第56話 架空の青年の正体
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ラルティーグの言葉と共に、場面が切り替わる。
草原に、1人の傷だらけの男が立ち尽くしている。戦いでもあったのだろう、槍を手にしているが近くに人はおらず、ただただ呆然と立っているだけ。近くには水も食糧もない、敵も味方もいない。彼は遭難したんだろう、戦いから逃げるために。
「これが私だ、戦いから逃げるためじゃない、戦いを終わらせるためだ。数十年前、ストーズは各国と戦争を繰り広げていた。私はセントリー出身だが、ストーズ側の人間として戦っていた。何故だか分かるか?」
……見当もつかない。
「平和ボケしている若者は良いな、戦争も考えずに呑気に暮らせる。私もそうなりたかった。答えは簡単、ストーズに拉致された。セントリーで暮らしていたはずなのに、何者かに誘拐されて、気づけば『ストーズとして戦ってもらう』だと」
……ストーズはこんなに酷いこともしていたのか。
「それもつい最近、30年前のことだ。初心な青年だった私は、戦争を知らずに生きていた。なのに急に知らない国で知らない国と戦うのだ。諦めて逃げ出したが、連れ戻されては殴られた」
……恐ろしい、戦争って。
「戦争になって私はストーズの隣国と戦った。幸い、セントリー相手ではなかった、知り合いと戦いたくはなかったから。それでも人を殺すのには疲れた、槍で人を殺して悟った、もう幸せには生きられないと。だからこそ脱走して、自分の道を見つけようとした。ストーズから逃げてセントリーに戻ったところで、残念ながら力尽きた」
……その力尽きた様子ってのは、今俺が見せられているこれってことか。目の前にいる青年は、その場に倒れ込んでいた。血を吐いてもなお立ち上がろうとするが、現実は甘くなかった。
「死を悟ったところで、私は魔王と出会った。廃れた教会の中に煙が舞っていた。そこは楽園だった、見たいものを何でも見せてくれた。私の望む夢も何もかも。今は私の体の中に入っているが……生命の石というものでね」
……そんな、幻覚を見せる薬みたいな恐ろしい石が体の中に入っているのか。ということなら、俺の体の中にも入っていたのか。それに、夢を見せるだけなんだろう。現実じゃない、あくまでも夢だ。
「その夢が永遠に続くならどう考えるか。夢を現実だと認識していたら。この世界全体が夢であったらどうするか……冗談だ、この世界は本物だ。しかしエルドの記憶には偽物が混ざっている」
……もしかして、俺が過去に経験してきたと思っていた物も、全てラルティーグが生み出した夢だというのか。
「正解だ、だがこの話は後で。今は私と魔王の話から。魔王は私に質問した、『世界を変えたいか?』と。私の望む夢の中に、戦いのない戦争のない平和な世界が存在していた。魔王は世界を変える術を有していたが、実行するには封印を解く必要があった。しかしこの世の賢者が仕掛けた封印には手も足も出ずに……そこで、魔王は私に問うた。『この世界を変える覚悟はあるか?』と」
……ネオルの言っていた戦争ってこれのことか?
「私が答えた瞬間から、私は魔王の側近となった。魔王と契約し、魔王の一部能力を扱えるようになった。モンスターと似たような力を、人間の私が使う。同時に魔王の持っていた人の石も僅かながら埋め込まれた。これで、モンスターにも人間にも夢を見せることができる、と」
……ラルティーグは、魔王の側近だったのかよ。
「説明が足りなかったな。この世界には3つの石がどこかに存在する。それを1つにまとめあげると、私たちの願いが叶う。魔王の手には既に人の石があり、二大賢者が残りの石を守っていた。だから魔王は私に命令した、『二大賢者から石を奪ってこい』と」
……私たちの願いって?
「戦争が起こるのは生物の持つ"闘争心"が原因だ、それらを完全に消失させる。そうすれば戦わずに他人を受け入れる生命体となり、永遠の共存が可能となる。戦争も起こらず略奪やいじめも発生しない、平和な世の中になる。私と魔王はそれを望んでいる」
……魔王って名前なのに、随分と平和な計画を立てているな。
「ところで、私にはモンスターを操作する技も身についた。だからこそ、モンスターを使ってセントリーを襲った。だが体が追いつかなかった、私の体は異常をきたしていた、しかし身体的な異常は石のおかげで補正できた。だからこそ、心理的な異常だけが心の中に残り続けた。これは石でも治せない」
……それが、多重人格だったのか。ラルティーグが人の石を使ってモンスターを操り、セントリーを襲い続けた結果、生まれたのが多重人格だったと。
「その通り。私はモンスターを操る練習の過程で、誤ってルフラーン村を壊滅させてしまった。私の親友が暮らしていた村だった。それで一気に心が病み、そこでネオルが生まれた、ネオルは家族を大事にしようと奮闘していたが、作戦に支障をきたすことになった。二大賢者から石を奪い返す戦いに参戦できずに、魔王の機嫌を損ねてしまった」
……ラルティーグも病んでいたのか。
「結局、時の石は奪えず、力の石の分配を許してしまった。医者を求めていたが、現れたのはハルだった。深刻なストレスにより、私の体はボロボロになっていたのだ。ハルは私のことを何も知らない、多重人格の患者をツェッペリンで見ていたと言っていなかったか。それは多分、私だ」
……そんなこと言っていたか、覚えていないが、ハルは自身を診ていたことになるのか。
「代わりにネオルには全てを打ち明けた。家族をネタに脅せばネオルは私に従ってくれた。しかし私の心は更に崩れていった。魔王の側近になって、石を埋め込まれてからずっと、一心不乱にモンスターを操って人を襲い続ける。均衡を乱してはならない、それだけ」
……モンスターに家族を奪われた人達が何百人といるのに、その犯人はラルティーグだったのかよ。俺だってスルトに家族を殺されて、それで孤児院にいた彼らも家族を失っていた。そいつらの悲しみなんて考えたことないのか。
「----待て、お前は勘違いをしている。お前は私から生まれた架空の人物だと言っただろう。スルトに殺された事実も存在しない、家族は殺されていない。そもそも存在しない。全ては私の妄想だ」
……やっぱりか、と変に納得してしまう自分に腹が立つ。
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