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第52話 俺は何者なんだ?

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 洞窟の壁に刺さったナイフに向かって、俺は叫んだ。周りからどう見られようと関係ない、彼女に怯えられようとも、周りの人が恐怖を抱いても。


「……彼女は真実を言っている。だが俺も何も分からない。暗殺者として生まれた、それだけしか」


「……ボクも。人を救うために生まれた気がする。それに疑問を抱くことなく、ずっと救ってきたつもりだった」


 こんな時でもネオルは何も発しない。ジャッカルとハルは、それぞれ暗殺者としてとか闇医者としてとか、過去にあった苦悩を乗り越えて来た今があるようにも感じるセリフを吐いているが、ネオルは無言だ。何なら姿も見えない。


「俺に黙っていることがあるだろ!」


 俺は彼女の怯える姿を後ろに、何もないナイフに向かって脅し続けた。叫んで、叫んで、首が折れるまで叫んでやるつもりだった。おかしいだろ、俺は普通に生きてきたつもりだった。スルトに村が踏み潰されても生きた、これを不運と捉える人もいた。でも俺はモンスターを討伐するために、死なずに生きてきた。


 なのに、俺は無意識に病んでいたとか知らされた。病んでいたのなら、絶対に分かるはずだ。これは俺の体だ、俺以外本来なら誰もいない。俺の体だ。病んだつもりもないのに、いつの間にか俺の横には3人がいて「お前は病んでいる」とか伝えられる。


「俺は至って普通の人間だ」


 病んでるとか関係ない。もし病んでいて普通の人間じゃなくなっていたとしても、俺は俺だ。ジャッカルとかネオルとかハルとか、何なんだ。どういうつもりだ、ずっと俺の中にいるくせには真実は語らない。


 そもそも特殊能力って何だよ。普通に生きていたら、どんなに病気になっても手にすることなんて考えられない物だ。跳躍力とか走るスピードとか、腕力とか感覚とか、手に入れてから全てが変わった。近くにいる人の呼吸音と心拍音が聞こえるこの苦しみが分かるか。


 特殊能力も病気も、持ってから人生が変わった。良い意味でも悪い意味でも。そもそもエボリュードを追放された意味も今なら分かる。彼らは俺が無断でどこかへ消えるのを不審に思っていた。恐らくジャッカルが暗殺しに行ってたんだろう。またはハルがツェッペリンに闇医者として活動してたんだ。そのせいで討伐者としての仕事も疎かになった。


「それは本当だ」とジャッカルが言っている。そうだろ、俺は普通に生きていたいのに、ジャッカルとハルのせいでエボリュードを追放された。


 それで今度はネオルだ、ネオルは俺の脳内に突然現れたと思ったら、救世主ヅラして助けるフリをする。本当に助けたいなら、今すぐ俺の頭から消えろ。特殊能力も要らない、純粋な力で普通の生活を送る。モンスターの討伐なんて辞めてやる、モンスターに関わるから俺の人生は廃れた。


 こんなことになるくらいなら、俺もスルトに殺されておけばよかった。下手な人生になるくらいなら、幸せのまま殺されておけばよかった。


「それは口にしてはいけない」とハルが止めてくる。ハルは闇医者だ、俺の人生は救わずにツェッペリンに暮らす浮浪者の人生だけを救って、それで救世主を気取っている。じゃあ、俺の人生はどこにいった。答えろよ。都合のいい時にだけ口を挟んでくるな。


 結局のところ、俺は何者なんだ。


 病んだから能力を手にしたのか、病む前から能力を持っていたのか。その能力のせいで病むようになったのか。普通の生活を送るのに、病も能力も不要だ。だから早く……ここから消えてくれ。




「……真実を知りたい?」




 そう語りかけてきたのは、他でもない。ネオルだ。さっきまでずっと黙っていたくせに、こういう時だけしゃしゃり出てくる。それにしても、ネオルは真実を隠していたのか。やっぱり嘘をついていたじゃないか。


「真実があるなら、早く言えよ」


「……ごめん、簡単には伝えられなかった。ジャッカルにもハルさんにも……でも、その前に。怯えている彼女を避難させるんだ。"戦争"に巻き込んではいけない」


 ちょっと待て。ネオルは今「戦争」って言ったよな。俺に関する真実が、どうやって戦争とやらに結び付くんだ。それにネオルは、俺の制御権をいとも簡単に奪ってきた。抵抗する間もなく、ネオルは俺の体を動かして、彼女を洞窟の外に出るように指示している。


「僕の友達が無礼なことをした。貴方は今すぐ逃げて、今日起きたことは誰にも言わないで」


「……はい?」


 彼女はネオルに無理やり押し出されて、洞窟を後にした。そうしてネオルは体の制御権をハルに渡し、マルチ・パーソンズ・ディメンションで話を始めようとした。俺の多重人格と特殊能力に関する、戦争にも繋がる話を。


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 ハルは洞窟の入り口を崩落させて、完全に塞いだ。外から入ってこられないようにするため、ここまで大袈裟にする必要があるかと思ったけど、ネオルの指示だから仕方ない。外に出るための手段は存在しない、少ししたら空気も薄くなってくるだろうが、これもネオルの判断。


「これで僕らは完全に出られなくなった、上手くいけばこのまま死ねる」


 ハルは動こうにも、動けない状況に置かれていた。理由は簡単、ネオルが無理やり押さえつけているから。制御権を奪う訳でもなく、ただ内面から強制的に止めている。体の一部を乗っ取れるなんて聞いてない。


「僕らはこの世に生まれるべきじゃなかった。だから自分たちで終わらせる必要がある。洞窟の中だったら"奴"でも抵抗できない」


 ネオルは真っ白な空間の中で、ハルの力を抑えている。それに言ってることもよく分からない、この世に生まれるべきじゃなかった、奴でも抵抗できないって……奴って誰なんだ。


「残念ながら僕は死ぬ。真実は奴の口から語ってくれるさ。でもこれだけは伝えておきたい、エルド。君はオリジナルじゃない、それに君は病んでいない。ずっと最初から最後まで、僕は味方のつもりだ。だから……自分の意志に従ってくれ」


 パシュン……


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