第51話 ただの少年
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彼女の言葉を聞いた瞬間、俺は跳ね起きた。正確に言えば、ジャッカルから無理やり制御権を奪った。マルチ・パーソンズ・ディメンションとかいう空間から一発で外に出て、ジャッカルの許可なしに体を手に入れた。
「10年前?」
目つきと口調の変わった俺を見て、彼女は驚いていた。でもお構い無しに、俺は話を続けた。そんなこと言ってる場合じゃない。
「10年前に何があったか教えてください、俺はその時13歳、盗みなんてできない」
人が変わったかのように振る舞う俺を見て彼女は心拍数がどんどん上昇していったが、その「10年前」という言葉に嘘がないことは分かった。彼女は事実を言っているということも。
「早く!」
彼女を急かしたところで何も変わらないのは分かっている。でも真実が気になるんだ。俺は10年前、確実にセントリー内に居た。何ならバルパー近くの村にある孤児院で育てられた。モンスターのせいで家族を失った子供が暮らす。でも俺は早くに討伐者を目指し学校に行くために、孤児院を辞めた。
とにかく、どう足掻いてもセントリー内から出ることはできない。もしその時からジャッカルが中に居たとしても、その時は特殊能力を持っていなかった。上級生に喧嘩を売られて殴られて、その時にネオルの声はしなかった。怪我をしても急激に治ることはなかった。だから、義賊なんて無理だ。
ジャッカルもハルも、俺から体を奪おうとせずに黙っている。取り出したナイフに反射する姿を見ても、そこに映るのは目の鋭いジャッカルと、心配そうに見つめているハルのみ。ネオルなんて姿もどこにも見えない。
「……私を殺してどうするつもり?」
彼女は俺の取り出したナイフに怯えている。言葉では疑問を持っているように感じるが、確実に心拍数は上がっている。流石に殺すつもりで出した訳じゃないけど、説明しても難しい。だから俺はそのナイフを壁に突き刺した。これでいつでもジャッカルとハルの姿が見える。良い意味でも、悪い意味でも。
「10年前、私はマードックで働いていた。まだ子供だったけどフィスク出身で貧しかったから、大人と同じように頑張っていた。でも収入は少なかった、何故なら女性だから。女性ってだけで、同じように働いていても……死にかけた」
……彼女の話す言葉に嘘は含まれていない。
「やがてフィスクもキャッスルも貧しくなっていった。地区の差別、ストーズも貧しくて嫌われているのに、それらの責任をフィスクとキャッスルに押し付けてきた。国の抱える借金を、マードックのみんなは知らない。知らないフリをしている」
……各国から嫌われていて貧しいはずなのに、マードックに暮らす人達は裕福だったな。反対にキャッスルとフィスクに暮らす人達は貧しいと聞いていたが、本当だった。
「その時にデーヴィーネッドがマードックに現れた。彼は次々に金庫を襲い、金を全てフィスクとキャッスルにばら撒いた。それで色々とあって、私は彼と戦った」
……この女性、ミリテア・アインザッツは戦闘に長けている。槍を投げるスピードも半端ではなかった。冗談抜きで、このマードックの中で1番強い気がする。
「私は城の地下で働いていて、そこにデーヴィーネッドが来た。昔武術を習っていて、彼を倒すべく戦ったけど、やられた。それも彼にじゃなくて、槍を持った兵士に。その兵士は私と彼が戦っているところを目撃して、私のことをデーヴィーネッドの共犯だと勘違いしたみたい。未だにその疑惑は晴れていないけど」
……厄介な兵士だな。
「血の止まらない私を放っておくことなく、彼はこの洞窟に運んで手当をしてくれた。その時に顔を見た、貴方だった。サーベルトって名乗った彼は、私の要望を受け止めてくれて、そこから私はデーヴィーネッドのパートナーとして活動した」
……なるほど、だからあんなに戦闘能力もあって、かつデーヴィーネッドについて気にかけていたのか。
「なのに彼は5年前に失踪した。計画書を持ったままどこかへ消えた。一緒にストーズを変える約束をしたのに……あの人は消えて、私だけ捕まって。後は見た通り、色々とあって召使いとして雇われている。不思議なことに、罪には問われなかった。『女性が泥棒のパートナーなんてありえない話だ』とかなって」
……今までの話に、嘘は何も含まれていなかった。彼女は本当に真実のみを語っていた。
でも、10年前にそんなことできない。13歳の時は孤児院から出たばかりで左も右も知らない人間だった。とにかくモンスターを討伐することしか目がない、前しか向けない少年だった。だから、わざわざ他の国に来て戦う余裕もない。
仮に他の人格が、ジャッカル以外の人間がやっていたと仮定しても、俺はその時13歳、限界がある。特殊能力がいつ付いたのかも分からないけど、そもそも13歳の時と22歳の時で顔が全然違うはず。なのに何で彼女は、俺のことをサーベルトって呼べたんだ。
「じゃあ、行ったことのない故郷っていうのは?」
「……それは、私にも分からない。ただ、デーヴァナーガス文字を主言語として使っている場所が故郷だと」
……くっそ、これも真実みたいだ。何が真実で何が嘘か分からない。でも少なくとも、俺はその時13歳で何も出来なかった。ジャッカルだろうと知らぬ人格だろうと歳は同じだ。幼少期にスルトに村が壊された瞬間から人格が生まれたとしても、結局はただの少年。
なら、俺は一体何なんだ。
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