第46話 止まれ
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で、結局……ストーズに行くことになった。
ジャッカルとも取引をして「依頼人の正体を暴くまでは暗殺を遂行してはいけない」ということにした。もしそれを破れば、ジャッカルは死ぬ。マルチ・パーソンズ・ディメンションの中で周りから拒絶され、永遠に外に出られないまま孤独で暮らすことになる。というか、そんなことができるのか。初めて知った。
それで行き方は単純、壁を越えて国境監視兵を倒して抜けるだけだとか……とてもじゃないけど、単純とは思えない。そりゃ言葉にしたら単純だけど、まずポリスタットから国境のあるハルマーナに行かなきゃならない。ハルマーナは、前にリザードを討伐した時に行った……気がする。
ハルマーナに着いたら、そこから国境の壁のところまで移動して、それを飛び越える。越えた先にストーズがあるけど、国境監視兵もいるから倒す。「指名手配はされるだろうけど、記憶を消せば問題ない」というのがハルの主張。というか、そもそも記憶消去の技は成功しているのか疑問だ。
記憶が本当に消えているのか、それを確かめたことはない。治安兵士と戦った時も、さっきコンテスト会場で戦った時も尋問した時も、その技を使ったけど……一度も効果を確かめたことはない。だから正体がバレていたら終わりだ。
治安兵士には顔を見られ、コンテスト主催者には何もされていないが脅したし骨を折った。記憶消去の技が上手くいってなければ、即刻で指名手配されるのも時間の問題だ。
でも、ハルの言うことには一理ある。
凝り固まった思考だったら、今後どんなことがあっても発展しない。同じ対処法をぶつけて、成功することもあれば失敗することもある。それでものしかかってくるトラブルは、様々な種類があって対処できないものもある。だからこそ、柔らかい考え方持って対処する必要がある。
まぁ、ジャッカルは……良くも悪くも素晴らしい思考の持ち主だ。暗殺者でなければ世の中で成功していたはずなのに。どうして暗殺者として生まれてしまったんだろう。
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「そこを動くな、止まれ!」
国境を飛び跳ねて越えようとしたジャッカルを、セントリー側の国境監視兵は止めようとしてきたが……彼のパンチによって気絶してしまった。鎧も兜も身に着けていたのに、それも彼に壊された。
「お邪魔します……でいいよな」
ジャッカルは今更礼儀でも覚えたのか、丁寧な言葉を使いつつ、国境を飛び越えて向こうにいた兵士の腕をナイフで傷付けた。鎧を着けていようがジャッカルからすれば関係ない、抵抗むなしく彼らもまた気絶してしまった。
ここからは小国・ストーズの領地だ。俺は初めて来た、というかセントリーを出たことがないし……これが初めての海外旅行ということになるな。最悪だ、目的が依頼人の捜索と暗殺じゃなかったらもっと楽しめたはずなのに。
能力のせいで視力が良いのか分からないけど、遠くの方まで見渡せるようになっていた。ここら辺は草原で森も何もないが、遠くの方には都市らしき街並みが見える。ジャッカルから人格を交代して、感覚を研ぎ澄ませた状態で周りを散策することにした。
遠くに見えているのはストーズの首都・マードック。セントリーで言うところのツェッペリンくらいには栄えている。仮面と黒いローブを身に着けた状態で歩くと怪しまれるため、それらは全部リュックの中に詰めた。今はハルマーナで適当に服屋から拝借した、冒険用のアーマーを着ている。
ストーズはモンスターがあまり出没しない国と聞いた。だから対モンスター用の鎧を着ていると怪しまれる。セントリーはモンスターが出没する国だから、鎧を着たまま歩いていても「討伐者なんだな」という印象を受けるだけで怪しまれることはないけど、ここは違う。郷に入っては郷に従え……っていうことか。
冒険用のアーマーだから、対人用の剣の耐性が強く、腹を殴られてもある程度は防いでくれる。今は森にいるけど、森の中も整備されていて、何というかセントリーと全くもって違うな。セントリー内はモンスターが出没するから、森の整備とかされていない。
使っている言語は同じか、これは世界的に共通なんだな。森の中でも暮らせる国があるなんて、不思議だ。それにしても、服装もみんな豊かだ。ストーズは各国から嫌われていると聞いたが、それにしては皆楽しそうに暮らしている。ポリスタットの市民の服装と比べると、向こうは質素だが、ストーズは高級そう。
「……正確には、マードック周辺は偉い人間しか住んでいない。マードックを越えた先にある、キャッスルという都市やフィスクという集落は、貧しい人ばかりが暮らしている」
なるほど、思った以上に事態は深刻な様子。マードックに暮らしているお偉いさん方は、首都の周辺で裕福な暮らしをしている。しかし、本当に国を支えている人達は、キャッスルと呼ばれる別の都市で、貧しい暮らしをしている。フィスクはもっと貧しい人ばかり。
これはコンテスト主催者にも共通するな。上級階級が暮らすために、下級階級の人達が必死こいて労働する絵面。反乱を起こそうにも金が無いから対抗できずに、ただ根に持つだけで何も出来ない。セントリーはまだ豊かだけど、ストーズは思った以上に……貧富の差が激しい。
なら、ストーズのやり方に不満を持っている人達は大体キャッスルかフィスクに居るんじゃないか。上級階級の人達は今の生活に満足しているだろうし。ジャッカルは金には興味の無い暗殺者だ。セントリーに来れる金があるかはさておき、これなら幅が広がる。
とりあえず、フィスクに行くにしろキャッスルに行くにしろ、マードックを通る必要がある。上級階級の人々の暮らしを見て、どう不満を募らせているのかも確かめる必要性がある。
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