第47話 デーヴィーネッド
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ストーズの都市・マードックに足を踏み入れた瞬間、俺はたくさんの人に睨まれた。マードックを行き交う人々、そこで店を営む人々、マードックの治安を守るために槍を持っている兵士達、その全てが俺の方を向いて睨んできた。
恐ろしすぎて後ずさりしそうになったが、異国の人が入ってきて、怯えているんだろう……と独自に解釈して先に進んだ。ストーズの人種は、セントリーに暮らす人達とまた違うらしく、文化も何もかもが違うみたい。確かに肌の色が黒かったりするけど、そんなのあんまり変わらない。
でも、それにしては何かがおかしいな。
親と手を繋いでいる子供は親から「見てはいけません!」と俺の方を向いて言われているし、兵士は槍を構えようと持ち替えている。ヒソヒソ話の声も聞こえるし、明らかに良くない噂をされているのは事実。
何なら、店で働いている人に俺と同じ肌色の人もいるし、俺が睨まれている理由が人種だけでないことが何となく判明した。だとしたら何だろうか、服装か。冒険用のアーマーを着ているのが、この場所では浮くのかもしれない。でも、100mくらい離れている主婦も俺のことを見てヒソヒソと噂をしている。
「あれってデーヴィーネッド?」
「何でまたこっちに来るんだ!」
「マードック東部に警備隊を集めろ、殺したはずのデーヴィーネッドが来ている」
ちょっと待て。何で俺は、デーヴィーネッドとかいう変な名前で呼ばれているんだ。
それに……殺されたって何だ。ここに誰か来たことがあるのか。俺とネオルはもちろん無いはず、もしかしてジャッカルが依頼した時に何かのタイミングで、ここで悪さをしたのか。暗殺者として任務を遂行するついでに。
「待て、ストーズに来たことはあるが、そんなふざけた名前で呼ばれてたなんて。それに殺されてもない。何がどうなっているんだ」と、ジャッカルも何故か困惑気味。
とにかく、この場から逃げないと。
俺はすぐさま、近くにあった路地に逃げ込んだ。人混みをかき分けて、感覚を研ぎ澄ませた状態のまま。すぐに兵士が追っかけて来たのが分かった……ここはどうにかして撒かなきゃ。
路地に捨ててあった粗大ゴミを倒して進路を妨害しつつ、置かれてあったハシゴを登って家の屋根の上に立った。ハシゴは怪力で持ち上げて、折ってから屋根の上に捨てておいた。流石にここまでは誰も来れないだろう、ハシゴも何もない状態だし。
「デーヴィーネッド、そこから動くな!」
何故か別の家の屋根の上に、槍を持った兵士が立っていた。そこだけじゃない、あっちの家にも向こうの家にも。槍と盾を構えた兵士が大量に、俺の方を向いて立っている。何でだ、デーヴィーネッドと呼ばれる奴は何をしたんだ。こんなに恨まれるようなことをできるなんて。
「ここから逃げろ!」
ジャッカルの声と共に、俺は別の家の屋根に走って飛び移った。そこには兵士が立っていたが関係ない、スライディングしながらその兵士を蹴って地面に落としておいた。槍を刺してこようとした別の兵士には、拳を腹に入れておいた。
「追え、屈辱を晴らす時が来たぞ!」
何十人もの兵士は、俺目掛けて槍を投げてくる。精度は低く、全然当たらないが、このままじゃ市民に被害が出てしまう。槍は俺じゃなく市民目掛けて飛んでいった。どうにかして止めないと……と思い、俺は飛んでいった槍を掴もうと必死に走った。
「きゃあああ!」
俺は槍を咄嗟に掴み、それを近くの家に突き刺した。俺を狙って投げた槍は少女に刺さりそうになっていた、間一髪で防げたからいいけど……あの兵士は何を考えているんだ。少女は俺に何か話しかけようとしていたが、親によって止められていた。
「デーヴィーネッドが少女を槍で襲ったぞ!」
少女を襲ったのは俺じゃなくて槍だし、その槍を投げたのはアイツなのに……濡れ衣を着せてきた兵士は、俺に向かってまた新たな槍を投げてきた。しかし槍は重いのか、へにゃへにゃとした軌道を描いて俺の前にポトン……と落ちてきた。地面に刺さりもしなかったが、これは武器として使ってみよう。
「とっとと消えろ!」という俺の声に反応して、周りの人は走って逃げていった。これで周りにいるのは、俺と兵士だけになった。下手な兵士のせいで市民に危害が加えられることは少なくなったはず。だけど、周りにいるのは100人くらいの兵士。一体、デーヴィーネッドって奴は何をしたんだ。
これだけ敵がいたら加減ができない、だからここからは対人戦闘のスペシャリストに任せる。決して殺しはしない……はず。殺すことはないけど、深い傷を負うことにはなるかもしれない。複雑だけど、下手すれば俺たちが殺される羽目になる。治安兵士と戦った時でも、こんなには来なかったし。
「大丈夫だ、殺しはしない」
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こうしてジャッカルは、約110人ほどの兵士と戦って勝利した。槍や弓矢を持った兵士もいたが、その全員を殺さずに、手に持った槍だけで戦った。近くにいた兵士を槍で脅して盾にして、向こうから槍を投げられない状況にした。
そのまま盾にした兵士を気絶させ、向こう側に立っている兵士に向かって投げ付けた。多分死んではない、下にはゴミ捨て場があるしクッションにはなっただろう。殺してはないけど、ある程度の傷は付けた。槍を兵士の左手に突き刺して、気絶させずに放置した。
これでもやっと7人、これを後100人くらいにしなきゃいけないのか……と考えていたが、違った。50人くらいは何故かその場から逃げ出した。一瞬で7人を倒した怪物みたいな奴と戦いたくなかったんだろう。王を守るのが兵士の務めじゃないのか。
それで後の50人は簡単に倒せた。人格を俺と交代し、俺は落ちていたレンガを叩き割って、粉々になった状態で奴らに投げ付けた。レンガだからとても痛いが、死なないように手加減したつもりだ。遮蔽物があろうとも関係ない、壁があっても反射させればいいだけ。
それで、尋問はスペシャリストであるジャッカルに任せた。左手に槍が突き刺さったまま動けなくなっている兵士の元に向かい、ジャッカルは彼に色々と尋ねた。
「デーヴィーネッドとは誰だ?」
「その前に槍を……槍を抜いてくれ!」
「ダメだ、血を止めている。抜いたらお前は死ぬぞ」
死を覚悟した兵士は泣きながら、デーヴィーネッドについてを語り始めた。別に死ぬことはないのに。最悪出血多量になっても、医者のハルが何とかしてくれる。高熱を当てれば無理やりだけど傷は塞がるし。
「デーヴィーネッドは怪盗で……義賊だ!」
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