
「魔王との契約だと思う。本人がそう語っている以上調べようがない」
「なら、ハルの患者に多重人格の人がいたってのは本当か?」
「……いた。あれがラルティーグだったなんて、気付けなかった。それに、ジャッカルにも依頼をしていたみたいだし……ボクらの人生は彼の手のひらの上に存在していたんだ。架空だけど」
俺たち3人で、ラルティーグの陰謀を止める方法を話し合っている。外部からはどうにもできない、ラルティーグが企んでいるなんて外からは分からないだろうし。これは俺にもジャッカルにも言えるが、外から見たら普通の人間に見える。
魔王と契約したとか何とか、そう言われても信じられないくらいに人の形を保っているから。ハルによると、悪魔と約束事を交わした人間は悪魔に近い存在となったとか。あくまで神話の話だけど、魔王は本当に存在したんだ。神だっているに違いない。
なおかつ、ハルとジャッカルと俺の人生をラルティーグは弄んでいた。闇医者のハルには「多重人格を治したい」と依頼して、暗殺者のジャッカルにはガーゴイル計画に邪魔な治安兵士のリーダーとストーズの王を消すように依頼した。討伐者の俺に何かを依頼するようなことはしなかったが、結局は架空。
どこかで突然生まれた俺は、ラルティーグに作り上げられた嘘の記憶を元にして、モンスターを全滅させるべく動いていた。エボリュードに参加したのも、モンスターを絶滅させるため。バルパーでスルトを討伐したのも、何もかもが。
「エルド、考えるべきなのは未来だ。闘争心を失ったらどう世界が変わる?」
ジャッカルはいつも以上に真面目な口調で語りかけてくる。魔王とラルティーグは平和を望み、戦いを終わらせるために闘争心を無くそうとしている。闘争心が消えれば争いの火種も消えるし、平和になるのは事実。
「……ハル、人間の進化の歴史は分かるよな?」
「あぁ、他の種族と争いつつもアイデンティティを確立させ、人間としての個体で生き残って今に至る。モンスターがいるけれど、現在も人間が生物界の頂点みたいなものだよ」
ん、待てよ。他の種族と争いつつ、人間としての個体が進化しながら生き続けていたのなら、闘争心をそこから失えば進化が止まるんじゃないか。闘争心を失えば平和にはなるけれど、その代わり個々の明確な感情までもが消失することになる。
「その通りだ、エルド。全生命体の闘争心が消えれば『生き残りたい』という心も消える。だから……奴らの夢が叶えば、人間は絶滅する様なものだ。それだけじゃない、人間以外のモンスター
や生物も」
魔王とラルティーグの「世界の生命体から闘争心を無くす」という計画、あれを止めずに放っておいたままにしていたら……全生命体が絶滅するのか。もちろんモンスターも、人間も。止められるのは、計画の概要を知っている俺たちのみ。
じゃあ、止めるしかないよな。
「残念ながら、それは不可能だよ。君たちの会話は全て私の耳に入っている。どんなに計画を立てようとも、私が聞いている上では無意味な会話に過ぎない。諦めて私と共に平和を実現しようではないか」
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