第40話 さようなら
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結局、スルトの討伐金は.......ほんの少しだけ貰えた。何度も断ったが、王が「どうしても貰ってほしい」というから、断るにも断れなくなった。でも、これも全てルイさんに渡した。
移動資金は、必要ない。バーンズ村からバルパーまで、普通なら半日かかる距離を1時間で走り切った男だ。少しづつ休みながらいけば何とかなる。金が必要になっても、行く先々でモンスターを討伐して稼げばいいさ。
それに、今はルイさんの方が心配だ。彼女は家族も村も全て失った。バーンズ村を復興しようにも、完璧に破壊された村を立て直すことはできない。建物はあっても、村人が居ない。だから、彼女は新たな土地へ向かうみたいだ。スルトの討伐金を元手に、新たな仕事を見つけて暮らすとか。
どちらにせよ、ここでルイさんとはお別れ。
だから最後に.......と、2人でバーンズ村の跡地に訪れた。バーンズ村と集落は壊滅状態にあり復元ができないため、モンスターに破壊された跡地として保護されている。モンスターの惨さを後世に伝えるためにも、人は入れないようになっているが、関係者の俺たちは入れる。
「これからも頑張ります。皆の分まで」
亡くなった人達に心の中で願いながら、2人で散策した。結局、彼女から許しを得ていない。でも、これ以上謝っても意味がない。それは酷い意味じゃなくて、前に進むためには必要ない.......という彼女の意向だ。その意向に口を出すつもりはない。でも、亡くなった彼らには謝っておく。
「それで、どこに?」
「まだ決まってないけど、結構遠くの方に。ジャッカルの謎を解明しないと」
俺が多重人格というのを知っているのは、実は彼女だけ。ルイさんと、中にいるネオルとジャッカルとハル以外は、誰も知らない。だから彼女には身の内を明かすことができる唯一の人間だ。何でも話せるけど、彼女の負担にならないように気をつけないと。
「.......やっぱり、バルパーで話し合いたい。ここで話したいけど、みんなに見られている気がして」
という彼女の願いを聞き入れ、バルパーに向かった。走って行くとかじゃない、普通に車で向かう。モンスターは嫌いでトラウマになっていても、ある程度のメリハリは付けないと.......と彼女は考えている。
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結局、バルパーにある喫茶店で話し合うことになった。といっても、前に行った所ではなく新しい別の喫茶店。前の所はゴブリンに破壊されていて復旧作業中だ。南東の方だったから、ちょうどスルトの攻撃範囲とも重なっていたはず。無事に営業が再開したらまた行きたいな。
それで、今はディブル城近くの喫茶店にいる。名前はアクセル・スラッシュ。カッコイイ名前だから覚えやすい。前の喫茶店の名前も覚えている、確かマッケイガンだったか。由来が気になるところ。
アクセル・スラッシュの看板メニューは、ソルト・ティー。海のような磯臭さもあるティーだ、とりあえずそれを飲んでみたが、味はそこまで美味しくなかった。多分、海の近くに暮らしていて、海の磯臭さに慣れている人は美味しく感じるんだろう。
実際に、海の近いガーディアに何回も行ったことのあるルイさんは、このティーを美味しいと感じていた。味覚って不思議だな。人の経験の積み重ねが少しでも違うだけで、味の感じ方が全く違うなんて。
「それで、話っていうのは?」
「.......ひとつだけ気になっていることがあって、貴方が久々に帰ってきた時に、ハルさんがほぼ全てを説明してくれたでしょ。その時に、貴方の過去を聞いたんだけど『それは本人に聞いて』って言ってた。幼少期、何があったの?」
俺が気絶している間にハルが、代わりに説明していたってのは覚えている。起きたらハルに「ボクが全て教えた」って言ってて焦った記憶がある。別に隠す程のことでもないけど、配慮してくれたんだな。
「本当だ、ボクから話すよりも君から話した方が.......説得力がある」と、鏡越しに彼は言ってくれる。本当に良い人だな、ハルって。
だからこそ、俺の口から話すことにした。俺の過去、多分、俺が病むキッカケになったスルトの一件について。あれが無かったら、今の俺はいなかったし、もっと違う人生を歩んでいた。
「俺の両親は、スルトに殺された。村がスルトに襲われて、弟も巻き込まれて。村の中で俺だけが生き残って、それでモンスターのことを激しく恨んだ。『モンスターを絶滅させてやる』って願ったりもした」
彼女はティーを飲む手を止めてまで、俺の話を真剣に聞いている。
「それで乗り越えたつもりだった、モンスターを絶滅させれば救われるって。でも心には嘘をつけずに、こうやって3人が生まれた。どうしようもないけど、これが事実で.......何というか.......その」
ここで、俺は言葉に詰まった。モンスターに家族を殺された同士、何か声をかけられるんじゃないか.......って考えていたけど、そうじゃなかった。両親を失ったのは誰のせいでもない、けど、バーンズ村が破滅したのは俺のせい。
俺はスルトと同じく加害者だ、心も弱いのに.......軽々しく彼女に声をかけていいものなのか。
「それで、私がどうしたの?」と彼女は聞いてくる。言葉に詰まっても、彼女は急かしたりせずに待ってくれている。ここは、自分が思ったことを素直に言おう。深く考えずに、そのままを。
「ルイさんは独りじゃない、俺たちがいます。それに、周りには色んな人がいます。だから.......お元気で」
変な言葉の締め方だったけど、彼女は笑ってくれた。ぶっちゃけ、このまま彼女と一緒にいたかったけど、それは時が許してくれない。そのまま彼女を宿まで送って、二言だけ会話して別れた。大丈夫、今度会う時までに頭の中を整理させとけばいい。また今度会うって.......約束したから。
「最後におじいちゃん……お父さんって言った方がいいのかな。あの人がおじいちゃんって呼んでって言うから呼んでたけど。おじいちゃんは最期に『エルドを信じろ』って言っていたの。『村に縛られるな』とも言っていたけど村は無くなったし。だから……私は貴方を信じる」
「……ありがとうございます」
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